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箭内道彦

■5/30(水) 後編公開しました!!→記事はこちら

東日本大震災という大きな出来事を経験した私達は、これからどんな“未来”を作っていけるのでしょうか。「THE FUTURE TIMES」では、これから時間をかけて、様々な人の声を紹介していきます。今回は福島県出身で、東日本大震災以前から福島出身のミュージシャンたちと猪苗代湖ズを結成し、福島を盛り上げてきたクリエイターの箭内道彦さんに現在の福島への想いを伺いました。
■対談実施 2012年2月2日

取材:川口美保 構成:千葉明代 写真:外山亮介

福島が好き”という気持ちは、みんな一緒

後藤「震災から1年、新しいスタートを切っている人たちも多い中、福島は原発の問題もあり、他の被災地とは違う重いものを抱えています。そういう中で今の現状を伝えいければと思って、今日は福島のスポークスマンである箭内さんにお話を伺いに来たんです」

箭内「僕はスポークスマンではないんですよね。福島で行われる復興会議的なものにも参加してないし、その動きもしてないし、でもそれを拒絶してるわけでもない。俺、何やってんのかなあと考えると、ただ、なんか、ばあちゃんの肩叩き、みたいな役割というか、それは言葉そのままの意味で、肩揉んだりしてるだけなんだなあということを最近あらためて感じているんですよ。
 原発や放射能に関してはいろんな考えの人がいるじゃないですか。だけど、考えの違う人をどう否定して、自分をどう肯定するかということが、今の社会にすごく横行しているように思えるんですね。悪いのはお互いじゃないのに。だけど考えの違う人を否定しないと、自分がギリギリで選んだ道が見えなくなるから、他のものを否定しなくては前に進めない気持ちもみんなわかっていて、ある種、福島の人たちは、この1年、何を選んでも正解じゃないものの中から選ばざるを得なかったと思います。そういう人たちが仲良く、というのは無理ですけど、そこで喧嘩することをやめさせることはできないかっていうのを、最近は考えているんですよね。
 最近僕はよく“同じ船”と呼んでいるんですけど、猪苗代湖ズの『I love you & I need you ふくしま』という歌も、避難した人もいれば、避難しない人もいれば、避難できない人もいれば、避難したくないのにする人もいて、でもみんな、“福島が好き”という気持ちは一緒だよね、っていうか、最大公約数になりたいなと思ってやっているんです。ただ、あの歌は、どうしても“内側に残っている人にとってのもの”と受け止められているみたいで、避難していった人にとっては、“大事な故郷を捨てたと突きつけられる時があってつらいんです”ということを聞くこともあって」

後藤「なるほど」

箭内「でも僕はそういうつもりはやってないんです。言い合いすることや、相手を言い負かすことをなんとかやめさせられないかなって思っている。放射能なんて、宇宙人がやってきているようなものじゃないですか。宇宙人が攻撃してきたら、地球人はみんなひとつにならざるを得ないはずなのになあって、そんなふうにぼんやり思っていて。だから実際に復興をどうするかという具体的なことは、まったくちゃんと考えられていないです。でもそういうのって手分けじゃないですか」

後藤「はい」

箭内「ミュージシャンの人たちも、震災直後に動いた人もいれば、3ヵ月後くらいから何かをはじめた人もいるし、今、1年経っていい形で支援をしてる人もいる。全員がダッシュで息切れしちゃうよりも、みんながそれぞれ、先発・中継ぎ・押さえじゃないけど、そういう様子はすごくいいなと思っているんです。この『THE FUTURE TIMES』が出るタイミングも含めて」

後藤「ありがとうございます。僕は、忘れないチームでいようかなと思っています。だいたい2年くらいするとみんな忘れていくので」

箭内「福島の人たちと話していても、みんな共通して“忘れないでほしい”って言ってます」

後藤「いろんな問題を話す時に、代弁できないなっていうのがあって、代弁してしまうことが一番無神経なんじゃないかなと思うんです。だから“聞きに行こう”というスタンスなんです」

箭内「代弁できないですよね。200万人いたら、200万通り代弁しなくてはいけないし、まとめの代弁というのがまったく不可能なんですよね、今ね」

後藤「まとめると、結局カタカナの“フクシマ”みたいところに集めていって一般化していってしまう。僕はそれが好きじゃなくて、だから、一人ひとりの声を拾うという方法でやっていこうと始めたんです。でも正直、東北でも宮城や岩手はテーマを絞りやすいんですよ。津波被害に対してどうリアクションするかということだから」

箭内「“復興”という言葉で向かっていけますもんね」

後藤「でも福島は、さっき箭内さんが言ったように、矢印がいろんな方向に向いている。だからもう丹念に拾うしかないと思うんですよね」

箭内「僕や猪苗代湖ズのメンバーは、福島出身者だし、猪苗代湖ズのあの歌は震災前からあって、2009年、2010年と福島決起集会みたいなのをやっていたので、その成り行きみたいなところもあるんだけど、でも、なぜ、ゴッチがこういうことをやっているのか逆に聞いてみたいんですよね。だって、実家、どこだっけ?」

後藤「静岡です」

箭内「僕は今回、福島がこういうことになったことであらためて反省したんですよ。阪神淡路大震災のときに自分は何をやったんだっけと思い出してもわからないし、沖縄のこともどれだけ自分は勉強したかなと思うと、それもあやふやだったなと思ったんですね。沖縄に6月に行ったんですけど、すごく沖縄のことが急に実感できちゃったんですよ。福島のことがあった後に」

後藤「基地の問題ですか」

箭内「基地のこともそうだし、6月23日って“慰霊の日”なんですよね」

後藤「そうですね。戦争によって民間人が巻き込まれた沖縄の、終戦記念日ですよね」

箭内「今までそういうことも何も知らないで過ごしていたなと思ったんです。それですごく後悔したというか……」

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箭内道彦

箭内道彦(やない・みちひこ)

1964年福島県生まれ。東京芸術大学卒業後、博報堂に入社。2003年『風とロック』を設立。10年、福島県出身である山口隆(サンボマスター)、松田晋二(THE BACK HORN)、渡辺俊美(TOKYO NO.1 SOUL SET)とともにバンド『猪苗代湖ズ』を結成。11年3月にチャリティソング『I love you & I need you ふくしま』を発表した。