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変革と未来-前編-| 駒崎弘樹

誰かを悪者にするのは簡単、その奥にある問題の本質を見極めなきゃ

後藤 「駒崎さんは、震災前から“上手にプランを作ると、官僚のほうが僕のアイデア盗むんだ”って言ってたじゃないですか。あの話、すごく面白かったんですけど(笑)」

駒崎 「世の中全体を個人がいきなり変えようとするのは、やっぱり難しいんです。でも、あるひとつの成功事例を作って、それを国が制度化してくれたら、個人で続けていくよりも多くの人が助けられる。だったら、その方が社会全体により良くなっていいじゃないかと思うようになりました。 実は、日本の福祉制度って結構前からそういうことの繰り返しなんです。まずは民間の人が寄付などを募りながらリスクを背負ってやってみる。その中でうまくいったものが官の目について、制度化されてバッと広がる。例えば、児童養護施設もそうですよ。あれも、明治時代、岡山県に住んでいたキリスト教徒の石井さんって人が、未亡人の母親から一人の男児を引き取ったところから始まっているんです。これをきっかけに孤児院が生まれて、どんどん数が増えていきました。孤児院の認知度が高まるにつれて、地域みんなでそれをバックアップするようにもなって。そういう一連の動きがあって、戦後に初めて制度化され、呼び方も“孤児院”から“児童養護施設”に変わりました」

後藤 「なるほど」

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駒崎 「こういう事例が、他にもたくさんあるんですよ。だから、民間の僕らが、民間の声を拾って必要なものを作っていかないと。何もしないで官僚が選りすぐりの制度を作ってくれるっていうことは、もはや求められない。少なくとも、これまでそうではなかった」

後藤 「いいですね。駒崎さんのような良識と行動力のある人たちが、ちゃんとフィールドワークやヒアリングをした上でシステムを作って、それをさらに国や自治体が広げていくっていう仕組み。そういう民間の活動に対して、行政からの援助がもっと積極的にあっても良さそうですね」

駒崎 「お金の使い方に関しては、色々と問題を抱えてますよ。以前に、国の被災地復興のための予算がうまく使いきれていないっていうのが問題になったことがありますよね。僕ね、あの話でちょっと危険だなと思ったのは、みんな“使いきれ使いきれ!”って言うじゃないですか。でも、無理やり使いきろうとすると、どうしてもインフラなどの“モノ”への投資にならざるを得ない。そうすると、奥尻島みたいになっちゃう。奥尻島って、1993年に大規模な地震の被害に遭って、その後インフラは以前よりも立派なものがたくさんできたんですが、人口は半減してしまってるんですね。同じことが、これから東北全体で起きてしまう可能性がある」

後藤 「そうなんですね」

駒崎 「日本の予算システムは“1年使い切り”が原則なので、復興支援のために大きな額を割いても、ビルや道路の建設とかって話になっちゃう。教育や福祉は1年で完結するものじゃないから、必要なのにお金をかけることができない。そういうことに関して本当は、別枠の基金みたいな形にして“これは20年間かけて使います”という風に、予算のサイクルから外してやらないといけない。それができれば、子供達や困っている人たちのために、ちゃんと使っていける。だから、“復興のための予算をなんで余らせてるんだ?”っていう論調は、核心から少しズレてるんです」

後藤 「すごく疑問に思ってたんですけど、復興予算がまったく復興と関係ないような費用に使われてたりもしましたよね。あれも、“使い切ろう”って法則が働いてるってことですか?」

駒崎 「もう、全部そうなんですよ。要は“余らせたら翌年は減らされる”ということになるので、それは官僚としては禁忌的なことで、罰を与えられてしまう。彼らは、自分の部署にどれだけ予算を増やすかっていうことを、一生懸命やっている。そうしなければ、予算はどんどん削られていって、自分の部署が日陰になってしまう。いまだに、予算が右肩上がりで増えていった時代のやり方が踏襲されているんですよ。そこを“無理して使わずに、ちゃんと長い目で見て有効活用していこうよ”って流れを作るためには、実は日本の予算の仕組みそのものを、根本的に見直さなければならない。でも、それはすぐには実行できない。だから、別枠で基金作って、そこのお金だけでも20年30年スパンで……ということを始めるべきだった。それを主導する人はいなかったし、そういう世論はなかった」

後藤 「確かにそうですね。駒崎さんのお話を聞いていると、そんなことをしていたら、どれだけ増税しても借金は減らないっていうのがよく分かります。 ただ、日本のエリートとされる官僚たちがどういう回路で、僕らのような一般市民から見てもおかしい予算編成を通していくのか……っていうのが、本当に不思議です。東京大学など有名で名門の大学を出ていて、頭も切れる人たちが、どうしてそんな資金繰りをしてしまうのか、よく理解できないんです」

駒崎 「僕もそう思って、本当のところを知りたくて、官僚たちと積極的に会って話をしてきました。ただね、彼らって一人ひとりと会うと、普通の人なんですよ。そして、自分達のやっていることが正義だと信じている。彼らの論理というと、例えば余った予算について、“しょうもないゼネコンの人たちに使うくらいだったら、ちょっと関係ないかもしれないけど、ここの部分に使った方が日本のためになるじゃないですか”って。詳しく聞いてみると、確かに一理はあるんですよね。でも、その背後に何があるかっていうと、やっぱり“そもそも使い切らなきゃいけないってのがおかしい”っていう問題なんですよ」

後藤 「つまり、本来的にはシステムを見直さないといけないってことですよね」

駒崎 「そうそう。私達は、つぶさに本質を見つめていかなければならないんです。誰かを悪者にして“アイツが悪いじゃん”って批判するのは簡単だけど、その奥にはもっと手ごわい構造問題があって、本当はみんなでそれを倒さないといけない。じゃないと、人を何人も入れ替えたところで、結局同じことの繰り返しになってしまう。 海外では一部、3年間で予算を組みたてようみたいな動きや仕組みとかがあって、会計上の工夫も色々試行錯誤されてるんですよ。日本は、そういう地味で内部的な構造問題については、しっかりと腰を据えてやらないといけなくて。ただ、腰を据えてやろうにも、1年も経たないうちに政権が終わるから、取っかかりがつかめないんですよ。ころころ政権が変わるツケが、こういう所に出てきてるんです」

自主的な市民活動こそが、これからの希望につながる

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後藤 「先ほど“おまかせ民主主義からの脱却”という話が出ましたけど、具体的にはどういったことが必要だと思われてますか?」

駒崎 「まずは、国や自治体がどのようにお金を使っていて、それがどのような効果をもたらしたか、ということを民間の僕らがキチンと検証するべき。例えばアメリカだと、政府が何にいくら使ったかっていうのをサイトで簡単に検証できるんです。そのシステム作りに、民間のプログラマーの人が参加してたりする。そうやって、“オープンガバメント”という概念の下、政治の透明化を推し進めているんです」

後藤 「はい」

駒崎 「国民側が“頭いい人がやってるんだから、うまくやってくれてるんだろう”と放置していると、政府側もその状況に甘んじてしまって、結局いろいろなことがグダグダになってしまう。やっぱり、国民が政治に積極的にコミットし、変革を迫ったりして緊張感を作っていかなきゃ、民主主義はメンテナンスできない。民主主義って車と同じで、メンテナンスしないと錆ついていったり、ガタガタになって動かなくなったりするんです。今、動かなくなった車に乗っているのが、私たちなんですよ。最近の僕は、その車の助手席に乗って“あれ、なんかガタガタすんじゃん。ちょっと整備会社の人、メンテお願いしますよー”って言うような存在だったんだと思うんですよね」

後藤 「なるほど。そういう比喩で言うなら、ずっと後部座席に乗ってるのが私たち国民で、頑張って目的地に着いたときに“ここじゃないじゃないか”って言ってるような感じですね。着いてから言うんじゃなくて、向かってるときに言わないといけない。そういう意味で、自主的な市民活動っていうのは重要なんですね」

駒崎 「その通りだと思います。だから、ゴッチさんがこの媒体をやられているのは、すごい民主主義的で重要なんですよ。これまで、ミュージシャンが政治的な発言をするのは、なんとなくタブーになってる風潮がありましたよね。そういうことを恐れずに、前に踏み出して“みんなでもっと考えよう”と発信していくことは、意見も意識も広がるし、そこからまた新たな対話が生まれていく。いろんな人が、いろんなこと言っていい。“いろんな意見があっていいじゃないか”と認め合って、話し合う機会がどんどん生まれていくことによって、きっと人はもっともっと主体になっていくと思います」

後藤 「はい」

駒崎 「僕は強く感じてるんですけど、NPOの人間がそういうこと広めるのには限界があるんです。だけど、いわゆるミュージシャンとか、文化を体現するような人たちが“考えていこうよ”って言った時の波及効果って、やっぱり絶大なんですよ。僕らは現場にいて多くを知っているし、問題の解決のために様々なことにも取り組んでいるけれども、届く言葉を持っていない。だけど、ゴッチさんみたいな人たちは、届く言葉を持っていらっしゃるので、そういう発言をしてくださるのは、とっても嬉しいんです」

後藤 「まあ、僕ら、声だけが大きいんで(笑)、拡声器みたいなものです。この媒体を通じて言いたいのは、“変わらなければいけないのは、自分たちなんだ”っていうことなんですよ。インターネットやテレビの前でぶつぶつ言ってるだけでは、何も変わらないんだって。街に出なきゃ、自分が動かなきゃ変わらないし、みんなでユナイトして面白いもの作らなきゃいけないし。実際、孤児院の話もそうですけど、ひとりが始めた行為が、国も腰を上げるようなムーブメントになったりもするわけで。そういうものが、もっと必要なんじゃないかと。南相馬の人が自分たちで求めたこと、“インドアパーク、来てほしい!”って言ったら、本当に来た。これって、すごいことだと思うんですよね」

駒崎 「その後、さらに彼らは士気が高まって。外にある公園も、また安全に使えるように整備しようって動き出したんです。それで、色々な所に掛けあってお金を集めてきて、除染をしたり遊具を新しく作ったりして、実際に公園を再生させたんですよ」

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後藤 「高見公園ですよね。ニュースになってましたね」

駒崎 「ひとつの成功事例ができると、人ってこんなにも躍動的になれるんだってなって。次のステップにすぐつながっているのが、本当に素晴らしいなと」

後藤 「ちゃんと人と人とが繋がり始めて、躍動してきてるんですよね。どんどん新しい人も巻き込んで、大きくなっているし。状況は厳しい場所かもしれませんが、そういう自発的な動きには、確かな希望を感じます」

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園子温

駒崎弘樹(こまざき・ひろき)

1979年生まれ。1999年慶應義塾大学総合政策学部入学。在学中に学生ITベンチャー経営者として、様々な技術を事業化。同大卒業後「地域の力によって病児保育問題を解決し、育児と仕事を両立するのが当然の社会をつくれまいか」と考え、ITベンチャーを共同経営者に譲渡しフローレンスをスタート。日本初の“共済型・非施設型”の病児保育サービスとして展開。また2010年から待機児童問題の解決のため、空き住戸を使った「おうち保育園」を展開。政府の待機児童対策政策に採用される。内閣府非常勤国家公務員(政策調査員)、厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進委員、NHK中央審議会委員、内閣府「新しい公共」専門調査会推進委員、明治学院大学非常勤講師、慶應義塾大学非常勤講師など歴任。