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MURO

風評被害をなくしたいという想いを込めて

後藤「稲は毎年取れた種モミを取っておいて苗にしてるんですか?」

及川「はい。苗にしています。ただ、あまり毎年取りすぎると、お米の病気にかかる確率が結構高いとも言われていて、そういうのが不安だなっていう方だとやっぱり農協から買います」

後藤「なるほど。稲は自家採種できるんですね。ほかの野菜だと種が取れないものがあるじゃないですか。キュウリとかね。そういうのはちょっと、不思議と言えば不思議ですよね。種や苗を買うしかないっていうことですもんね。種の採れない作物、なんか不自然な気がします。採種できる昔ながらの野菜とか、種を守っている人とかいますよね」

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及川「いますね。普通、稲の栽培では種モミを消毒するんですけど、『幡ヶ谷再生大学』の種モミは薬で消毒していないんです。温湯消毒って言われる、高温のお風呂に入れさせるような形で、それが消毒になるんですね。薬も何も入っていません」

後藤「消毒しないとカビたりするってことですか?」

及川「そうです。苗が出なかったりとか、小さいうちから病気が増えて枯れちゃいますね。なので普通の栽培と比べて、やっぱり苗は多めに作っておかないと。育ちが悪いので」

後藤「大変なんですね、米作りって。いろんなところで、害になるような病気とか虫とかを排除していかないといけないっていう。普通は農薬で消毒してるんですね」

及川「そうです。残留農薬の試験とかも細かくやれば、もっとすごい数値が、もしかしたら放射能よりも悪いような農薬の米を食べているかもしれないですし……」

後藤「なるほど。さっき話したように、いろんな農家のお米が混ざっているから、農薬の話もどうなっているか分からないということですよね。及川ファームのあたりは、放射能の影響はなかったんですか?」

及川「一応、放射能測定を行ってまして、去年のお米と今年の土壌は基準値以下(N.D.)になっています。次は水質検査をお願いしているところなんですけど。あと、秋の藁(わら)とか、製品、精米したお米まで、5段階くらいまで放射能測定はしようと思ってます。『幡ヶ谷再生大学』のお米はそこまでやってみようかなと」

後藤「検査をすることによって食べる側の安心が得られるんだったらいいですよね。ただ、食べる側が大きい目で見て “東北” とか、そういうくくり方で話をされちゃうと困りますよね。それこそ風評被害というか。福島の農家さんとか熱心に、本当に死活問題だから、全量検査っていうか、全袋、それぞれ検査してやってますよね」

及川「そうですね、やってますね」

後藤「その苦労を考えるとね、頭が下がるっていうか……。悪いことした人は誰もいないですからね、農家の皆さん。もちろん、検査をしてもなお、風評被害があるでしょうし。本当にやるせないです」

及川「食品コンクールで金賞とか取るような有機栽培米の私の師匠が、関東方面にお米とかを出荷してたんですけど、震災後は、やっぱり有機にこだわるっていうお客さんが放射能にも反応しちゃって、数値が出ていなくても、お米がさばけなくなっているっていうのが現状みたいで……。やっぱりその、風評被害をなくしたいっていう想いも『幡ヶ谷再生大学』には込めていて」

後藤「ある程度の偏見というのは、全ての人からぬぐい切れはしないんだろうなと思うんですけど、農家の皆さんが “大丈夫ですよ” って発信していくことで、変わっていく可能性がありますよね」

及川「ありますね」

後藤「それはでも、積極的にやっていくしかないですよね。そして、改めて原発事故は、農家の皆さんの余計な苦労を増やしたっていうのは……、間違いないですね」

新しいコミュニティについて考える

及川「女川原発で働いている方も、東北電力で働いている方も米作り参加していて、彼らが言っていたのは “結構複雑なんです” って……。彼らもバンドが大好きだけど、ミュージシャンのたちは “反原発” の運動をしている。 “自分どう働いたらいいのか、すごく迷ってるんですけど” って……。うちの兄貴も原発関係の仕事をしていて…。結構、悩んでますね、仕事に対して」

後藤「あの事故以降は、僕はいろいろな葛藤をみんなで抱えていくしかないのかなっていう気がしています。被害を受けた方たちのことはもちろん、働いている方の苦悩も共有するべきだと思います。そして一度立ち止まって、 “本当にこれをやっていくの? それともやめるの?” って、みんなで考えないといけないですよね。一度の事故でこれだけの被害が出ることがわかったわけですから。何年も前にチェルノブイリの原発事故があったけれど、自分たちの国で起こることだなんて考えてなかったですよね。まさか10万人を越える人がいまだに自宅に帰れないだとか、事故が原因で起こった実害や風評被害についても、考えもしなかった」

及川「南相馬の農協の指導員さんが、この間草取りに来てくれたんですが、やっぱり農家さんが減ってしまって、農協のほうも困っているみたいですね。田んぼも、使ってない田んぼをどう使っていこうかって」

後藤「そうなんですか…」

及川「近くの仙台とかにも海の海水かぶってしまった田んぼがあるんで、使うのに困っている場所があれば手伝いに行きたいなと思ってるんですけど…。福島の方の話を聞いたり、JAの方の話を聞いたりしてると、そういった土地の有効活用ができたらいいなって、すごく思いますね」

後藤「そういえば、荒浜の辺りとかは、『THE FUTURE TIMES』で何度か取材しました(※2)。現状はどうなんでしょう?」

及川「復活した田んぼは生産組合みたいな形で、ガッチリみんなで固まってやっているそうですね、協力して」

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後藤「そういう取り組みがいいかもしれないですね。みんなで新しいコミュニティとして、ビジネスなどに発展させていくというか。 “組合”って言うと、なんだか古いもののように思うんですけれど、自分たちがコミュニティのあり方について考え直して、繋がり直す、そういう流れが大事かもしれないですね。今では、土地だけに張りついたものではなくて、いろいろな方法で集ったり繋がったりすることが可能ですから」

及川「そうですね。僕らの仲間の中でも、農業やりたいっていう人が出てくれると嬉しいです」

及川ファームと農業のこれから

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後藤「今後のことはどう考えていますか?」

及川「(田んぼも)中途半端な面積だと、機械のローンを払うためにお米を作るっていうかたちになってしまう。利益はほぼないです。それを、お米作りから始まって加工品、お菓子とか、おにぎりや切り餅とかにして販売すればやっていけるんでしょうけれど、農家はそこまでできないです。でもやりたいですね、加工まで」

後藤「そこまでいけたらかなり、攻めたかたちの農業になってきますよね」

及川「一応、オイカワ食堂っていうのをやらせてもらっていて、前回のAIR JAM(※3)もそうだったんですけど、自分のお米を使って、気仙沼のホルモンを乗せたりだとか、大船渡のワカメの和布蕪(めかぶ)を乗せて出したりだとか、宣伝や儲けを考えないで、自分のお米を炊いて目に見えるお客さんに食べてもらうっていうのをやらせてもらっています」

後藤「でも、そういうところで炊いて売ったりとか、出店してお米とかを小分けにして売ったりするのもおもしろいかもしれないですね。フェスに来てお米買って帰るみたいな。重いけど(笑)」

及川「おもしろいかもしれないですね」

後藤「人が集う場所にはいろんな可能性があるんですよね。だから、別に音楽のフェスティバルとかで農作物を買うのもいいし、そこから通販のサイトに入ってきてくれて、繋がっていくのもいいですしね。広がっていくといいですよね」

及川「後藤さんのツイートで知って行ったイベントがあって。『わをん』って分かります?」

後藤「ああ、僕の知り合いのバンドが主催しているイベントですね」

及川「後藤さんが “このイベント出たい” みたいなツイートをしたときに、 “これ千葉県で行われる農業のイベントだ!” ってなって、ひとりで行ってきたんです。すごく良かったです。今年は行けなかったんですけど、ちょっと農作業と日程が被っていて」

後藤「11月にまた開催するみたいですよ」

及川「すごく良いイベントで。理想ですね、ああいうの。農家さんとも直接お話しできたんで良かったです。イチゴを作っている農家さんでした。ハウスでDJして倉庫でライブして、すごかったですね」

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後藤「そういうの、ちょっと主催してみたいという気持ちはあるんですか?」

及川「あります。いつか、お米の収穫祭みたいなイベントができたらなって」

後藤「いいじゃないですか。もともとそういうお祭り、日本中にいっぱいありますもんね。収穫を祝ったり、そもそも豊作を祈ったりとかね、農業にまつわるお祭りいっぱいありますから。自分たちでもう一度、それこそ “お祭り” まで作っていくっていうのも良いですよね。作り直すって言うほうが正しいのかな」

■小渕浜子供広場作り:人手募集 (無償)

日時:9月1日(日)10時ー16時
※募集日時詳細は幡ヶ谷再生大学復興再生部のWEBにて宜しくお願い致します。

(2013.8.21)
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■注釈

(※2)仙台市沿岸部の地域。以前の記事

HEART QUAKE 9.0
農から踏み出す支援の一歩

(※3)AIR JAM

ハイスタンダードが主催するロックフェスティバル。震災を期に復活し、2012年は仙台で行われた。