駒崎 「3・11の後、にわか市民運動みたいなのが流行して、“福島の人を逃げさせろ”って流れが一部にできて、逃げない人たちがバッシングされてたじゃないですか。僕は身内に福島の人がいるから、自分の家族が悪口を言われてるような気になって、すっごく悲しかったんです。誰もが逃げたいって思ってるわけじゃないのに、安全圏から無責任なことを言うなと。 脱原発自体良いと思うし、そうなってほしいと思う。でもそれを実現するには、きちんとした手はずを踏む必要があるから、本気でやるんだったらみんなで協力して、全力で取り組まなきゃいけない。脱原発を掲げて、国や東電を悪者にしてやいのやいの言っているだけっていうのはちょっと違うぞ、と。それにも飽きたらず、その周りにいる被災者にまで批判の矛先を向けるのは、もっと違う」
後藤 「これもまた複雑で、脱原発活動している中でもいろんな人がいるんですよね。地道にデモをやっていこうという人が多いのですが、一方で、メディア上で厳しい言葉を他人にぶつけているだけの人もいるし。でも本当に、それは間違っていると思います。人間のやっていることだから、必ず理由がある。人間関係とか愛着とか、町を離れられない理由もそれぞれにある。そういう中で、スイッチを切り替えるように住む場所なんて変えられないんです、っていうね。それぞれのストレスをみんなでケアしつつ、特定の人が不幸にならないやり方で変えていこう、っていうのが一番良いと思うのですが……」
駒崎 「おっしゃる通りです。インドアパークだって、これ自体はすごく小さなことで。小さな地方の半径何キロの子供たちしか救えない。でも、これをきっかけに同じような取り組みをやる人が増えていくことで、もっと広範囲の人たちが救われるようになる。それぞれのやることは小さいんだけど、やっぱり人を救っていくには、個々の地味な積み重ねしかない。何か一発、魔法的な何かで救われましたねっていうことは、まずあり得ないから。 脱原発の話でも、原発を取り壊すとなれば、今そこで働いている多くの人が失業する問題があって。そういう細かい議論や対話を、これから積んでいかなきゃいけない。でも、バッシングは未来に向けて積み上がってはいく類のものではない。これから復興などに携わる場合においては、積みあがる議論をしようという意識を、みんなに持ってもらいたいなと思っています」
後藤 「そうですね。一方で、地道な現実に即した歩みも必要ですよね、脱原発活動って。僕は、デモはある意味エクストリームなプレッシャーとしてあった方がいいんじゃないかと思っています。権力に対して」
駒崎 「デモは、原発問題に限らず、すべての領域においてあって良いと思います。現実でちゃんと集まって肉声を上げるっていうのは、SNS上で言っているだけよりも大きな意味を持ちますしね。 ただ、僕は色んな官僚と話していた中で分かったんですけど、政策担当者の人って、よっぽど大きいデモにならないと気付かないんです。それこそ、脱原発の官邸前デモみたいに何万人規模にならないと。それと、彼らが欲しがっているのって、批判ではなくて具体的なアイデアなんですよ。どの領域でもそう。“お前らちゃんと考えろ!”って言うと遠ざかってしまうけど、“これどうですか?”って提案をすると、喜んで検討してくれる」
後藤 「そういう提案って、どこに持っていけばいいんですか?」
駒崎 「たとえば、いま僕が取り組んでいる休眠口座活用のプロジェクト(※2)だと、担当が国家戦略室ってとこなんで、国家戦略室の官僚や大臣の所に。それと、金融庁とか関係する省庁を回りつつ、そのバックにいる政治家を口説いてます」
後藤 「それは、省庁の受付に言えばいいんですか? アイデアがあれば」
駒崎 「アイデアがあったら、まずはその事業分野の担当部署を調べて、そこに連絡を取ってアポを取り付けます。基本的にちゃんとした人が会ってくれますよ。それか、誰かを介するっていう方法ですよね。ちゃんと話を聞いてもらいたかったら、その省庁とつながりがある人を介して話したほうがいい。実際に会って話すと、彼らがいま何を悩んでいるかっていうのが把握できるので、“それに対して、こういう答えをもってきました。どうですか?”というように継続的に話していけば信頼関係もできるし、何度か話し合って一緒に練っていけば“じゃあ、それ採用してやってみます”っていう流れにもなりやすいです」
後藤 「ちゃんとロビー活動もやれってことですよね」
駒崎 「でも、皆さんあんまりそこには着目しないんですよね、正規のプロセスに。“オラーッ!”とか言う感じになっちゃうと、向こうもやっぱり怖いから、会おうって言っても拒否されちゃう。例えばゴッチさん、事務所の前で“おい、ゴッチ出せよ!!”って叫んでる人がいたら、会いたいと思います?(笑)」
後藤 「絶対会わないし、何言ってきても聞かないです(笑)」
駒崎 「ですよね(笑)。そこを、なにかの取材として申し入れたり、“貴方の友人の知り合いで、ぜひとも会いたいんだけど……”とアプローチしたり。内容に関しても、“貴方が決して損する話ではないから”って言われたら、“30分だけでも会おうかな”ってなりますよね。人間ってその辺り、みんな考え方は同じですから。 ただ、脱原発でも他の提案でも本気で通したいのなら、何度もシミュレーションしたり、専門家にオーソライズしてもらって連名で出したり、色々工夫は必要です。そうやって形を整えて出すだけでも、全然反応は違いますよ。難しく考えないで、普通に商談をするような心持ちでいけばいいだけの話なんですね。相手にとっても有益な話を持っていけば、向こうもちゃんと耳を傾けてくれるので」
後藤 「そういうことを、これから取り組んでいかなきゃいけないですね。けど、難しそうってイメージがあって、なかなかねぇ……」
駒崎 「ゴッチさんご自身でやるのではなくて、それができる人とか団体とかを見つけて、応援するっていうのもアリだし、色んな人の意見を集約してセッションしていくとか、やり方は色々ありますよ」
後藤 「ちょっとずつ、人々の関心というか、意識も高めないといけないですね」
駒崎 「世論を変えていくためには必要なことですね。ただ、百万単位の人の意識を高めるには何十年もかかるので、もちろん広く高める努力をしつつも、もう一方では少数精鋭で影響力と志の高いグループを作って、社会にアプローチしていくやり方も大切だと考えています。 例えば……あ、僕、幕末オタクなんですけど(笑)、明治維新の立役者となった志士って、どんなに多く見積もっても4000人くらいなんですね。で、その当時の日本の人口はどれくらいだったかというと、大体4000万人。ってことは、人口のわずか1万分の1、0.01%の人たちが動いたことによって、あの革命は成されているんですよ。 だから、全員が全員、目覚めなくてもいい。今だとSNSのような個人が意見発信するメディアも発達してきているので、もしかしたら1万人ほどの人たちがある程度目覚めて、日本を変えるために動いたら、国の構造を変えていくことは可能なんじゃないかと思っているんです」
後藤 「そうですね、変えていかないといけないな……」
駒崎 「僕らは今、意識の高い仲間たちを周りに集めていって、いざ扉が開いたときにガツンと先導していけるように準備をしています」
後藤 「国を変えたいって言うだけなら簡単だし、どう変えるかって想像を膨らませることも大事かもしれないけど、実行に移すとなると本当に大変でタフな道ですよね。本気で社会問題にコミットするなら、そういう地図にない道を裸足で歩いていく覚悟もいるんだなって、駒崎さんとじっくりお話させてもらって改めて感じました」
駒崎 「僕みたいな人間が得意とするのは、影響力を行使してみんなを引っ張っていくことで、企画をつくったり、それを広報したりするのって、僕よりもっとできる人はいくらでもいるんですね。だから、そういう信頼できるパートナーを適材適所に見つけていって、チームとして運動していけば、多少大きな壁にも自信を持って立ち向かっていけるんです。ゴッチさんが言うような覚悟も、一人きりでやってたらきっと持てなかったと思います」
後藤 「これからも頑張ってくださいね」
駒崎 「ありがとうございます。僕もこのThe Future Times、これからもずっと愛読します」
駒崎弘樹(こまざき・ひろき)
1979年生まれ。1999年慶應義塾大学総合政策学部入学。在学中に学生ITベンチャー経営者として、様々な技術を事業化。同大卒業後「地域の力によって病児保育問題を解決し、育児と仕事を両立するのが当然の社会をつくれまいか」と考え、ITベンチャーを共同経営者に譲渡しフローレンスをスタート。日本初の“共済型・非施設型”の病児保育サービスとして展開。また2010年から待機児童問題の解決のため、空き住戸を使った「おうち保育園」を展開。政府の待機児童対策政策に採用される。内閣府非常勤国家公務員(政策調査員)、厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進委員、NHK中央審議会委員、内閣府「新しい公共」専門調査会推進委員、明治学院大学非常勤講師、慶應義塾大学非常勤講師など歴任。
■注釈
(※2)休眠口座活用のプロジェクト
「休眠口座」とは、預金者の死亡などの理由で金銭の出し入れが一定数年以上ない口座のことを言う。事実上、休眠口座の死蔵金は、10 年(ゆうちょ銀行では5 年)経過すると銀行の収入になる。駒崎さんは2011年に、これを被災地復興支援などに活用するための基金設立を政府に提案した。
(参考資料)
『「休眠口座基金」創設の提言と調査依頼』