HOME < 今泉亮平さん×木下理樹×後藤正文 -Thinking about our energy vol.0.5

今泉亮平さん(再生可能エネルギー推進協会理事)×木下理樹×後藤正文

バイオガスプラント事業に携わっている再生可能エネルギー推進協会理事の今泉さんを迎えて行った「Thinking about energy vol.0」。続く「Thinking about energy vol.1」では、国民のエネルギーに関する問題意識が高く、再生可能エネルギーへの取り組みが進んでいるドイツに訪れ、日本との温度差を感じたという木下理樹さんと再び今泉さんにご登場いただき、ドイツの国民の姿勢を通して日本のエネルギー問題について考えた。

構成/文:後藤正文・THE FUTURE TIMES編集部 写真:栗原大輔

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後藤 「木下君はいつドイツに行ったんだっけ?」

木下 「6月に10日間くらい、ひとりで行ったんですよ。僕はドイツに昔から興味があったんですよ。大戦のときに同盟国で、日本とドイツって同じ民主主義でもだいぶ違っているじゃない?」

今泉 「そうですね」

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木下 「今回どうしてもドイツに行きたいと思ったのは、原子力問題で。これまで3割依存していたものを無くすと発表しましたよね? 先進国の中ですごく早く。実際、普通に生きている人たちはどう思っているのかなっていうのを知りたくて。それが今回、ドイツに行った動機ですね」

後藤 「実際、ドイツはどうなんですか?その辺りは進んでいますか?」

今泉 「原発をやめようとドイツ政府が決めたのは、20年くらい前ですね。メルケル首相は保守的で、キリスト教民主同盟が政権に座ってから、なかなか再生可能エネルギーを増やすのも大変だから、新しくは作らないけどもう少し原発を長引かせようと、今までは2020年に原発を全て無くすという政府の方針だったけど、あと10年くらい延ばそうと方向できていたんです。緑の党や一般国民は大反対をしていましたが。ところが、福島での原発事故を受けて、メルケル首相が決断して “すぐにやめよう” という判断になったんですね。国民の意思が完全にそちらに向いてしまいましたからね」

後藤 「ドイツは完全に、原発をなくす方向に舵をきっているんですね」

今泉 「そうです。元々20年前から舵をきっているんだけど、それがちょっと緩んでいたんですね。でも、“3.11” があって再度仕切りなおした。今動いている原発は2機か3機って話ですね」

後藤 「木下君は、実際ドイツに行ってみてどう感じました?」

木下 「僕はドイツに10日間行っていて、実際国民は原発についてどう思っているのかを聞いてみたんです。“危ないからしょうがないよね” と言っていましたね。原発産業に携わっている人も “NO!” と言っていて。市民の力が日本では考えられないくらい強いんですよね。僕が10日間行っているうち、5日間デモが起きていて。 “これ何のデモなんですか?” って尋ねたら、『チャリ(自転車)デモ』だったんですね。原発は無くす方向だからそのデモではなくて。 “車はエネルギーを使うから極力使うな” っていうデモが2日に1回起きていて」

後藤 「“車に乗るな!”っていうデモなんだね」

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木下が緑の党でもらってきた数々のパンフレット

木下 「なんてモラルのある国なんだと思ったんだよね。それから、ドイツの本をすごく読んだんだけど、これはつまり、過去の負の部分と向き合い続けてきたんだと思ったんだ。僕は戦争を知らないから軽々しく言える話じゃないけど、ベルリンの壁を見たんですよ。そこで死んでいった人達の墓とか、ヒットラーの家でさえも公開している。これはすごいなって思ったんですよね。そこまでしなきゃ他の国との外交問題で信用がないから、真剣に向き合ってきている。ドイツの人たちは、過去、歴史に翻弄されてきたっていうか、同じ国で壁があるとか、そこから市民の力が強くなったと思うし、そこは見習うべきところだと思う。この時期に行って強く思ったんだよね、一生忘れないと思う」

後藤 「ドイツは、再生可能エネルギーの取り組みは、かなり早かったんですか?」

今泉 「そうですね。20年前、原発をやめようとなったときに、これから再生可能エネルギーになるだろうと。それまでもドイツ国民は環境には敏感で、ダイオキシンの問題や重金属の問題もシビアなハードルがあって、規制がすごいんですよ。そういう点で、ドイツは相当進んでいましたね。今、木下さんのお話を聞いていて思ったのは、ひとつは戦後ヒットラーの影響でひどいことになって国が東西に別れてしまって、非常に辛い思いをしましたよね。確かにその反動っていうのはある。だけど、潔さがある。ベルリンの壁にしろヒットラーの住居にしろ、ミュンヘンのそばに昔のユダヤ人の捕虜収容所ダッハウがあるんですけど、それを未だに公開していて。ユダヤ人を焼いた焼却炉まで全部残っていて。ドイツ人が自分たちの犯した罪に対して、いかに真剣に贖罪しているかっていうことを強く感じます。今までの負の部分を清算しなければ未来はないっていうね。ドイツ人は、そういうことに対して真剣に取り組んでいるんですね」

木下 「何百万人殺したんだっていう、いわゆるジェノサイドだったから。戦争だけでは語れない側面だから、そこを見なきゃ外交関係が成り立たない。僕は、ドイツが過去とどう向き合ってきたかっていう本を読んで、実際今はどうしているんだろうって思いで行ったところもある」

エネルギー、政治、市民、というトライアングル

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後藤 「今泉さんはドイツに行かれる機会がたくさんあると思うんですが、市民のエネルギーに対する考え方はどうなんですか?」

今泉 「先ほどの話に戻りますけど、ドイツは歴史が始まって以来戦争の歴史ですよね。スイスは未だに永世中立国でしょ。ああいう国も結局いつ戦争が起こるかわからないっていう体制をとっている」

後藤 「スイスは、軍隊がありますからね」

今泉 「エネルギーの問題にしても、戦争が起きたらエネルギーはどうなるだろう?っていうことを常に考えているんですね。ドイツに限らずヨーロッパの国々は、いつでも戦争は起こりうるんだっていう考え方でいるんですよ。エネルギーも常に自国で確保しなきゃいけないと思っているんです」

後藤 「出来る限り輸入に頼らないということですね」

今泉 「そうです。それともうひとつは、エネルギーを何で確保するかということです。石油は無くなりつつあると同時にアラブが握っている。天然ガスは、ロシアが握っている。こう言ってはなんですが、西側に比べてどちらも不安定な政情の国ですよね。そういうことを考えても、自国でエネルギーを作らなければならないと。太陽、風力、水力、バイオマス、地熱、再生可能エネルギーなら自国でもできると20年くらい前から動きだしたわけです」

後藤 「木下君は、実際に行ってみてドイツ市民のエネルギーに対する意識が高いと思ったの?」

木下 「高かったね。電車はよく止まるんだよ、労働者がめちゃくちゃストライキを起こすから。つまり、生き方とか考え方の問題になるよね、国民性。ドイツは、陽が出ている時間が長いから太陽、風力、水力、バイオマスとかいろいろあるんだろうけど、根本的な問題だよね。みんな自分の生活を守るために戦っている、人任せにはしていない」

後藤 「主張をするということだよね」

木下 「そうだね。ストライキの多さは日本とは比にならないね」

後藤 「行動力が違うんだろうね、考えてもいるし」

木下 「市民は政府をあんまり信用してないって言ってたね。ドイツの市民と結構話して、“日本人に伝えたいメッセージはありますか?” って尋ねたら、“日本の福島の状況とかは、ほとんど知っている。日本国民は、政府を信用し過ぎじゃないのかな” って言ってましたよね」

後藤 「なるほどね」

木下 「結局、そこに戻っちゃうよね。本当は、エネルギー、政治、市民っていう3つのトライアングルになるべきもので。今日本は歪なトライアングルになっている。それはドイツに行って思ったこと」

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今泉亮平

今泉亮平(いまいずみ・りょうへい)

1941年東京生まれ。戦災の残る東京で幼少年期、復興期に高校、大学を過ごし、高度経済成長期に就職。40歳で独立しドイツ企業の代理店業務をスタート。90年に廃棄物処理プラントに関わり、95年にバイオガスプラント業務をスタート。石油文明隆盛の中で生き、その贖罪として余生を再生可能エネルギーの普及を願い友人たちと2006年にNPOを立ち上げ活動中。孫が成人する頃の100%自然エネルギーの社会を夢見る。
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木下理樹

木下理樹(きのした・りき)

'78年10月生まれ、大阪府出身。ART-SCHOOL、killing Boyのボーカル、ギター担当として活動している。ロックに限らず幅広い音楽に精通し、映画好きとしても知られる。2010年、ART-SCHOOLは結成10周年を迎える。2011年12月29日(木)の『COUNTDOWN JAPAN 11/12』のステージをもって、宇野剛史(b)と鈴木浩之(ds)が脱退することが先日発表された。
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