下岡「そういう気持ちを持ってないとやってられんよね。特に音楽なんて」
後藤「音楽は誰かを拒むものじゃないから。俺だって実生活で包容力に溢れてるわけじゃないし、嫌いな奴もいるけど。でも『お前だけは絶対聴くな!』みたいな気持ちで音楽は作れない。そういう気持ちが表現から一番遠いものだと思う。他人がいなきゃ意味がないし、結局、自分に才能があるかどうかも自分で決めることじゃなくて」
下岡「そうだね。でも僕、他人がいないと意味がないっていうの、気づくのすごい遅かったの。気づいた時びっくりした(笑)。あと、そのときもう一個気づいたことがあって。ずっとアナログフィッシュみたいな音楽やってると、初期は特に、どんだけ人と違うかが価値だと思ってたわけ。でも年取ってくると、実際は人と人って違い過ぎて、接点のほうが少ないって気づきだして。これだけ違うんだから共通項のほうが大事だなって気持ちになっていって。そこに気づいた時はデカかったなぁ。実は接点が少ないんだから愛していこうとか、抱きしめなきゃとか思う気持ち。そういうのが感覚的に理解できて、曲に出てくるようになったの、30過ぎてからだと思う」
後藤「俺も30過ぎだったよ。人ってそれぞれ違うのが当然だし、他人と関わるって基本的に面倒臭いよね。今日も園子温監督にインタビューしたんだけど、それもすごいプレッシャーなの。嫌われたりしないかなとか余計なこといっぱい考えて。人に会うことってすげぇエネルギーいるんだなって帰りの車の中でつくづく思った(笑)。もう36歳になるのに、そんな当たり前のこと改めて思った」
下岡「でも、俺が後藤くんのこと尊敬してるのはそこが大きいけどね。後藤くんさ、大きなバンドやって、ちゃんと結果残して売れてて。そういう人って自分がわかんない世界にいきなり飛び込んでいこうとはしないじゃん」
後藤「まぁ……そうだよね。売れて自分たちの現場だけが盛り上がるならね、東京ドームでやるような活動を続ければいいわけで。『NANO-MUGEN FES.』みたいなことはやんないかもね」
下岡「しかも後藤くん、よしときゃいいのにどんどん口出していくじゃん(笑)。そのバイタリティってほんとすげぇなぁと思う」
後藤「でも、ただ自分たちの音楽を好きな人を宗教的に獲得していくゲームじゃないわけよ、俺にとって音楽をやるっていうことは。売れてみて一番思ったのは、理解されてない、ってことで」
下岡「自分が?」
後藤「自分のやってることが。まったくわかってもらえないと思った。支持はされたけど、理解されてない。これはダメだ、これを続けてたら俺は死んでしまうと思って(苦笑)。たぶん……どうしてこういうことを続けてるのかって、俺もっとわかってほしいんだと思う。自分のことを。いろんな音楽を聴いたうえで、この人の音楽はこうなんだ、やっぱいいな、って言われたい」
下岡「その、支持と理解っていうのはどれくらい違うの?」
後藤「支持って……なんだろうね、ひとまとめに数だけの話をするときの感じ、かな。フェスでみんなが手を上げて、同じ感じになってるときの違和感みたいな。マスゲーム化というか、みんな揃ってみんな同じ、っていう見え方になる」
下岡「あぁ、なるほどね」
後藤「脱原発のデモだって傍から見たらそうだと思うの。外野から見ると同じように見える気持ち悪さ、っていうか。でも行ってみるとわかるけど、中に入ると面白いくらいバラバラなんだよね。それこそ10万人いれば10万通りのドラマがあって、すっごい高尚な意見を持って来た人もいれば、ほんとどうしようもない、綺麗なお姉ちゃんの後についてチンポコいじりながら来ちゃった奴もいるかもしれない(笑)。外野から見ればひとつの肉体なんだけど、その中にはいろんな細胞が集まってる。そういうモノの見方をできるかできないかで、思いって変わってくるんだよね。さっきの、主体である自分が世界のすべてではない、ミクロからマクロへ動く視点が必要、っていう話と一緒。たったひとりの異端を見て、それが全てだと思いこんじゃうのは怖いよね」
下岡「うん。最近の中国とか韓国への論調も同じものを感じて、僕はすごい嫌だなぁと思う。なんとなく情報で、なんとなく嫌いになっていく。本当にゾッとするし、なんでそれを止める想像力がないんだろうって思う。当たり前だけど、俺の中国の友達とか、普通にいい奴も嫌いな奴もいるの。もちろん文化が違うから中国人はこういう感じ、韓国人はこういう感じ、っていうのはなんとなくあるよ?でも、一人ひとりは当たり前に違うし、いい奴も悪い奴もいるのはどの国でも一緒じゃん」
後藤「想像力が問い直されてるよね。想像力の枯渇を見せてる時代だとも思うし。みんな読まないし、読めなくなってるし、書けないし、書かなくなってる。だってさ、本当に書かなきゃいけないことをしっかりと書いたものに対する批判が『長い』とか、どうなんだって思うよね(笑)。『読みづらい』とか言っちゃうの、それは読み手の責任じゃないのかっていう」
下岡「あー、そうだね」
後藤「書評とかも褒める時に『読みやすかった!』のひと言から始めちゃうとか。どんどんライトなほうに向かってる。読むって行為はそんなに簡単じゃないと思うんだよね。それなりに決意がいるし、理解力がいるし。Twitterみたいな短文しか受け付けない、長い文章を誰も読まない習慣ができあがるんじゃないかって危機感がある。Twitterってほんと撒き餌みたいな感じだよね。海に行ってコマセ撒いてる感じ(笑)。みんなバーッて食いにくるんだけど、本当の針についてるものはみんな食わないんだよ。『あれ、なんか長くない? 重くない?』みたいな感じで。原発の問題にしても、最近、だんだんそういう人が増えてきてる」
下岡「まだ一年半しか経ってないけど、食いつかない人が増えてきた感じは、あるよね。無関心というか」
後藤「みんな普通の日常に戻っていって。なんとなく原発嫌だなぁと思いながら普通に暮らして、そのまま押し黙ってく感じ。メッセージって続けないと意味ないじゃん。デモなんて特に続けることに意味があると思うんだよね。どんな表現も続けることに意味があるっていうか。まぁバンドはね、続けることに意味あるかどうかわかんないけど」
下岡「でも、続けないとわかんないことはいっぱいある。それは続けてきて思うこと。ちゃんと評価される日が来んのかはわかんないけど」
後藤「アナログフィッシュはねぇ、もっと聴かれたほうがいいよ。俺イライラするもん、こんないいバンドなのに、って(笑)」
下岡「ふふふ。まぁ闘ってもう10年経っちゃったからね、あともうちょっとは頑張れるんじゃないかなと思ってる」
アナログフィッシュ
メンバーは、下岡晃(vo&g)、佐々木健太郎(vo&b)、斉藤州一郎(ds&vo)。1999年、長野県喬木村にて、佐々木と下岡で結成。2001年より都内でライブをスタートさせる。同年4月、斉藤が加入。2003年6月、アルバム『世界は幻』をリリース。最新アルバムは、2011年9月に発売した『荒野/On the Wild Side』。2012年10月、以前より親交のあるやけのはらとコラボレーションした新曲『City of Symphony』を発表し話題を呼んだ。
「抱きしめて」アナログフィッシュ