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多様性と未来 | 乙武洋匡

教師の仕事は好き、でも職員室に向いてなかった

後藤「僕、目が悪いことをたまにライブでいじられるんですよ、『おい、メガネ』って。それで怒ったことあるんです。『好きで目が悪いんじゃねーんだ! ホクロがある人をホクロって呼びつけたりしないだろ、なんでメガネって言うんだ!』と。目が悪い人は“メガネ”って呼んでもオッケーというのは、幸か不幸かいじっても許される話題になっている。それに耐えられない自分の小ささを恥じますね。乙武さんの本も、読みながら赤線を引いてるんです」

 小さい頃から、「すごいね」と言われつづけてきた。字を書いた。走った。ボールを蹴った。僕にとっては、すべてがあたりまえのこと。だが、周囲にはそうは映らなかった。「手足がないのに、そんなことができるなんて」  僕の“あたりまえ”に目をうるませ、「私も頑張らなきゃ」と自身を奮い立たせる人々がいた。そんな視線を、僕は幼い頃からずっとわずらわしく思ってきた。

(乙武洋匡『希望 僕が被災地で考えたこと』p.145-146より)
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後藤「乙武さんがサッカーができるのは、スゴいと思います。ツイートをどうやってしてるかの写真もアップするじゃないですか。あれを見たらスゲー!ってなりますよ。そんな風に俺たちは思うけど、本人の視点から『そういうのもなんだかな、と思うことがある』って書いてある。自分は恥ずかしながらそういう想像力を持ててなかったから、大きな気づきだったんです。それをまた本に書くこともスゴいし」

乙武「ありがとうございます。僕は1冊の本でも、Twitterと同じように緩急をつけていますね」

後藤「ただ、Twitterは即興的でライトにいけるのに比べ、本はみんな覚悟して読むから、使い方をよく考えられているな、と思いました」

——元の教え子さんはフォロワーにいたりするんですか?

乙武「これが、いるんですねぇ(笑)。でも、まいいかなって。あと、保護者の方とかね」

後藤「あの先生、あんなエロかったんだって」

乙武「お前らおっぱい揉むだけでいいのか!って、昨日つぶやいたけど、それってどうなのかね(笑)。『うちの息子、こんな先生に預けてたのかしら、3年間も…』って思うかな」

後藤「ははは(笑)。乙武先生は話がとても上手で楽しいから、人気教師だったんじゃないかと思いますけど、学校生活は大変でした?」

乙武「いや、楽しかったですよ。ただ、教師にはたぶん向いてるんですけど、職員室には向いてなかったですね。職員室というのは、おそらく昔から横並びが重視されていて“事なかれ主義”が横行している場所なので、こういう規格外の人間が行くと、どうも向いてないみたいで。子供たちとガチンコで向き合う教室の中で、本当に楽しく生き生きとやりたいな、って思います」

後藤「これくらい学校の先生が楽しく接してくれたら、僕も真面目な生徒だったかもしれないな」

この人はこう、と決めつける今の社会

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後藤「さっき、乙武さんと“握手”したじゃないですか。乙武さんの腕が『柔らかいな』って手のひらで感じました。実は対談が決まってから一週間くらい、会ったときにどうすればいいのかなって、考えてたんですよ。やっぱりハグかな、でも普段そんなことしないし、アメリカナイズされたヤツって思われたら嫌だなって。いろんなことグルグル考えちゃったんですよね。出した結論は、普通に会いに行こうと」

乙武「後藤さんが悩んだ今日までの1週間と、被災地に行くまでに僕たちふたりが迷った期間というのは一緒だと思うんですよ。相手のために『どう言ったらいいのかな、どんな顔してたらいいのかな、服は何を着ればいいのかな』って考えたでしょう。津田大介(※1)さんなんて、髪を黒く染めていった方がいいか、被災地へ入る前に本気で悩んだらしいですよ。『この金髪、不謹慎じゃねーの、俺』って。あのとき、そんなことをみんなが考えたと思うんです。そうやって考えること、僕は大切だと思うんですね。相手の気持ちに寄り添おうとするのは、一種のエゴなのかもしれない。それでも、人との関係を築いていくときに、その思いやりは、最初のとっかかりとして必要なものだと思います。僕はこういう人間なんで特に失礼だとは思わないから、後藤さんの悩みは取り越し苦労でしたけど(笑)」

後藤「人は会ってみないと分からないですしね」

乙武「でも、今回そうやって考えてもらったことが、後藤さんが次に障害のある人に会うときなどに、たぶん生きてくると思うんですよ。僕と後藤さんは同じメガネ同士じゃないですか。ある人が『メガネ!』って呼んだら、後藤さんは怒るかもしれないし、僕だったら『メガネじゃねーよ、エロメガネだよ!』って言い出すもしれない」

後藤「スゴい切り返しだ(笑)」

乙武「だから『この人だったら、こういういじり方をすれば大丈夫』とか、『この人は気にしてるから、言わない方がいいな』とか、本来は1対1のコミュニケーションで考えなきゃいけないはず。それなのに、障害者はこう、被災者はこう、メガネの人はこう、と決めつけるのが今の社会。そうじゃなくて、たまたまその人に障害があったり、被災していたり、メガネをしてたりしてなかったりする。そんな風に考えて、お互いコミュニケーションをとっていきたいものですね」

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後藤「それを許さない社会になっている気がします。障害者/障碍者の漢字を平仮名にひらいて解決するのって、多様性を殺すってことなんですよね。それにみんな気づかない。スゴく人のことを罰したがる、ギチギチに真四角の、四角四面になっていこうとしている気がします」

乙武「そうですね。だから僕には、これまでの障害者像をぶち壊して、コイツは新種だと言われる役割を担いたいという思いがあります。世の中には障害のある人もいれば、ない人もいるし、障害者と言ってもまあるい人もいれば、とんがった人もいるんだよ、と。僕はそんな具合に、これからも多様性のあり方を問うていきたいです」

(2013.3.20)
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乙武洋匡

乙武洋匡(おとたけ・ひろただ)

1976年東京生まれ。大学在学中に出版された『五体不満足』がベストセラーに。卒業後はスポーツライターとして活動。2007年から3年間、杉並区立杉並第四小学校教諭。著書に『オトことば。』、小説『だいじょうぶ3組』や続編『ありがとう3組』など多数。自身をモデルにした赤尾を自ら演じた映画『だいじょうぶ3組』が、3月23日(土)より全国にて公開される。また、今年3月から東京都教育委員に就任。自己肯定感をテーマにした最新刊『自分を愛する力』(講談社現代新書)が好評発売中。

■注釈

(※1)津田大介(つだ・だいすけ)

ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。1973年東京生まれ。早稲田大学社会科学部卒。関西大学総合情報学部特任教授。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。東京工業大学リベラルアーツセンター非常勤講師。一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)代表理事。メディア、ジャーナリズム、IT・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題などを専門分野に執筆活動を行う。ポップカルチャーのニュースサイト「ナタリー」の創業・運営にも携わる。

twitter: @tsuda