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集まって暮らすことの意義  対談:竹内昌義(たけうち・まさよし)

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日本の林業の可能性を考える

竹内「今、ドイツ、オーストリア、イタリア北部といった、いわゆる中央ヨーロッパには断熱性の高い家がどんどんできています。都市から離れている場合にはペレットとか、まきのストーブが調理台になっていて、そこで沸かしたお湯を回して建物の暖房にしている。熱変換器と呼びますが、給湯と暖房を1台のペレットストーブでできるようになりつつあるんですよ。「地球のことを考えているんですね」と言ったら、「そうじゃないよ」って言っていて」

後藤「エコじゃないんですね、別に」

竹内「そう。「ペレットは石油とか重油の半分の値段なんだから、こっちでやるしかないだろう」って言っていた」

後藤「なるほど。木のほうが安いんだっていうことですね。そういう流れになっていく可能性も十分ありますよね」

竹内「それこそ油田じゃないですけど、「あれ、もっと使おうや」っていう話ですよね。今までの仕組みの問題点は、山から出していくとき、中間の流通にものすごくコストがかかっていること。林業の人たちがちゃんと家をつくれる仕組みがあって、最終的な消費者に届くようなものになるといい。産直ですよね。消費者と林家がくっ付くと、ちゃんとお金が落ちるようになってくる」

後藤「花粉症とかの問題とも関連づけて、もっとバシバシ間伐してほしいと思いますけどね、単純に(笑)」

竹内「本当に。それを使うことで、また山にお金が落ちて、おじさんたち、木こりの林家の人たちがお金を使ってくれて、地域が潤えばいい」

オフグリッドで自立するという気持ち

竹内「日本でも、電気を自給してやれるんじゃないかって言い始めている若い人たちが多いですよね。いわゆる『オフグリッド』にしないかっていうことです。都会ではなくてちょっと地方なんだけど、“だったら確実にできるよね”って。グリーンズの鈴木菜央さんとか、暮らし方冒険家の伊藤菜衣子さんも近いかな」

後藤「同じ特集で、札幌の伊藤さんたちに話を伺ってきました。軽くやっているように見えますけど、いろいろ挑戦していますよね」

竹内「彼らの活動は“自立したい”っていう気持ちから始まって、意外といろんな取材の上に成り立っているんです。ストーブでバイオマスを使って、二酸化炭素を出さないこともそう。断熱材にしても、日本だと『スタイロフォーム』とか石油由来の製品を使うことが多いですが、本当のサステナビリティを考えて、羊毛の断熱材まで行き着いた。北海道ならではだし、ヨーロッパでは結構普及しているんです」

後藤「彼らがいいのは“竹内さんのエコハウスを見学したら、とにかく快適だった。それでいいじゃない”みたいな、こっちのほうが気持ちがいいんだもん!っていうカジュアルな雰囲気でやっているところでした。でも、羊毛を毛糸用洗剤で洗って、ほぐして、綿状にして、自分たちで断熱材として壁の裏側に詰めるっていうのはスゴい」

竹内「再生可能エネルギーがどうのこうのって難しいことを言う前に“いいよ、自分たちだけでやればいいじゃん”みたいな方が、僕もいいと思う」

後藤「僕も頑張って、音楽の現場というか、コンサートツアーで楽器だけはオフグリッドで鳴らそうとしています。もう少し、太陽光発電用の電池が持ち運 びやすいように小さくなるといいなとは思っていて。今はツアーのトラックが1台増えちゃう、という状況なので」

竹内「ああ、そうなんですか」

後藤「フェスのステージの電源ぐらいは、横浜アリーナの規模で賄えています。空調とかは会場のものですけどね。でも何パーセントかの電力は自前でまかなえるっていうことに希望があるよな、と思います」

竹内「ちょっとでもできると、オフグリッドという言葉が現実的なものとして認識できるんです。“やってみよっかな?”から“意外とできるじゃん!”になるわけですから」

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竹内昌義(たけうち・まさよし)

竹内昌義(たけうち・まさよし)

1962年神奈川県生まれ。建築家、東北芸術工科大学教授。95年から建築設計事務所『みかんぐみ』を共同主宰。主な代表作に『SHIBUYA AX』『愛・地球博トヨタグループ館』『伊那東小学校』『マルヤガーデンズ』『山形エコハウス』など。『団地再生計画/みかんぐみのリノベーションカタログ』『未来の住宅』『原発と建築家』『図解 エコハウス』など、著書・共著書多数。