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未来について話そう

THE FUTURE TIMES 9号の発行に寄せて


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 特別号の発行があったものの、8号から随分と時間が経ってしまいました。

 スタッフそれぞれに生活があり、かつ、それぞれが自分の余暇を持ち寄って、この新聞は制作されています。「継続は力なり」という言葉は、文字通り継続することの重要性を表すとともに、継続することは難しいのだということもまた、表しているのだと痛感します。

 震災直後の、どこかから湧き出た何らかの使命感を燃料に進んでいるうち、心も身体も、どうしたって平素の温度を取り戻してゆきます。「何かをしたい」の頭上から、日々のしなければならないことが降り積もって、歩む足が重くなることもあります。

 そんな季節を経て、なんとか9号を作ることができました。持続可能なペースと、自分たちの表現欲求とを擦り合わせながら、できる限り悪あがきしたいと思っています。

 今号は「新しい価値観」と題して、ユニークな人たちについて特集しました。ロックバンドのCHAIと作家の温又柔さんのロングインタビューと、僕の地元である牧之原のバイオガスプラントを取材しました。

 9号は12月26日から配布されます。年末の配送になってしまいましたので、地域によって多少のタイムラグがあります。お近くに配布先がない方は、随時アップされるWEBの記事もチェックしてみてください。紙面にはない記事も、引き続き制作してゆこうと考えています。

 最後に、紙面の僕の連載「未来について話そう」をここに引用します。



 未来について話そう

 「これだ」という楽曲ができる度に、「たった一曲で世界が変わるんじゃないか」と僕は思う。

 そうした誇大妄想はもろくも崩れて、世間的なヒット作としての評価は受けられずに、いつもがっかりしている。

 けれども、その曲が「ある世界」と「ない世界」のどちらがマシなのかと問われれば、間違いなく「ある世界」を僕は選ぶ。世界を変えられなくても、僕自身は間違いなく、その曲の誕生以前と以後では、何から何まで違う。

 これは音楽だけに限ったことではないと僕は思う。「社会をより良く変えたい」と願っていても、僕らにできることは少ない。

 たとえば、明日らか、誰しもが貧困や差別について考えなくても済むような発明はできない。

 ただ、差別や貧困のない世界を僕らが求めている社会と、求めていない社会とでは、大きな違いがある。どちらがマシかは言うまでもない。

 今後のテーマは「新しい価値観」。言い換えれば、オルタナティブ。

 世の中に履いて捨てるほどあるインスタントな「新しさ」のなかで、温又柔さんやCHAIの面々が持つ「朗らかさ」と「柔らかい強さ」こそが、時代の波風を乗り越えて、誰かの頰を撫でたり、背中を押したりする感触としての「新しさ」を持っていると思う。

 と、書いた側から、疑問に思う。「新しい価値観」ってなんだろう。

 世間的には、全然新しくないかもしれない。ちょっとだけ誇らしく胸を張るだけのことかもしれない。

 けれども、君や僕が昨日まで知らなかったこと、思いもしなかったこと、やってもみなかったこと、それらはずべて、君や僕にとっての新しい何かだろう。

後藤正文
2018年12月26日