後藤「富岡町は、同じ町でも地域によって『帰還困難区域』『居住制限区域』『避難指示解除準備区域』など、状況が違いますよね」
渡辺「違いますね。富岡の駅は線量が低いんですけど、20km圏内で動かせない状態なので、津波の跡がそのまま残っているんです。だからまだ車が家に突っ込んだままです。僕、川内村で先日ライブやったんですが、そこはホント21kmくらいのところなので、いつ福島第一原発で爆発が起こるかわからないし安全だとは僕は思わないんですけど、町長さんが『まずここに住んでないとずっと白紙のままだ』とおっしゃったんです。『住むことによって、除染作業が本当にできるのかできないのか、どう思うのか、なにかしら未来に残すことができる』と。だから『みんな来てください』ではなくて『来たい人は来てね』というスタンスなんです、と。その気持ちがわかったので、そこでライブすることにしたんですよね」
後藤「川内村の町長さんは帰村宣言を出されましたよね。だけど居住制限区域を抱えていますよね」
渡辺「僕の生まれたところも20km圏内に入っているので、お墓参りとか行くことはできるんですけど、住むことができないんです。だけど実は、僕は震災前、そこに帰ろうと思っていたんですよ」
後藤「原発事故がなければ、今頃、福島に住まわれていたということですか?」
渡辺「はい。そこを拠点に活動したいなと思っていたので。自分で歌詞を書くようになってから、東京での暮らしにどんどん矛盾を感じるようになってきて、自給自足する生活をしたいなって思いはじめていたんですね。親父も、落ち葉を活用した自然農法のやり方とかをメモってくれていて、準備を進めていたんです。最後は自分が生まれた土地で死にたいなと思っていたので」
後藤「そういう経緯を聞くと、余計に俊美さんの故郷へ思いを知るような気がします」
渡辺「あと、僕、ずっと東京で会社を経営していたので、働くという意味を考えることも多くて、生きるために働くのか、やりたいことやるために生きるのか、周りの若い人たちも切羽詰まっているところがあったんですよ。そいつらに言いたかったんです。『自己破産でもなんでもしていいから、好きなことを頑張れ』と。それで『福島に俺の村があるからいつでも来くればいい』って。『そこで一緒に農家をやろう。本当の生き方は俺が後で教えるから』って。 僕はやっぱり食べることの大事さをすごく思ったんですよね。洋服がなくても生きていける。でも食べることは生きるためにすごく大事だということをあらためて思ったんです。僕が今、息子に弁当作っているのも食べることが大事だからです。子どもがいるんだったらなおさら、自分の手で商品や材料を選んで作るべきだなと思う。震災後、特にそれは当たり前じゃないかなっていうのが僕の中にはあるんですよ」
後藤「放射能は数値で測れるわけで、それはリスクの管理ができることでもあると福島の農家の方がおっしゃっていました。本当にそうだと思うんですよね。これがまったく計れないようなものだったと思うとその方が怖い。だから必要以上に怯えずに、ちゃんと自分で選ぶことは大事ですよね」
渡辺「特に事故から1年半経って、だんだんこの状況に慣れてきたり、当事者ではない人たちは忘れていく人も多いと思う。そうやって風化していくかもしれないけれど、僕が『夜の森』や『I love you & I need you ふくしま』を歌うことによって、風化しないと思っているんです。実際、20km圏内のアーティストはそうはいないと思っているんで、だから風化しないように、自分のいろんなところで歌いたいなと思ってる。それがまずは自分ができることだと思う。それを届けて、考えてもらえるきっかけを作るということが。みんなのことを幸せにはできないけど、歌うことで十人でも二十人でも何かしら感じてもらえるような気がして、そうやって伝えていくしかないですね、今は」
後藤「僕もこの『THE FUTURE TIMES』を作るために、ライブもやって配ったり募金集めたりしているんですけど、西に行って伝えなくてはという気持ちがすごくあります。東北から距離が離れていくことよってどんどん薄まっていく感じもあるので、どうしたら関心を持ってもらえるのかなというのがあるんです。福島のことは決して他人ごとではないから、同じことを繰り返すのはどうなんだろうという思いもすごくあるし、自分の故郷についても考えますし。浜岡が東海地震の想定震源域なんですよ。こんなところによく建てたと思うんですけど、親父や母親に『もし地震が起きて原発事故が起きたらどうするの?』って聞いても『私たちは何があってもここで死ぬ』って言うんですよね。そういうことも含めて、僕は今の福島の人たちの想いを完全にはわかったような気にはなれないですけど、想像することはできるなということは思うんです」
渡辺「両方の立場から考え続けるというか、それしかないよね。ひとつの方向からだけ見るのではなく、こっちもあるよ、ということを伝えていきたいですね」
後藤「そして常々思うのは、故郷に戻れる日々が一日でも早くきてほしい」
渡辺「うん、そのためには何でもしたいと僕は思っていますよ」
渡辺俊美(わたなべ・としみ)
1990年、TOKYO No.1 SOUL SETとしてデビュー。’02年より、ソロユニット・THE ZOOT16としての活動もスタート。’09年、山口隆(サンボマスター)・松田晋二(THE BACK HORN)・箭内道彦(風とロック)と共に、福島出身のミュージシャンとクリエーターでバンド「猪苗代湖ズ」(渡辺俊美はBASS担当)を結成。猪苗代湖ズとして、'11年4月、東日本大震災を受け、福島県復興支援チャリティーソング「I love you & I need you ふくしま」を、タワーレコード限定シングルリリース。CD販売利益全額を福島県災害対策本部に寄付する。'12年6月、渡辺俊美としての1stアルバム『としみはとしみ』をリリースした。