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未来について話そう

THE FUTURE TIMES 5号の発行に寄せて


 THE FUTURE TIMES 第5号が完成しました。

tft5_hyo1.jpg 今号の特集は「震災を語り継ぐ」です。7月31日から配布がスタートします。

 例えば、「これより下に家を建てるな」という石碑は年月によって朽ち果てて、町や村の風景の中に埋もれてしまう。また、多くの民俗史や郷土史の書籍に震災の記憶が書き綴られるけれど、誰にも読まれなくなって風化してしまう。そういう歴史の繰り返しの中に私たちは生きています。

 一方で、「津波が来たら高台にそれぞれ、てんでんばらばらに逃げろ」という防災教育が多くの小中学生の命を救ったという例もあります。この『津波てんでんこ』という教えは、教訓を残すということの大切さと共に、伝えていくこと、共有していくことの重要性を私たちに伝えているのです。

 そして幸いにも、様々な防災に関する情報を、住んでいる地域を越えて共有することが可能な時代になりました。これは本当に、とても大きな希望だと思います。

 そういう視点から、紙面では災害を記憶するための方法について考えます。そして、この震災だけでなく、千年前の東北から現在まで、復興と未来、福島から始まった新しい取り組みについて、『東北学』の赤坂憲雄教授に語っていただきました。一万字を越えるロングインタビューです。

 毎号掲載している「Connecting the dots 〜福島からの言葉〜」という記事では、その赤坂教授のインタビューでも触れられている、福島の会津からはじまった『会津自然エネルギー機構』の立ち上がりについて紹介します。


 そして今号には、創刊以来構想を練っていた「贈与」についての記事を掲載します。何度も書いてきましたが、私にとって新聞を作ることは「行動を社会に寄付」することです。震災直後、募金の宛てどころのなさと手応えのなさにショックを受けた私は、「行動」もお金と同じように寄付できるのではないかと考えました。思えば、被災地で活動しているボランティアの皆さんは、まさに「行動」を寄付したことになりますよね。

 そういう考え方について、内田樹さんと釈徹宗さんに、それぞれ「贈与」と「お布施」という視点から明快に語っていただきました。記事のタイトルは『贈与とお布施とグローバル経済』です。そう、この経済一辺倒の流れに対するカウンターとして、様々なヒントが「贈与」と「お布施」にはあります。是非、皆さんに読んでいただきたい記事になりました。

 その他、原子力発電と遺伝子組み換え作物の以外な共通点を記録した映画『世界が食べられなくなる日』のジャン=ポール・ジョー監督、スピッツの草野マサムネさん、ACIDMANの大木伸夫さんのインタビューも掲載します。


 今号は、今回の参議院選挙の結果だけに捕われず、もっと長いスパンで物ごとを考え、私たちの子供や孫の世代に向けて何を語っていくのか、残していくのか、そいう普遍性のある記事を作ることができたと思っています。

 歴史の教科書は時の権力が作ります。それは往々にして目が粗く、我々が簡単に改編できるものではありません。それでも、私たちには言葉があり、ペンがあり、それを残すコミュニティがあります。これは民俗史であり、郷土史でもあります。何も権力の側に立たなくても、そうやって繋いでいくこと、残していくことができます。その言葉に未来の世代が自由にアクセスできるとしたらどうでしょうか。30年、50年先のことを考えて下さい。

「震災を語り継ぐ」という特集には、そういった大きなテーマを込めたつもりです。皆さんに届いてくれたら嬉しいです。紙面から、実社会に、画面の外に、取り出してくれたら本望です。

 Web版も随時更新していきますので、よろしくお願いします。

2013年07月24日