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自立して生きていくために | Connecting the dots 福島からの言葉 vol 5

福島県内でも感じる原発事故の風化

—施設や利権も含めれば、相当な資金も必要になりますね。

佐藤「実は復興に回るお金の多くが銀行の預金になっているんです。地銀の預金額がたった1年で1.5倍になったそうですよ。国がお金を出しても、単価が高いから工事が進まなかったり、住宅手当のように被災地が毎月もらう細かいお金を預けたままにしていたりと、行き場のないお金が相当あるようなんです。銀行だってそれを貸し出さなければ、商売になりません。けれど、経済はまだ不安定だし、リーマンショックのようなことになっては大変。株や為替は運用としてのリスクが高いはず。それならば資金を10年とか20年とかのスパンで地元の自然エネルギーの推進に投資してほしいと思うんです。地元で発電した240万キロワットを売電すれば数千億にはなります。事業性はあると思いますよ。能力的には約500万キロワット発電可能という試算もあって、つまり能力はもっとあるわけだから、自分たちでつくった電気を売り、残りを福島で使えばいい。そうすれば十分賄える。そういうサイクルをつくっていきたいと思っています」

—エネルギー自給を実現するサイクルですね。

佐藤「会津地方の自治体は、地元からの税収が少なく、自己財源がとても乏しい。自治率は2、3割程度で、残りの7、8割は国からの交付金に頼っています。そのために陳情書を書いたりして、国に頭が上がらない状態なんです。でも、自分たちで発電して、お金を生み出していけば、売上が出て、税収も増えますよ。発送電分離も近い将来実現するでしょう。そうすれば、電気も電力会社を通す必要は無くなり、小売ができるようになります。お客様も安く買えるようになるし、私たちの利ざやも増えるわけです。電気代が安ければ、企業誘致もできるようになる。原発一基分の電力を、その企業で使ってもらってもいいですよ、値段は東京電力の半値でどうですか、となれば魅力的でしょう。企業が集まれば、雇用が生まれ、さらに税収も増えます。交付金に頼らない10割自治も可能になる。そうすれば、政府や中央に対して、ときにはNOと言える自立した地方になれるんです。まちづくりは、国がやるのではなく、私たち自身がやるものだと思うんですよ」

—そんな佐藤さんの考えに賛同される方がどんどん集まってきたのですか。

佐藤「福島の未来について語り合おう、もっと声を出そうと始まった『ふくしま会議(※1)』に参加していくなかで、会津の人たちにも多く出会いました。そして顔を合わせるたび、いろんな話をするようになって。国や東京電力に対する反発は共通してあるし、じゃあみんなで自立した大きな町をつくろうと盛り上がっていきました。でも、想いは人の2倍も3倍もあるけれど、一人ひとりは資金も技術力もないわけですよ。それで、みんながアイディアを出し合えて、協力し合える場をつくろうとなったんですね。三島町(※2)なんかは地熱も豊富ですから。水力だけでなく、地域の特性を生かした小さな発電から始めて、機構側が資金や流通の面を支援していこう。そして再生可能なエネルギーを生み出す『会津電力株式会社』をつくろうとなっていきました。工藤さんが加わったのは、去年の10月頃でしたね」

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同席してくれたのは機構メンバーの工藤氏。
自身も会津でホテルを経営する。

—工藤さんは青森のご出身ですが、会津での取り組みをどうご覧になっていましたか。

工藤「私はホテルの再生コンサルタントとして全国を転々としていまして、震災前から福島でいくつかのホテルの再建を手がけていたのですが、震災後、縁あって喜多方に来ました。会津自然エネルギー機構に関しては、もちろん資金面の問題もあります。まだまだ世の中には、電力は国のものという意識がありますし、なんで『会津自然エネルギー機構』に任せるんだ、という話にもなるでしょう。だからこそ、今回動き出したことには意義があると思います。私としては、ある意味で東京電力に代わって、“発電所の経営再建”をやるような感覚ですね」

—経営再建のプロとして、現状の課題は何でしょうか。

工藤「資金面などよりも、世の中のエネルギーに対するある種の鈍感さのほうが大きな問題だと思っています。電気は空気みたいなものなので、敏感な人のほうが少なくて当然なのですが、原発事故に対する風化を福島県内ですら感じます。“地域として自立して生きていこう”と言っても、長年そうじゃなかったわけですから、実際は戸惑う人も多いわけです。相手が国だ、役人だとなれば、どうしても顔色をうかがってしまったり。地域として気運を高めていくことの難しさはありますね」

佐藤「国や電力会社からすれば、危ない原発を遠くの福島県において植民地にして、お金払っておけば黙って言うことを聞くだろうと思っていたと思いますよ。万が一壊れてもどうせ反旗を翻しはしないだろうとたかをくくっているでしょう。実際、今でも東京電力から仕事をもらえるかもしれないと遠くに避難しない人たちもいますから」

工藤「この地域は、昔から共存共栄的な文化が根付いているんですよ。自分が幸せになるためには、周りが幸せにならないとダメだというような。だからこそ、こういった機構ができたのですが、民間企業の社長だった人から市議やNPOなどさまざまな立場や考え方の人が集まっているわけで。その人たちがまとまるのでさえ、簡単なことではありません」

自分は何のエネルギーを使っているのか

—それだけに動き出したことには、大きな意味がありますね。

佐藤「これから一番大事なのは大小さまざまなエネルギーをどう生み出していくか。小さな水路を使った小水力発電や、小さな太陽エネルギーとか。あるいは何万坪という土地があればメガソーラー発電もできるでしょう。今後の発送電分離を見据えて、ノウハウと技術力を身につけなければなりません」

工藤「ただ技術はあくまでも手段です。目的を技術力向上だけにおいては、見誤ります」

佐藤「そう。要はどんな生き方を選ぶかです。たとえば、太陽光は赤、水力は青、バイオは緑、地熱は黄色と電気の色分けをして、自分がどの電気を使っているのかを名刺に示したらどうでしょうか。“あなたは赤ですか、ならば太陽光ですね”“私は緑、バイオの電気を使っています”と。太陽光を使っているなら、地元の太陽光エネルギーの推進に協力しましょう、なんて動きにもなるかもしれません。まずはそうやって意識を持ち、自覚する。そうなった時に、私は原発の電気を使っていると胸を張って言えるのか。エネルギーを選ぶのは、生き方を選ぶことでもあると思うんです。自分が選んだ生き方を明示する。私はそれくらいやるべきだと思いますね」

—震災前まで、私たちはエネルギーに対してあまりに無頓着でした。市民一人ひとりがエネルギーへの意識をもっと高めることで、エネルギー政策も変わっていくはずと。

佐藤「私たちの取り組みがうまくいけば、富山や山形や長野といった水資源の豊富なところが自分たちもやってみようとなるかもしれません。エネルギーに限らず、昔から日本人は四方四里の範囲で山菜とかきのことか、その土地のものを採って生きてきた文化があるわけですよ。それがいつの間にか、地球の裏側まで行くようになってしまいました。スーパーに並ぶ食材を見ても、地元で新鮮な野菜が獲れるのに、遠くの産地のものばかり。値段や品質は大事だけれども、その前にどう生きていくかですよ。私は地元のものを食べるんだと。小学校の学校給食で、親たちが有機農業をしているのに国の方針でポストハーベスト農薬(※3)の食材を食べさせられている。そんなのやめろと言いにいっても、結局最後は、じゃあ国の補助金はなくなりますよとなってしまう。ここでもやっぱり地方自治の弱さの話になるのですが……。でも、今日のご飯は、誰々のお父さんのお米だぞ、これは誰々のお母さんの野菜だぞ、と実感することも大切ですよね。多少コストが高くなっても、それが地域の価値や教育ではないでしょうか」

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200年以上に渡りこの地で酒を醸してきた酒造としてできることを、佐藤さんは模索する。

—地域の特色を活かして生きていく。そのためにも自立することが求められますね。

佐藤「何も独立国家を目指そうって話ではないですから。会津なら会津の商売のルールがあるように、それぞれの地域ごとに目的や目標、理念があってしかるべき。みんな同じほうが不自然ですよ。それを一律にしてしまえば、コストは下がるかもしれないけれど、これまでの国や東京電力と同じです。ないものねだりをしちゃいけませんが、あるものをきちんと使うことが個性となり、そして豊かさになるんだと思うんです」

工藤「自然エネルギーを活用した酒蔵が喜多方にもいくつかあります。そこで、この土地のおいしい米を用いて『お米シャンパン』をつくろうと思っています。開発に使う電気の自然エネルギーの割合がいきなり100%は難しいかもしれません。50%、いや、30%かもしれない。それでも自然エネルギーでできた『お米シャンパン』をつくって、会津の人だけじゃなく、東京や全国の人も巻き込み皆さんに応援していただきたいと思っているんです。一口5000円で『お米シャンパン』を買っていただいてファンディングを生み出し、自然エネルギーでつくった『お米シャンパン』で出資していただいたみんなで乾杯するというプロジェクトを立ち上げました。企業からの助成金も決定していて、これから会員募集を始めるところです。もちろん、会津自然エネルギー機構としては発電所をつくっていくのがメインの動きですが、自然エネルギーを使った商品づくりの推進も必要だと思うんです」

—自然エネルギーと言うと、とかく絵空事のようにも思われがちです。成果が目に見えることで自然エネルギーの存在を実感できます。

工藤「野菜に無農薬ラベルが貼ってあるように、この商品は自然エネルギーを30%使ってますとか、わかるようになっているのも面白いんじゃないかと思うんです。もうお米は植えているので、収穫、脱穀、絞りなどを経て、この年末には『お米シャンパン』ができあがる。その過程の冷却や酵母の発酵などに自然エネルギーが使われるわけです。来年2月に完成パーティーをする予定ですが、できれば、継続的に自然エネルギ-を共有する仲間を募りたい。私たちだけではなく、ほかの地域にも自然エネルギーに取り組んでいる方々がたくさんいらっしゃるので、そういう方々とも支え合って頑張っていきたいですね」

佐藤「これから課題は山ほどあります。ですが、私たちは、もう気がついてしまったんです。爆発して地獄の釜が開いてしまった。でも終わりじゃない。始まりなんですよ。この先何万年も続いていくためのね」

■会津自然エネルギー機構WEBサイト:http://ainef.jp

(2013.9.18)
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鶴澤清志郎

佐藤弥右衛門(さとう・やうえもん)

会津・喜多方の地で江戸時代より続く合資会社『大和川酒造店』の九代目社長。2011年3月の福島第一原子力発電所事故をきっかけに、原発に頼らないエネルギーの地産地消をめざし、地元の自然エネルギーを利用するべく一般社団法人『会津自然エネルギー機構』を立ち上げ、理事に就任。


鶴澤清志郎

工藤清敏(くどう・きよとし)

株式会社『プロジェクト会津』取締役社長。『会津自然エネルギー機構』設立メンバーのひとり。現在は喜多方市内で『ガーデンホテル喜多方』を経営する。経営再建などのコンサルタントとしても活躍。

(※1)ふくしま会議

原子力に依存しない安全で持続的に発展可能な社会づくりを目指し、 3.11以降の福島の経験と現実を世界と共有し、新しい福島を創ることを目的として創立された一般社団法人。佐藤弥右衛門さんは理事のひとり。福島の未来について語り合う国際会議を企画したり、今後の課題解決のための調査・研究を行う。 URL: http://www.fukushima-kaigi.jp

(※2)三島町

福島県大沼郡にある町。町の大部分は山林に覆われており、ダムもある自然資源の豊富なエリア。

(※3)ポストハーベスト農薬

収穫後の農作物の品質維持のために使用する殺菌剤や防カビ剤のこと。正確には日本ではこれらの農薬の使用は禁止されているが、これに類する防カビ剤・防虫剤で食品添加物として認められているものは多くある。諸外国から輸入される果物等にもポストハーベスト農薬は使用されていることがある。