後藤「美由紀さんの周り、人がたくさん集まってきますよね? なんでなんでしょうね。さっきの撮影中も、美由紀さんのところだけ虫が集まってきましたし(笑)」
松田「(笑)。誰かに言われたんだけど、“美由紀さんってフェアだもんね”って。誰かを一瞬たりともひいきにした瞬間、人って萎えるような気がして・・・。それが全然ないからだと思うんだけど。『ロックの会』に参加してくれたた人に、“次回は誰々さん連れてきてくださいよ”って言ったことがあったの。そしたら、“あの人は公演をお願いしても、なかなか忙しい。それに、お金もかかるよ”って言われて。私は、参加してくれているミュージシャンは、何十万人って観客を呼ぶような人たちだけど、みんな、気持ちで来てくれてる。特別扱いなんてしないですよ”って怒ったの(笑)」
後藤「純粋に集いの場に、お金を払って連れてくるのはどうなんだってことですよね」
松田「みんなで繋がってこうって話なんですよね。みんなが本当に思えば、変わるよって。私、あえて自分のネガティブなことも言うようにしてるんです。みんなと同じようにコンプレックスもあるし、恥ずかしいこともある、どん底を見たこともある。それをあえて話すんです。立ち上がろうとする人がいるなら、私の人生を、どうぞ例にしてくださいって思うから。どうぞ参考にしてくださいって。それが、人と人を繋ぐきっかけになればいいから。私はいっぱい失敗もしてきたし、自分がすごくイヤだったり、落ち込んだり、恥ずかしかったこともたくさんあった。でも、立ち上がるために、自分でも一生懸命努力したし、いろんな人たちにも支えられてきた。だから、誰でも、何度転んでも、何度でも立ち上がれるんだっていうことを伝えたい」
後藤「若い世代や、いろんな立場の人、今を共に生きる人たちに向けて、何か伝えたいことってありますか?」
松田「“あきらめるな”ですね」
後藤「いい言葉ですね」
松田「自分の人生においても、社会においても。恋愛においても仕事においても」
後藤「あきらめず続けろ、と」
松田「あきらめてしまうことで、そこまでに費やした時間を棒に振ってしまう。いいとこまで続けてきたのに、もう少しだけ手を伸ばしたら届いたかもしれないのに、ポンと捨ててしまうからゼロに戻っちゃう。ゼロに戻ってから、さあどうしようって困ってしまう人がすごく多いと思うんだよね」
後藤「積み上げてきたものを…ってことですね」
松田「諦めない方向を考えられたら、どうにかなってること多いと思う。自分のことも、多くの問題も。全てにおいてそうだと思う」
後藤「なにが本質かってことですね」
松田「私ね、昔はすごい人に対する好き嫌いが激しかったの。その人の本質も見ないで、先入観だけで、“苦手”と思ってしまったり。でも今は、あきらめない(笑)」
後藤「なんとか、信頼関係を築けるんじゃないかって?」
松田「誤解してるんじゃないかって思うようにしたの。初対面の人に“あれ?”って思うようなことを言われても、緊張して間違って言ってるんじゃないかとか、言葉足らずで意図が上手く伝わってないだけじゃないかって。昔、子供によく言ってたの。幼稚園の頃、子供が、“何々ちゃんが、意地悪なんだ”とか言うと、“もしクラス全員が、世の中の全員が、その子を嫌いだと言っても、何であなたも嫌いになるの?”って。“その子は意地悪しちゃうかもしれないけど、必ず何か原因があるからなんじゃない? 何でそうしちゃうのか聞いてあげて”って」
後藤「理由を考えてあげるって大事ですよね」
松田「何事もそうなった理由があるはずだから」
後藤「いつ会っても美由紀さんって、“受けとめんなー”って思うんですよね。すっごいでっかいグローブ持ってるなって。包容力が、すごい。どんな人でも、まずはキャッチするでしょ?」
松田「捕まえるね(笑)」
後藤「たまに心配になります(笑)。すっごいフラットすぎて」
松田「前にね、女優の友だちと買い物していたら、学生が“芸能人だ”って寄ってきたの。友だちは、いなくなっちゃったんだけど、私は話し込んじゃって。“人生で初めて芸能人見た”“そうなんだ、良かったね”なんて(笑)」
後藤「本当にフラットなんですよね。その姿勢は見習いたいなって。僕は、最初、少し考えるんで。どっちかっていうと美由紀さんと間逆です。疑り深い方の人間。余計なことばっかり考えてしまう」
松田「でも、男の人は縦糸の生き物だから。女は横糸。生き物自体がそうなんだと思うな」
後藤「最後に、美由紀さんが、どんな未来になったらいいなと思っているのかお聞きできればと思います」
松田「やっぱり、まずは脱原発ですね。脱原発を決めたって、やることは山ほどある。再生エネルギーをどうするか。核の廃棄物をどうするか。すぐにやらなきゃいけない問題ばかり。脱原発を、本当に進めてほしい。それが未来への願いかな。そのためには、原発ゼロってことを、まず決めないことには進まない。そこから、本当にゼロにするためには時間がかかると思う。でも、ゼロにすると決めるところから考えていくことが大事」
後藤「なるほど」
松田「原発の問題に興味を持たない人には、“知ってみて”っていう感覚が強いかな。こんなことが起こってるんだって。さっきの話じゃないけど、若い人たちに言いたい。“これは、他人の話じゃない”って」
後藤「他人事じゃないですよね。起こってることの全ては」
松田「この前、デモに参加している人の年齢層が高かくて、それにとっても感動したんです。将来のあなたたちのために頑張ってるんだよって」
後藤「デモの参加者、高齢の方が多いですよね」
松田「もちろん、知らなかったとはいえ、自分たちがやってきたことを止めなければいけないって思ってると思う。若い人たちの未来のために必死で止めようとしてるのよって」
後藤「本当にそうですね」
松田「人が人を支えてあげる世界。困っている人に誰かが進むべき道を示してあげる世界。そんな世界に未来がなればなって思う」
後藤「そんな未来が訪れるために、必要なものって何だと思います?」
松田「愛かな。いろんな人たちが愛する世の中になってほしい。争いや、犯罪、多くの問題が、なぜ起こるのか。他者を少しだけ思いやれたら、なくせる問題があるはずだから」
後藤「さっきの、いじめっ子の話のように、理由を考えてあげることって、そういうことですよね」
松田「すべてのことに、原因や理由があるから。生まれたての赤ちゃんは、何も背負ってないでしょ。そこから経験したことに理由と原因がある。そういうことを愛を持って、理解していきたい。若いうちだけ愛が必要なわけではないし、人間であれば、ずっと愛が必要。恋愛だけが愛じゃない。人が人を支えてあげること、方向を示してあげること。そんな未来になってくれればいいな」
松田美由紀(まつだ・みゆき)
東京生まれ。モデル活動を経て、1979年映画『金田一耕助の冒険』(大林宣彦監督)でスクリーンデビュー。演技の幅広い個性派女優であるとともに、『松田優作全集』(扶桑社)、『松田優作全集改訂版』(幻冬舎)ではアートディレクションを務めるほか、フリーペーパーの制作やフォトグラフなど、制作活動も意欲的に行なう。08年、写真家として初の写真集「私の好きな孤独−片山瞳」をリトルモアより刊行。12年、「GENROQ」の連載をまとめた写真集『ボクノクルマ』が発売。待機作として映画『女たちの都~ワッゲンオッゲン~』(13年秋に全国公開予定)が控えている。