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変革と未来-後編-| 駒崎弘樹

日本はこれから、地球上で最も人類に貢献できる国になれる

駒崎 「実は、今の東北って将来の日本の行く末を暗示しているんです。人口は減り続け、高齢者の割合はますます増え、産業は空洞化する一方で……これって、2050年くらいの日本全体の予想される構造にとても近似しているんですよ」

後藤 「先取りしちゃってるんですね、日本の未来を」

駒崎 「そう、だから“東北がどのような解決策を出してくるか”というのが日本の未来を占うな……って、僕は注目しています。その方法のひとつが、“住民が立ち上がる”ことだと思うんですよ。昔なら、どっかの偉い国会議員が“工場を誘致してこよう”というのが定石だった。だけれども、今では誘致する術はないし、必要なら企業は人件費や物価の安い海外に行ってしまう。じゃあどうしようってなった時に、彼らは内発的に自分たちで新しい産業を作り始めているんです。ちょっと変わったカキの養殖だったり、新しい農作物を売ってみたり、ちっちゃいことだけれども皆で協力して、色々と生み出しつつある。それはある種の産業転換で、モノ作りからサービス業に寄っていくような形で。農業や水産業をベースとした付加価値型のサービス業だったりとか。そういう話が震災以降、少しずつ増えてきているように感じています」

後藤 「そうですね。この『THE FUTURE TIMES』の取材で出会う若い人たちも“ピンチかもしれないけど、これはチャンスでもある”っていう意志を強く持っていて、そういった意識は徐々に広まっている気がします。オルタナティブなあり方っていうんですかね。そして、高齢化の進行とか産業の変容は、多分これから他の先進国も体験するはずですから」

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駒崎 「まさにその通りなんです! 2050年、日本で予想される人口高齢化率って40%なんですよ。つまり、全人口の4割が65歳以上のお年寄りになる。その状況って、人類史上、まだ一度も経験した国はないんですって。文字通りの、前人未踏。そんな境地に日本は先駆けて突っ込んでいくんですけど、次に突っ込むだろうって国はすでに分かっているんです。まずは一人っ子政策を実施した中国。おそらく、これから日本以上に急激な速度で高齢化が進行する。その後に、台湾・韓国・シンガポールと、アジアの国々が続く。それから、ヨーロッパもですね。 ……ということは、これから日本は、高齢化社会に対して生み出した解決策を他国に教えてあげることができる。“僕らはこうだったよ、だから君たちもこうできるじゃないか”って。それは何かの輸出を生んで経済的な効果につながるかもしれないし、オープンソースとして無償で共有していくかもしれない。いずれにせよ、日本は他の国よりも先に苦労するがゆえに、人類に対して最も貢献できる国になれる可能性があるんです。これから僕らのやることは大きな意味を持つし、身の回りの人たちを助けるだけじゃなくて、世界中の人々を助けることにもなるんだと言える。そう思えば、限りなく勇気が湧いてくるんですよ」

後藤 「大げさな話でもなく、これから僕らは、世界史に名を残す何かを作れるかもしれないですよね。そういうのは、やっぱり人からもらえるわけではないし、ましてや国や行政が与えてもくれないし。やっぱり、自分たちで作るしかないんだな」

駒崎 「作るしかないですね。これまでは、ついていくだけで良かったんですよ。欧米諸国に追い付け、追い越せって。実際に、日本は戦後の何もないところから、第二の経済大国にまで上り詰めた。それは奇跡的だった。奇跡を起こすことができたんです。ここまで来て“じゃあこの先は……”ってなってふと顔を上げたら、そこには本物の荒野が広がってたわけです。今までも荒地だったけど、目的地は常に把握していた。でも、ここからはどこに行けばいいか分からない。自分たちが先頭になってしまったから。だから、今後は自分たちで考えて、自分たちで実行し、自分たちで成功事例を作り上げていかなきゃいけない。後を追っていればいいという姿勢を改めて、新しい思考回路に切り替えなきゃいけない。僕らがキャッチアップさせるようなモデルを作っていかなければならないんです。 だから、ダメ出しとかしてる時間はないですね。足を引っ張りあってる暇もない。どんどん事例をつくって、それを良きものに磨き上げて、広めていって。うまくいったものは、“ほら、こうやってやろうよ”と世界に対して発信していく。この繰返しを、地味だけど何年も何十年も続けていく。そうすることで、私たちはおそらく、最も良き国として、人類に貢献できるんじゃないかと思うんですよね。まず、私たちから、在り様を変えていかなければならない」

後藤 「周りの国のことを気にし過ぎないで、前だけを見て、進んでいかなきゃいけないってことですね。地政学的に、日本がよその国をキョロキョロしなきゃいけない成り立ちっていうのは分かるんですけどね。太平洋の真ん中で、中国とロシアとアメリカっていう大国に挟まれてるわけだから」

駒崎 「ずっと辺境だった私たちですが、ここにきて図らずも最先端の国にならざるを得なかった。原発事故などもそうですけども、他の国がしたことない経験をいち早くしてしまっている。悲しいかな、そこには何のお手本もないわけで」

後藤 「辺境ってことで言うと、たまに“日本はガラパゴスだ”って皮肉で言われますよね。あれ、何が悪いんだよって思うんです。だって、ガラパゴス、いい島でしょ? 希少な生物がいて、そこだけの生態系が確立されていて」

駒崎 「本当にそうなんですよね。僕は、ガラパゴスでありながら、その中の経験を外に向かって発信していける、オープンマインドなガラパゴスになっていくべきだと考えます。すべてにおいて、悲観論に負けちゃだめだと思うんですよ。ちょっとでも気を抜くと、お先真っ暗な空気が立ち込めてきて、ニヒリズムに陥ってしまう。そうじゃない、私たちは千載一遇のチャンスを得ようとしているし、世界唯一の国になろうとしている、それを上手く活かしていこうよ。だから、そのためには半径5メートルから変えていかなきゃ。国がどうこうっていうのもいいけど、まずは目の前に成功例を作っていこう……ってね」

半径5メートル――身の周りから自分たちの手で、世界を変えていこう

後藤南相馬のインドアパーク誘致の例のように、住民が動くことで町が変わっていくのって、すごくいいですね。インドアパークの記事はFacebookでよく見かけたりするんですけど、とても励みになります。高見公園(※1)のニュースもそうだった。以前、南相馬にいった際に、道の駅でごはん食べようと思ったら人がいっぱい集まっていました。あの時はまだ、裏にそんな素敵な公園があるって知らなかった」

駒崎 「きっと、魔法はないんですよね。“これをやれば日本は絶対に変わる!”ってことはなくて。地味だけど、自分たちの持ち場で小さな変革を起こして、それを集積させるしかない。国民も、やっぱり魔法に期待するというフェーズがあと数年は続くのかもしれないですけど、とっとと幻滅して“やっぱ参加しなきゃだめだよね”って、みんなに気付いてもらいたい。だから、一度絶望をくぐった方がいいんだと思う」

後藤 「俺たちがやらなきゃだめだ、っていう。そうなんですよ、トップを替えただけじゃ、何も変わんないんですよ。もう分かったじゃないか(笑)」

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駒崎 「そうだそうだ、分かったじゃないか!(笑)」

後藤 「うん、僕らはもう分かってるはずなんですよね。政権与党まで変えてみたけど、結局ダメだった。それを戻しても、元に戻るだけで変わんないんだ。じゃあ何を変えなきゃいけないのかって、“自分たちが変わるしかないんだよ”ってことですよね。そのうちのひとつが、ちゃんと考えて政治家を選ぶことだとは思うんですけど、僕らが政治家と直接話したことないっていうのが、ちょっと問題なのかなって。少なくとも、自分の選挙区の政治家には話を聞きたい。“これから一体どうしたいんだ?”ってことを」

駒崎 「ゴッチさんだったら多分相手も絶対会ってくれるから、アポ取ってみたらどうですか。実際会うと、ちょっと印象が変わると思いますよ」

後藤 「まあ、人間って個々で会うと、悪の権化だったりはしないですから(笑)」

駒崎 「そうなんですよ(笑)。僕も政治家ってなんとなくの印象で好きじゃなかったんですけど、会ってみると意外に普通の人ばかりで、気合入れていくと拍子抜けっていうことがほとんどで。それでも、どっかにね、状況をわざと混乱させているような悪者がいるんじゃないかって、結構探したんですよ。でも、いないんですよね」

後藤 「なるほど。きっと、空洞があるんですよね。日本に、大きな空洞が」

駒崎 「そう、日本の中心に大きな空洞があるんです。僕も官僚をやるまでは、なんだかんだ言っても最終的には総理大臣が力を持っていて、本気でリーダーシップをふるえば色々変わるんじゃないかと思っていたんです。でも、現実は違った。実際に鳩山内閣に参加してみたら、鳩山さんの“やろう”っていったことに、財務省の役人が“いや、それはちょっと難しいですね……”とか言って、押し返しちゃうんですよ。一般企業で言ったら、社長の命令に課長が“すいません、無理っス”って拒否するようことが、普通にまかり通っているんです。これは、日本のシステムが権力を集中させないで、高度に分散させ過ぎていることに原因があるんですけど。なぜだろうと調べてみたら、太平洋戦争の時に軍部の暴走を止められなかったという反省から、非常に多極的な権力構造に変質したという背景があって」

後藤 「そんな構造があるならば、誰がトップになっても関係ないじゃんっていうことですよね」

駒崎 「ですよね。世の中の99%の人は、総理大臣が気合を入れれば何でもできるに違いないって思ってるんです。僕もそうでしたし。でも、そうじゃないんですよ」

後藤 「それは知ってほしいですよね。僕も知らなかった。社長に課長が“No”っていうなんて、冗談みたいな話だけど……」

駒崎 「その“No”は、ただイヤだとかじゃなくて、“総理、そうするとこの法律に矛盾しませんか?”っていう指摘なんですよね。日本は法治国家なので、法律に違反しますよって言われたら引き下がるしかない。何か新しいことやろうと思うと、“こっちを変えなきゃいけない、そしたらこっちも変えなきゃいけない”っていう法律間のリンクがあって、それらを全部変えようとすると膨大な時間がかかる。でも、それをするだけの時間が、どの領域にも与えられていないのが現状です。総理もコロコロ変わるし、官僚も基本的に一年スパンで成果を求められるから、中長期的なアプローチができない」

後藤 「少なくとも総理大臣とか、一回決めたらもう少し長く続けてほしいですよね」

駒崎 「それについては、私たち国民も“政治家がダメだから、日本はダメなんだ”っていう思考から抜け出さないといけない。批判してトップを替えさせて、うっぷん晴らしてハイおしまい、じゃダメなんです。叩いてる暇があったら、自分たちの手で変えていけることに、時間と労力を割かなきゃ」

後藤 「一人ひとりが自分の現場で積み重ねて、その後でしっかりと主張していくべきですよね。言葉にはやっぱり、実際の経験などを背景にした“身体性”が伴っていないと、説得力がないですから」

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園子温

駒崎弘樹(こまざき・ひろき)

1979年生まれ。1999年慶應義塾大学総合政策学部入学。在学中に学生ITベンチャー経営者として、様々な技術を事業化。同大卒業後「地域の力によって病児保育問題を解決し、育児と仕事を両立するのが当然の社会をつくれまいか」と考え、ITベンチャーを共同経営者に譲渡しフローレンスをスタート。日本初の“共済型・非施設型”の病児保育サービスとして展開。また2010年から待機児童問題の解決のため、空き住戸を使った「おうち保育園」を展開。政府の待機児童対策政策に採用される。内閣府非常勤国家公務員(政策調査員)、厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進委員、NHK中央審議会委員、内閣府「新しい公共」専門調査会推進委員、明治学院大学非常勤講師、慶應義塾大学非常勤講師など歴任。

■注釈

(※1)高見公園

南相馬市原町区高見町にある公園。震災後、市民団体「みんな共和国」実行委員会が中心となって、整備や除染活動、新しい 遊具設置などを行い、2012年10月21日にリニューアルオープンした。
(参考資料)
助けあいジャパン 情報レンジャー:福島県南相馬市「みんなで再生!高見公園」