HOME < 集まって暮らすことの意義 対談:竹内昌義(たけうち・まさよし)

集まって暮らすことの意義  対談:竹内昌義(たけうち・まさよし)

btn_repo btn_taidan_off

循環型社会を目指すために

後藤「僕は地域熱供給システムなども震災以降に知ったんですが、ちゃんとこうして導入されていくんだと思って、今回の取材では感動したというか、嬉しかったですね」

竹内「オガールのプロジェクトは『循環型社会』というものを代々の町長さんが目指して“自分たちのところで何とかできるものをしていこう”と始まったのがきっかけです」

後藤「大きな発電所でお湯を沸かして、水蒸気でタービンを回して電気をつくって、その電気を送ってもう一度、家でお湯を沸かしているのってスゴいなぁと思いながらも、もちろんロスがあるわけだから、震災後にはその効率の悪さを考えるようになりましたよね」

竹内「同感です」

後藤「それに、集まって住むのはいいことだなと思います。僕はヨーロッパにツアーへ行って電車に乗っていたとき、家って意外と集まっていると感じたんですね。インフラなどを考えるとその方がきっと合理的なんだろうと思いました。逆に、日本って親切な国だなと思うのは、山奥のポカンと離れた場所に1軒だけ家があっても、そこまで水道が来て、電気が来て、ガスはプロパンでしょうけど、インフラが行き届いている。除雪についても考えると、将来、本当に山奥まで除雪車を走らせることを自治体がキープできるか分からない。地域のことだけ考えたら、集まって熱を共有し合ったり、地元の木を燃料にした方がロスも少ないでしょうから安く済むのでしょうね」

竹内「かなり安くなると言われていますね。熱の供給って、ほとんど日本では住宅にしてないんじゃないですか。住田町(岩手)の災害公営住宅ではやっていたと思いますけど」

後藤「住田町の林業の方などにお話を聞くと、やっぱり木材チップのボイラーがもう少し普及してくれると、タンコロと呼ばれる要らない切り株だったりを全部、お金に換えられるそうです」

地域熱供給システムはあえて選択制に

竹内「木材って、製材になる量が半分なんだそうですよ。パルプにする部分もあるけれど、残り半分はゴミになる」

後藤「そのパルプも、中国産に押されているから厳しいという話です。木材にもランクがあるそうで、捨てるしかなかった下のランクを燃料に使えるといいという話でした。皆さんバイオマスにも熱心に関心を持っています。本当にチップを使ってエネルギーにしているのを、紫波町で初めて見学できました」

竹内「ステーションから57戸に熱を供給できる体制になっていますが、あえて選択制にしているんです。それって大事なことで、その費用を入れると家の建設費用も高くなってくるじゃないですか。逆に、だんだんガスや石油の料金が上がってきたら“やっぱりこっちのほうがいいかしら”みたいに選んでもらえればいいなという思いです。エネルギーステーションの側も努力しつつ、消費者が選択するのが健全な姿だなと思ってて」

後藤「選挙じゃないけど、みんながそういうところにお金を出して選ぶという行為こそ、僕は投票だと思います。選挙で投票に行くことだけが政治的だと思う人がいるかもしれないけど、ちょっといいものを選ぶとか、頑張っている農家から買うとか、そういう日々の暮らしの中にあるささやかなことが全部投票で、それによって本当は世の中ってガラッと変わるのにな、と思うんです」

cover
竹内昌義(たけうち・まさよし)

竹内昌義(たけうち・まさよし)

1962年神奈川県生まれ。建築家、東北芸術工科大学教授。95年から建築設計事務所『みかんぐみ』を共同主宰。主な代表作に『SHIBUYA AX』『愛・地球博トヨタグループ館』『伊那東小学校』『マルヤガーデンズ』『山形エコハウス』など。『団地再生計画/みかんぐみのリノベーションカタログ』『未来の住宅』『原発と建築家』『図解 エコハウス』など、著書・共著書多数。