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仲間内のサークルからはじまり、震災を経て非営利活動団体として復興支援に取組んでいる『幡ヶ谷再生大学』。取り組みのひとつである『農学部』では、農業を通して“食”や“環境” “社会”を考えようと、有機栽培による米作りが行われています。今回は農地を提供している『及川ファーム』の及川さんに、その活動について伺いました。

■ 幡ヶ谷再生大学 ホームページ

取材・文 後藤正文 撮影 TEPPEI

宮城県・涌谷町

自分の子どもの世代まで有機栽培の田んぼを残したい

後藤「どういう経緯で、こういった取組がはじまったんですか?」

及川「自分は農業のことを、ずっと『東北ライブハウス大作戦』の西片さんに話していたんですけど、まだどうやっていきたいかが定まっていないときにスタッフとして、ライブのお手伝いをさせていただいたんです。そういうときによく西片さんが言っていたのが “人と繋がれ” ということでした。 “人と繋がって、何したいかよく考えろ” って」

後藤「なるほど」

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及川「それで、両親がもう歳で、こういった草取りなどの農作業が結構しんどいということで、 “(有機栽培を)もう止める”となったんですけれど、ちょっとどうにかできないかなと。自分の子どもの世代まで有機栽培の田んぼを残したいなという気持ちがあるので、TOSHI-LOW(※1)さんにお願いして、 “何か『幡ヶ谷再生大学』で役立てることできませんか”っていう話で米作りが始まりました」

後藤「ご両親がもう止めようとした有機栽培の田んぼを引き継いでいるんですね」

及川「そうです。もともとは、高校卒業してから有機栽培のお米を栽培する農業生産法人に勤めていたんです。 “公共事業の閑散期に農作業をして従業員を生かそう” っていう建設会社のプロジェクトの農業生産法人で。そこで有機栽培を始めたんですけど、作るのはいいんですけど販売するっていうところまでいくとなかなか難しくて。私の目標は、お米の生産から販売までできたらなっていうところなのですが」

後藤「そうなんですね…。作った有機のお米はどうするんですか。『幡ヶ谷再生大学』で販売するとか?」

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及川「販売する予定です。一応、あとはボランティアで作業に参加してくれた方に差し上げたり。『幡ヶ谷再生大学』でやっている被災地での公園造りのプロジェクトの昼食用のお米として使ったりもします。将来は販売で得た利益を公園の遊具とかに使えたらなって…」

後藤「被災地に公園を作る『幡ヶ谷再生大学・復興再生部』のプロジェクトと一体になっているっていうことですね。そちらの作業は順調なんですか?」

及川「順調ですね。小渕浜っていうところなんですけど。『幡ヶ谷再生大学』の公園(子ども広場)造りの活動は、復興再生部と農学部が一緒にリンクして回っているようなかたちが理想かなって私は思っています」

農業で人と人の繋がりを増やす

後藤「やっぱり有機栽培っていうのは難しいですか?」

及川「そうですね。一般栽培っていうのは、一反あたり大体9俵とか10俵ぐらい米が穫れるんですけど、有機栽培の米は5俵から6俵ぐらいです。収量も落ちますし、今回はボランティアの方たちが手伝ってくれてますけど、人件費などのコストを考えると、一般栽培で作ったほうが農家としては……」

後藤「それを埋めるには、有機の付加価値がどうなのかってことですよね。食べる側が “いいもの” を望めば解決していきそうな問題ではあるんですけど…」

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及川「はい。でも、農家の後継者の平均年齢はどんどん上がっているみたいで、私も現在16ヘクタールの田んぼやっているんですが、毎年増えていくような形なんですね。 “お父さんが腰を悪くした”とか、 “機械がダメになっちゃったから田んぼ任せたい” とかいう人が多くて…」

後藤「後継者はやっぱりこのあたりの地域でも不足しているんですか…。若い人たちにとっては、収入などの魅力が少ないっていうことなんですかね。なかなか難しい問題ですよね…」

及川「今日もシルバー人材から派遣してもらったおじいちゃんに手伝ってもらってるんですけど、目標としては彼らの手を借りずに、自分たちだけでできればなっていうのがあるんです。ただ、シルバー人材のスタッフさんに賃金をお支払いしていることも、この『幡ヶ谷再生大学』の米作りの良さかなって思ってるんですよ」

後藤「こうやって、おじいさんたちが持っている技術を学んでいくっていうのはいいことだと思う。やっぱり後継者がいないと、その家だけでついえたり、米作り名人が技術を誰にも伝えないで米作りを止めたり、実際に全国で起こっていることですから。文化や伝統がどこかでバスンって途切れる。音楽とかも同じで、やっぱり伝統芸能との繋がりがない。いろんなところで自分たちの文化が寸断されている。きっと農業もそうなんだろうなと思ったらやっぱりそうでした。一方で希望を持てるのは、若い年代で “農業に入っていこう” っていう人が少なからずいるんですよね」

及川「そうですね。あとは公園を造るとかお米を作るっていうのはもちろん大切なんですけど、 “人と人との繋がりを増やしていけ” っていうのも公園造りのスタッフやTOSHI-LOWさんにも言われていて」

後藤「そういう動きはいろいろな場所でありますよね」

及川「一度、TOSHI-LOWさんにめちゃくちゃ怒られたことがあって…。Twitterで “今日もみなさまが田んぼに来てくれました” みたいなツイートをしたら、直ぐに電話が掛かってきて、 “お客さん相手にやってんのか” って……。 “みなさまじゃねえだろ、仲間だろ” って言われて…。一緒にやってもらってる仲間っていうこと忘れるなって……。しばらく凹みましたね」

後藤「確かに、そうですよね。ここに参加している人たちは、たとえば “3000円払ったから3000円分の米をくれ” とか、 “3000円分楽しませろ!” っていう参加の仕方じゃないですからね。つまり、お金は関係ない。確かにTOSHI-LOWさんの言っている通りですね。でも、あまり落ち込むことないですよ(笑)」

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及川「これまで農作業未経験だった方ばかりなんですけど、どういうふうに育っているのか、みんな田んぼが気になってるみたいで。嬉しいですね、そういう声を聞くと。正直もう、草と稲の違いを見分けて取ってもらえていること自体がすごいことです。こういう姿を見てると嬉しいです」

後藤「農作業を通して、食べるときや買うときの意識も変わると思うんですよね。例えば、値段が高くても顔が見えて安全なものを買おうとか、作った人の顔が見えるものを欲しいと思うと食べ物の選び方が変わる。そうすると “消費者” っていう呼び方が嫌ですけど、そうじゃなくなってくる。多分、TOSHI-LOWさんが言っていることも、そういう関係を嫌っているんだと思うんですよ。一方通行の関係じゃなくて、消費しない、もう少しありがたくいただくというような心持ち。そうなると、一気に社会が豊かになるんじゃないかと思うんです」

お金の話もちゃんとしないとダメなんだなって

及川「農協の悪口を言うつもりはないですけど、やっぱり農協にお米を出すと、生産者が誰なのか分からないような状態でスーパーとかに並べられてしまうんです。自分としては、自分が作ったお米を他の人の田んぼで作ったお米とは混ぜられないように、生産から販売までできたらなって思うんです。そうやって、農家が強くならないといけないのかなっていうのが、今すごく思っていることなんですけど」

後藤「なるほど」

及川「でも、農協さんでないと作った大量のお米をストックする場所がないんですよ。保冷庫もないですし。農家っていうのはそういうことができなくて、やっぱり農協に納めるっていう…。だけど農協に納めてしまうと生産者が見えないようなお米になって販売される。一等米、二等米、全部混ぜらてしまうので」

後藤「いろいろな農家のお米がブレンドされてしまうんですね…。お米を保管するには倉庫を建てて、保冷庫っていうのが要るんですか?」

及川「夏場はもう、虫がわいてしまうので」

後藤「なるほど。そういう保管の問題もあるとは……。農家の方とお話しすると、農協の問題点についての話になることが多いですけど、かといって縁を切るっていうわけには……」

及川「できないですね。農協さんから、機械代のローンを銀行と手を組んでやってたりもしますし」

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後藤「協同組合って、もともと形としては自分たちが楽になるように立ち上げているはずだから、もしかすると新しい組合や新しいあり方が必要なのかもしれないですね。組合や組織も形骸化していたり、ただの既得権益になっているようなものもある。そういう意味では『幡ヶ谷再生大学』のように、新しく繋がり直していくっていう方法もいいのかもしれないですよね。あるいは、ファンドみたいなものも必要なのかもしれない。よく話になるんですよ、最近。お金の話もちゃんとしないと駄目なんだなっていう。だから、たとえば太陽光発電とか、自然エネルギーも、新しいファンドが立ち上がって資金を融通しないと、やるやる言っても始まらないっていう……」

及川「銀行も保健も、ガソリンスタンドも、全部農協なので…。もちろん肥料買うのも農協ですし、お米の袋を買うのも農協ですから」

後藤「現実はそうなんですよね…」