THE FUTURE TIMESの増刊号の発行が決定しました。
今回の特集はレコードストアデイというイベントに合わせて、丸ごと一冊「音楽と未来」です。
東日本大震災からの復興やエネルギーの問題などを通して、「未来について考えよう」というテーマで発行してきた新聞ですから、このように音楽だけの特集をすることは、本来の新聞のテーマから少し離れたように感じるかもしれません。ですが、僕は音楽の現場で起きていることも、現代の空気を映す鏡のひとつだと考えています。
今回の特集号では、音楽の作られ方や聴かれ方、音楽の現在と未来について佐野元春さんに語っていただきました。音楽の現状、特にポップミュージックについて話をする場合、どうしても「CDが売れなくなった」というようなネガティブな話題になるように感じます。でも、そういった音楽ソフトの売上げ枚数や額面、つまり産業側からの視点だけで音楽全体が衰退しているように語られることには違和感を覚えます。そのあたりの感覚と音楽の未来について、佐野さんは明確に、ポジティブな言葉を発して下さいました。インタビューのタイトルは「僕らの音楽は鳴り止まない」です。詳しくは紙面をご覧下さい。
それから、今回の特集では、8名のDJ/ミュージシャンにアナログレコードへの愛着とその魅力について、合わせて「音楽とメディア」について語っていただきました。レコードだけではなく、CDやMP3などのデータ配信についても話していただいています。ワンクリックで楽曲のファイルが手に入る便利な時代に、どうして身体性のある「容れ物」にこだわるのか、あるいはこだわらないのか、とても面白いインタビューになりました。
以前に行った中沢新一さんとの対談でもありましたが、音楽というのはもともと価格のつけようがないものだったと思います。才能に対して、尊敬や畏怖といった念からはじまって、そこに対価がいろいろなかたちで支払われるという流れだったはずです。けれども、現代では基本的に対価は前払いですよね。何よりもまず、お金のやりとりが先に来ます。もちろん、それを悪だとは言いませんが、何か少しずつ、作る側も受け取る側も、音楽のやり取りに双方向から宿されていた尊敬とか愛情とかいうフィーリングを忘れつつあるのではないかと感じます。
それはなにも音楽だけではなくて、大量に何かを買って、使い、捨てていく時代のあちらこちらで起きていることなんだと思います。極端な喩えですが、僕たちは豚を食べるときに豚の屠殺現場のことを考えなくてもいいような便利な世の中を生きています。
もちろん、「今まではずっと夢物語のようなクリーンでピュアな世界だったんだ!」などとアナログレコードの時代を誉め立てるつもりもありません。ただ、こうしていわゆる「不便」なアナログレコードが見直されていること、世界中でCDショップがなくなりつつあること、データ配信がどうやら主流になっていくこと、そういう移り変わりの中で見えてくることが沢山あります。
THE FUTURE TIMESの増刊号は、繰り返しますが、丸ごと一冊「音楽」の特集です。ですが、これは喩え話です。一号丸々、僕らの日々の中にある何かを映しています。「それってなんのことだろう?」そういう号になってくれたら嬉しいです。
ちなみに、5号はこれから取材が始まります。夏前にはお届けする予定ですので、しばらくは「音楽」の特集をどうぞ。
<RECORD STORE DAYとは>
RECORD STORE DAYは海外や国内のレコードショップとアーティストが一体となって、近所のレコードショップに行き、CDやアナログレコードを手にする面白さや音楽の楽しさを共有する、年に一度の祭典です。限定盤のアナログレコードやCD、グッズなどがリリースされ、多くのアーティストが各国でライブを行ったりファンと交流する日です。