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未来について話そう

THE FUTURE TIMES 8号の発行に寄せて

 

tft08_hyo1.jpg 震災から5年が経ちました。あっと言う間に過ぎた3年目という節目から、どこへも進めていないような気がして、胸の奥が焦燥感でギリギリと締めつけられます。

 一方で、中央集権的な意味での「東京」は、オリンピックを旗印にグングンと加速して、そのスピード感に目まいがします。「聖火台のないメインスタジアム」や「免震棟のない原子力発電所」。そんな冗談みたいな話題を撒き散らしながら、僕らの社会は一体どこに向かって進んでいるのでしょうか。

 それでも、僕らの手のなかでクシャクシャになった「誠実さ」のようなフィーリングが、誰しもの手のひらにもあることを信じて、僕は仲間たちと『THE FUTURE TIMES』の8号を作りました。



 特集テーマは「5年後の現在地」です。

 まずは、5号でも大反響をいただいた記事の続編として、赤坂憲雄先生と共に宮古から南三陸町まで、三陸沿岸を歩きました。そして防潮堤や嵩上げなど、大規模な土木作業が進む東北地方沿岸の町々を巡りながら、「身の丈」、「小さな成功例」などをキーワードに震災からの復興について語っていただきました。

 また、本誌には何度も協力してくださっているジャーナリストの安田菜津紀さんと佐藤慧さんの取材に同行し、おふたりにはそれぞれ、長くその歩みを記録されている陸前高田にまつわる記事を寄稿いただきました。

 今号では、作家の古川日出男さんと沖縄の南部戦跡と米軍基地、茨城から福島に広がる常磐炭鉱と福島第一原発のある双葉郡を旅して、距離だけでなく時間軸を跨いで、「Not In My Back Yard」問題についても考えました。「自分の裏庭になければいい」様々な施設を、我々はどんなところに委託して生活しているのか。外部と内部を隔てるもの、それを飛び越える力とは何か。震災の前からずっと考えていたことを、古川日出男さんの明晰な言葉とイメージの力を借りて文章化しました。是非とも読んでいただきたい記事です(発売中の「新潮」4月号にも古川さんとの対談が掲載されています)。

_W1A8908.jpg その他、二階堂和美さんと寺尾紗穂さんのインタビューも掲載します。ふたりの温かい視点には学ぶことがたくさんありました。そんな温かみを象徴するかのように、惣田紗希さんが素敵な表紙を描いてくださいました。

『THE FUTURE TIMES』8号は3月28日から配布します。配布先についてはトップページから配布先リストのページに移動できますので、そちらでご確認ください。

 この新聞は無料です。震災の直後に仲間たちと「お金以外に寄付できることはないか」と考えて、制作をはじめました。今でも僕は震災後の無力感を思い出します。本当に、自分にできることは何もないのだと思い知らされるような巨大な出来ごとの真っ只中から、「それでも何かがしたい」という小さな力を持ち寄って、その想いをたよりにこれまで進んできました。どのくらい続ければ、その「何か」に辿りつけるのかはわかりませんが、こうして5年間続けられたことを嬉しく思います。

 どこか窮屈さを増しているような社会のなかで、世の中を照らす灯火のひとつとして、これからも未来に対するポジティブなイメージを発信し続けたいです。

 8号が皆様の手に届くことを願って。

THE FUTURE TIMES 編集長
後藤正文

2016年03月13日