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PUNPEE

アナログ世代とデジタル世代の中間にいるDJ/ラッパー/プロデューサーとして、遊び心あふれる、ユーモラスな活動で多くの若者を魅了して止まないPUNPEE。インターネット時代のアナログ・レコードの魅力、サンプリング、ブートレグ、そして自身の創作活動についておおいに語ってくれた。

取材・文:二木信 / 撮影:五十嵐一晴

新しいテクノロジーをいかに創造的に使うか、というのもヒップホップの醍醐味だと思う。

――お父さんがかなりのレコード・コレクターなんですよね。

PUNPEE 「まあ、そうっすね。父親はビートルズやリー・ペリー(※1)とか聴いていた世代で、いま55歳ぐらいです。自分は物心ついたときには家に大量のレコードがあったんです。父親が毎朝かけている音楽とコーヒーの匂いが混じり合った記憶が残ってて。子供のころは朝からレコードがかかっているのがイヤでしたね。針をずらして音止めて怒られたりしてた(笑)。そういう環境で育ったので、レコードに特別なこだわりもなかったんです。いまの若い人は透き通ってるレコードとか見ると、“なにそれ?”って言うんですけど、うちにはそういうのもあった。童謡が入ってるようなソノシート(※2)もありました」

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――最初にPUNPEEくんが買ったのはCDでした?

PUNPEE 「CDっすね。中学のころ、メロコアのバンドのサポートをやってて、最初に買ったのはまだ流行る前のオフスプリング(※3)とかです。ミクスチャー・ロック(※4)もですね。レコードを買うようになったのは、DJクラッシュ(※5)さんがテレビでターンテーブル2台とサンプリング機能のついてるミキサーを使っているのを観たのがきっかけでした。そのときのプレイがすげぇかっこよくて、バンドにDJを取り入れようと思ったのが最初です。バンドの延長線上でレコードに手を出したんです」

――DJをやるためにレコードを買いはじめた?

PUNPEE 「というか、スクラッチの音っすね。スクラッチがしたくてレコードを買いはじめたんです。機材を買ったのが、たぶん中3とか高1ぐらい。でも、ターンテーブルを2台買うお金がなかったので、1台買って、DJミキサーの片方のチャンネルにCDプレーヤーをつないで、ひたすらスクラッチしてた」

――お父さんはPUNPEEくんがレコードを買いはじめたときに何か言っていました?

PUNPEE 「“お前が聴いてる音楽はなんかチャラチャラしてるよな”って言われてましたね。逆に自分は親父の聴いてるソウルとかレゲエが最初はわかんなくて。“古い音楽を聴いて何がいいの?”みたいな。中学生のときはミクスチャー・ロックとかヒップホップを聴いてたんで。後になって、ヒップホップのサンプリング・ネタとしてソウルのレコードとかが使われてるのを知って、親父のレコード棚を掘ったらすごいことになってて。見せつけられたっていうか」

――なるほど。

PUNPEE 「親父の世代は今の人よりも耳が良いのかなって思うときもあって。親父に自分の曲を聴かせると、“音がシャリシャリしてる。なんでこんなに電子音っぽくなってんの”って言うんすけど、俺はその感覚があまりわからなくて。うちの親父はちょうどオーディオ世代なんですよ。自分で作っているわけではないんですけど、趣味ですごく良いアンプとか持ってた世代。母親のお兄さんもデカいアンプを持ってましたし。親父は、“何もすることが他になかったんじゃないの。弟はバイクが好きだったけど、俺は何もすることなかったからオーディオを集めてたのかも”って言ってましたね。今50〜60歳ぐらいの世代の人はオーディオが趣味の中心だったんじゃないですかね。俺らの世代でも、ケンウッドのいいコンポを持ってるヤツがちょっと尊敬されたりとかした感じに近いのかなって」

――石野卓球さんが『ele-king(※6)』のインタヴューで、「あれ(mp3)(※7)は個人で聴くものでみんなで聴くものじゃない。レコードはひとりで所有するものっていうよりもみんなで聴くものっていう俺の概念があってさ(笑)」って語っていて、その考え方にすごく納得したんです。

PUNPEE 「へぇぇ」

――その意見についてはどう思いますか?

PUNPEE 「音質の違いってことなのかな……。 もちろんMP3がうるさいのはわかりますよ。小さい音で聴いてたらあんまりわからないけど、いざクラブとかでかけるとうるさかったりしますよね。謎に音圧を上げているのが今の音なのかもしれないですね。だから、MP3やwav形式(※8)で発表した自分の作品がその後レコードになると、なんか落ち着くんです。一回wavとかMP3で落としてるんですけど……。なんか気持ち的に。落ち着くのがレコードの音っていうのは知識がない人でもわかると思う」

後藤 「デジタルの音って、それぞれの楽器がパキッと分離良くミックスされるんだけど、アナログにするとちょっと境界線がボケる感じがあるよね。馴染むっていうか」

PUNPEE 「なんか柔らかいんです」


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――PUNPEEくんはクラブとかでDJするときにmp3を使いますか?

PUNPEE 「俺はmp3なんですよ。昔はレコードを使っていたんですけど、今は基本的にPCでDJしてるんで」

――アナログのプレイから、トラクター(DDJ-S1)のITCH(※9)でのプレイに切り替えたということですね。そのきっかけはなんだったんですか?

PUNPEE 「ファットボーイ・スリム(※10)が自分の曲をエディットしたダブやリミックスをレコードでかけていたのは大きかったですね。しかも、すげぇアートワークがラフで。それこそ自分でマジックで書いちゃってる感じ。ただ、ファットボーイ・スリムがレコードを作れたのは、金があったからだと思うんですよ。俺も自分の曲をエディットしたヴァージョンをCDに焼いてDJで使ったり、自分の曲からサンプリング・ネタの曲にミックスしたくて。レコードでできるプレイもあるんですけど、レコードではできないプレイがPCを使うとできたんです。そこに可能性と自由を感じたというか、そっちのほうが楽しいなって」

――いつからですか?

PUNPEE 「ここ2、3年とかですね」

――日本のヒップホップの世界ではアナログ至上主義も根強いじゃないですか。葛藤とかはなかったですか?

PUNPEE 「いや、もちろんあったんですけど、レコードに強いこだわりがあると思われてる、ピート・ロック(※11)やDJプレミア(※12)といったアメリカの大御所プロデューサーやDJも、普通にPCを使っているんですよね。新しいテクノロジーに対して海外のほうが日本より圧倒的に柔軟だと思います。新しいテクノロジーをいかに創造的に使うか、というのもヒップホップの醍醐味だと思うんです。なんかアメリカの黒人のプロデューサーとか、いい意味で深く考えないっていうか。そこもヒップホップの良さだし、自由にやっちゃっていいのかなって思ってから、考え方が柔らかくなりましたね」

――日本人のヒップホップのプロデューサーやDJで、新しいテクノロジーに対して拒絶反応を示しちゃう人も少なからずいますよね。

PUNPEE 「なんか考えちゃうんでしょうね。ちょっと前は知識がある方がかっこいいって時代だったと思うんですよ。ヒップホップってそういうのあるじゃないですか。カット・ケミスト(※13)とかDJシャドウ(※14)がこのブレイクを使ってるとか、16個のドラムを切って使ってそれぞれにコンプレッサーをかけてるとか、そういう知識を持ってた方がかっこいいっていう時代があった。でもいまは、運動神経でかっこよく見せる方向に変わってきてる感じがしますね」

後藤 「運動神経っていうのわかる気がする。身体の方が重要になってきてる」

PUNPEE 「昔だったら、ラップにしても絶対この曲知ってなきゃかっこ悪いじゃないけど、そういうのあったじゃないですか。それが今なくなってきてて、運動神経に変わってきてるという気がします」

――ある種の『お約束』が幅を利かせていた時代はありましたけど、いまはそれが崩壊してきている気はしますよね。

PUNPEE 「今の若い世代が年上から“90年代のあの曲知らないの? チェックしてないの?”とか言われても、ウザいと思うし。いまの若いヤツらは知識がなかったとしてもほんとにラップが上手いし、リズムの取り方とかもすごくかっこよくなってる。日本語でも口の弾き方でかっこいいリズムが取れたりするし」

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後藤 「オレも最近の日本のラップを聴いててすごいと思うのはリズムですね」

PUNPEE 「弟のs.l.a.c.k.(※15)(現5lack)を見ていてもそうだし、単純にラップが上手いヤツが増えてて、“かっこ良ければいい”みたいな運動神経に変わってきてると思う。だからアナログに関しても、もちろん音はすごく良いし、大事な文化ではあるけど、どこまでおもしろくできるかっていう部分では、セラートだったりデータでも全然いいと思うんです」

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PUNPEE(ぱんぴー)

東京生まれ。DJ/ラッパー/プロデューサー。2007年、実弟でラッパー/トラックメイカーのスラック、ラッパーのガッパーと共にヒップホップ・グループ、『PSG』を結成。2009年、デビュー・アルバム『DAVID』を発表。ユニークな作風が、ヒップホップ/ラップのジャンルを超え、多方面から賞賛を浴びる。DJとして、『Movie on The sunday Anthology』をはじめ、数枚のミックスCDをリリース。ラッパーへの楽曲提供やリミックス等多数。今最もソロ・アルバムが待たれるヒップホップ・アーティストのひとり。
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■注釈

(※1)リー・ペリー(リー“クラッチ”ペリー)

1936年ジャマイカ生まれのレゲエ/ダブミュージック界の伝説的プロデューサー。ジャンルとしてのレゲエの確立に多大な影響を及ぼした人物でありながら現在もライブ、レコーディングと精力的に活動し、“生きる伝説”と言われる。

(※2)ソノシート

1950年代後半に登場した、通常のレコードよりもはるかに薄い形状のレコード。廉価で大量生産が可能、薄くて曲げやすいこともあり、雑誌などの付録によく用いられ、主に60年代から80年代に人気を博した。

(※3)オフスプリング

1984年にアメリカのカリフォルニア州オレンジカウンティにて結成されたパンクバンド。90年代初頭にアメリカ西海岸を代表するパンクロック・インディ・レーベル『エピタフ』と契約して以降、メロコアやストリートカルチャーのムーブメントを先導した。97年にはメジャー・レーベルと契約。その後も現在までパンク・スピリットとエンターテイメント性を兼ね備え、西海岸を代表するバンドのひとつとして活躍し続けている。

(※4)ミクスチャー・ロック

90年代中期から後半にかけて登場したアメリカのオルタナティブ・ロックバンドの潮流を受け、日本でも多くのジャンルレスなロックバンドが登場。ロック、パンク、メタル、ハードコア、ヒップホップなどを掛け合わせた楽曲で人気を博した。日本国内ではこれらの楽曲ジャンルを総じて『ミクスチャー・ロック』と呼ぶが、これは英語圏では通じない和製英語といわれる。

(※5)DJクラッシュ

1962年生まれ、日本のヒップホップDJ/プロデューサー。80年代後半から原宿などストリートで活動をスタート、その後『KRUSH POSSE』を結成、日本初のターンテーブルを楽器として操るDJとして注目を浴びた。90年代からはDJひとりで表現できる音楽を模索、イギリスのMO’WAXレーベルと契約した後は、トリップ・ホップと呼ばれるムーブメントを牽引した。現在はエレクトロニカのジャンルで世界的に評価されている。

(※6)ele-king

“世界初のテクノ雑誌”として1995年に創刊。紙メディアとしては2000年に休刊したが、2010年にWEBメディアとして復活し、時を同じくして誕生したライブストリーミングサイト『DOMMUNE』とともに展開される。2011年には紙媒体も復刊、現在はテクノに限らず様々な先鋭的な音楽やカルチャーを扱う。

(※7)mp3

デジタル音声圧縮技術のひとつであり、その音声ファイルのフォーマットの名称でもある。MP3はCDをはじめとする音源媒体からPC、各種ハードディスクドライブへと音楽を取り込むことが容易であり、MP3に対応する携帯型音楽プレイヤーも多く存在している。

(※8)wav形式

Windows標準の音声データファイル形式のひとつ。

(※9)トラクター(DDJ-S1)のITCH

パソコン用DJソフトウエア・コントローラーのひとつ。パソコンに取り込んだ楽曲をレコード用ターンテーブルで自在に操ることができる。

(※10)ファットボーイ・スリム

1963年生まれ、イギリスのミュージシャン/DJ。“ダンスとポップの橋渡し”と自らを評する通り、キャッチーなメロディーとデジタル音楽のビート、そして実際の楽器までを駆使して制作される楽曲は『ビッグ・ビート』というジャンルを築き上げ、全世界的な人気を博す。

(※11)ピート・ロック

1970年生まれ、アメリカのニューヨーク州ブロンクス出身のヒップホップアーティスト。90年代半ばまでに、アメリカ東海岸におけるヒップホップの完成形を築いたとされ、このシーンの最重要プロデューサーのひとりである。

(※12)DJプレミア

1966年生まれ、アメリカのテキサス州ヒューストン出身のヒップホップ・アーティスト。シーンを代表するプロデューサーのひとり。1985年に結成したヒップホップ・デュオ『ギャング・スター』は2005年解散までの20年間、ヒップホップ界に伝説を築いたとされている。

(※13)カット・ケミスト

アメリカ出身のミュージシャン/DJ。ロサンゼルスで結成されたオルタナティブ・ヒップホップグループ『ジュラシック5』の元メンバーであり、現在はソロのDJとしての活動が多い。熱心なレコードコレクターでもあり、ターンテーブルとサンプラーを駆使したDJショウは唯一無二とされる。

(※14)DJシャドウ

1973年生まれ、アメリカはカリフォルニア州出身のミュージシャン/DJ/ターンテーブリスト。ターンテーブルとミキサーのみを用いて作られた96年のファースト・ソロ・アルバムは音楽史に残る傑作として賞賛された。以降もソロ活動のみならず、自身のレーベルの運営や、著名アーティストとのコラボレーションなどにも積極的に活動している。

(※15)s.l.a.c.k.

1987年生まれ、日本のヒップホップMC/トラックメイカー。PUNPEEの実弟であり、PUNPEEとその友人GAPPERとのユニットPSGの一員。日本におけるヒップホップ新世代を象徴するといわれる存在。