後藤「俺いまだに信じられないけど、そういうことを世の中に向けて発言すると、すごいネガティブなリアクションが返ってくるじゃない? こっちとしては、そんなつもりはないんだけど。あれは何なんだろうね?」
大木「わかるわかる。ああいうときには、俺はバカなふりをするようにしてる。ミュージシャンってバカだと思うからさ、『そんなこと知らねえよ!』って言っちゃえばいいの(笑)。もちろんキズつくけどね。あとさ、ACIDMANは『NO NUKE』って書いたTシャツとバッジを作って、収益を全部福島に寄付してるんだけど、それを作る時に当時の事務所の社長が『そんなのは作んないほうがいい、それは政治活動だ』と言いだして、口論になったの。『政治活動じゃないよ! お金がちょっとでも必要な、いま避難してる自治体に1円でも多く払いたいんだ』って。そこはなんとかOKしてもらったんだけど、その発想のどっちがキレイごとだろうな?と思うの。俺たちは『キレイごと言ってる』ってよく言われるけど、俺にはこっちの姿勢のほうがリアリティあるし、現実を行ってる気がする。だから俺は、自分への批判めいたことには、耳は貸すけど、心は絶対動かさないようにしようと思う」
後藤「そうだよね。音楽にまつわる大人の人たちって、政治にちょっとでも足を突っ込みそうになると、とたんに臆病になるのは何なんだろうね?(笑)」
大木「(笑)それ、すごくあるよね。怖いんだろうね、いろいろ」
後藤「自主規制みたいなのが働くっていうか。俺もテレビに出るときに『NO NUKES Tシャツ着ないでください』とか『チベットの旗はちょっと』って言われたしさ。原発云々も、ひとりの人間としての意見というか、考えなんだよね。それでたまたまミュージシャンだったから、こういうふうに何かを表すと影響は出てくるだろうけど。でも、それをして何が悪い?って思ったりするんだけどな」
大木「うん、全然いいと思うよ。俺は」
後藤「でも若い子たちからは『ミュージシャンは音楽だけやっててください』っていう意見がわりとあってね。それに対してはいつも迷うこともあるというか……その気持ちがすごくわかるから」
大木「ああ、俺もわかる。でもそれはさっき言ってたことと一緒でいいんじゃないかな? やりたいから、やればいいんだよ」
後藤「そうなんだよね。俺も昔は『WE ARE THE WORLD』とか『LIVE AID』もすごくウソ臭いなと思ってたの。U2とかですら “ボノって偉そうだな” とか……」
大木「俺も思ってたよ(笑)」
後藤「(笑)思ってたんだけど。でも自分が始めてみると“あ、正しい”って思ったんだよね。あの人たちはすごい」
大木「そうそうそう。“真実は強い”っていうことだよね。わかるわかる」
後藤「ボノとかは、そういう雑音も引き受けてやってんだなってわかるというか。だから10代の子たちが“ウサン臭い”って思う気持ちもすごくわかるんだけど、とはいえ俺たちはもう目の前にあることを黙ってフタできないんだよ。で、そこで二の足踏んでる人たちが多い中、大木くんみたいに『NO NUKES』に参加してくれる同世代がいるのは心強いんだよね。とにかく」
大木「俺は昔から、とくに難しい問題は、必ずシンプルに考えるようにしてる。そういうときこそ、もう子供のような感覚で考えるのが正しいと思う。やっぱり“愛は勝つ、正義は勝つ”んだよね。それは余計なことを考えた10代、20代を経たから出た想いだね。いろんなことを考えて、戦略練って、頭使って、それで人と接してても、結局意味がなかった。だけど、まっすぐぶつかれば、人は心を開いてくれる。俺、古代マヤ文明の『インラケチ』って言葉が好きなんだけど、それは、“目の前の人は鏡だと、自分だと思え”ということなの。自分が隠したら、相手も隠す。自分がその人のこと、ちょっとでも嫌いなら、相手も同じふうに思っていると。だから俺は、たとえば嫌いな人には嫌いだと言うことにしてるし、でも好きなところを見て、好きだとも言うようにしてる。なるべくそういうふうにしてると、みんながどんどんオープンになってくれるんだよね。こっちが開けば、世界が変わる。世界を変えたいんだったら、まずは自分が変わる。30歳前後で、そういうひとつの目覚めがあったの。そうするとすごく楽になって、あまり怖いものがなくなったね」
後藤「すごいね。感心しちゃうよ」
大木「いやいやいや(笑)。アルバム『新世界』ではそうしたことを表現したかった。今までまっすぐに見てた景色を、ちょっと右に見るだけ、左に見るだけ。そういう生き方をするだけで、自分が変わるじゃない? そうするとそこで変わった人間と出会って、その人に影響されて、ポジティブなエネルギーにどんどん変わっていく……ということが、世界を変える一番の近道だと俺は思ってる。法律でどんなに変えようが、戦争をどんなに起こそうが、人間は “戦争反対” って永遠に言い続けるわけですよ。だけど戦争をやっているわけです。俺たちもその恩恵を受けてここに生きているわけだけど、こんな大いなる矛盾は早く直したほうがいいと誰もが思っているということは、みんながやっぱり価値観を変えなきゃいけないんだよ。大きな流れに乗るんじゃなくて、自分自身が考えて、ガラッと変わる勇気を持つというか。そのちょっとした手助けが音楽にはあるのかな、と。そこではネガティブなこともだけど、もちろんポジティブなことも、どっちもちゃんと見なきゃいけないんだろうなと思う」
後藤「うん、素晴らしいと思う。本当にそうだよね。もう、大木くんの言うとおり。音楽が世界を変えるとしたら、それしかないよ。まったくもって」
大木「まずは一人ひとりだと思う。本当に。でも俺は傍目から見てるだけだけど、ゴッチはすごいなと思う。いろんなミュージシャン、先輩も後輩もみんな『すごい』って言ってるよ。そのバイタリティとエネルギーには、俺らは勝てないからさ」
後藤「いやいや、俺はこうして面白い人に話聞きに行ってるだけだからさ(笑)」
大木「いや、そこにちゃんと意味があると思うよ。芯があるからさ。そこが強いところだと思う」
後藤「でも大木くんはバランスがいいよね。頭がいいけどさ、ウェットじゃない感じがする」
大木「そう。ドライ(笑)」
後藤「俺とか超ウェットだもん。ひきずっちゃうんだよね(笑)。ねちっこいんだ」
大木「俺は自分のことを信じてて、自分がルールだと思ってるからね。自分が正しいことをやってれば、間違わないだろうと。で、まあ、間違ったら最悪死ぬだけだと思えば……死をちゃんと捉えないとダメなんだよね。その死というのも幻想の怖さだったりするので、それもちゃんと向き合っていればいいと思う。痛くなきゃ死んでもいいという人生を歩めたらなと思ってますね」
後藤「音楽と哲学が一体みたいになってるよね(笑)。何かを問うてるようなさ。歌も“あそこのバス停がどう”とか、出てこないもんね」
大木「それができる人は、うらやましいよ(笑)。俺、そういうことが書けないんだよね」
後藤「未来については、どんなことを考えてる?」
大木「うん、このことはWEBか何かで見たから知ってる人も多いと思うけど……子供たちに未来の絵を描かせた時に、俺たちの時代は近未来的で、灰色が多くて、ビルが建ってて、車が空飛んでる、いわゆるSFなイメージの絵がほとんどだったらしいの。でも今の子供たちの絵は、緑が多いらしいのね。社会がどうだろうが教育がどうだろうが、子供たちは子供たちで、ものすごく強いものを感じてるのかな、と思う」
後藤「なるほど!うん!」
大木「未来に対して、こちら側が過保護に作らなくても、なんとなくね。ポジティブすぎるかもしれないだけど。だから大人もある種無責任で、自分が正しいと思ったことをやってれば、未来は美しくなるんじゃないかなって、なんとなく思ってる。子供には勝てないと思うんですよ。どう考えても。ムダなこと考えないし、自分のことばっかり考えてるわけで」
後藤「そうだね。でも成長していく過程でスポイルするシステムがあるようにも感じる。教育でも、企業にとって国にとって使いやすい人を作ってくわけじゃない? 育てていくというか。そういう流れに抗うために、およそ一般の芸術はあるんじゃないかっていう気がする。音楽も含めて」
大木「うんうん、たしかに。その通りだと思う」
後藤「だから俺らみたいな変わったおじさんがいることによって(笑)、そういうことに気付いてもらえたらいいなと思うけどね。あと話してて思ったけど、僕はね、あんまり人間のことを信用してないというか(笑)」
大木「(笑)さすが書ける人だよ。物書ける人ってそうだもん、基本」
後藤「基本的には、絶望を一回してからやってるみたいな感じなんだよね。もう絶望しかかってるというか。これはいとうせいこうさんとかも言ってるけど……ちょっと考えると絶望的な気分になってくるけど、文学や音楽でささやかな抵抗をしている人やその作品のおかげで、どうにかギリギリ保てているって。俺もそんな感じがしてるの。大木くんはそのへん、どういうふうに捉えてるの?」
大木「それは俺も一緒だね。頭使ってマジメに物事考えだすと、もう本当に……絶望というよりも、カオスになる。“訳わかんねえな”って、不条理が多すぎる。だからそういうときはなるべく頭使わないようにしてるかな。“バカであろうバカであろう”といつも思ってるっていう」
後藤「それは頭いいから、ちゃんとできるんだと思うよ。そういう防衛反応ができるんだね。俺はもう脳が日本酒とかで溶けてきてるから(笑)。半分ぐらい酒カスになってるから」
大木「(笑)とにかくあまり難しいこと考えずに、シンプルというのが一番。それは自分に正直に、という意味でね。そうすれば絶対に未来はあるというか……とにかく美しいものになってほしいなと思います」
後藤「うん。大木くんはシンプルにしてるんだね、考え方を」
大木「そう、すごくシンプルにしてる。もともとが俺、他人をすごく疑う人間で、こうやって話してても“これ、本当のこと言ってるのかな?”って考えるわけ。ずっと昔っから、そう。そんな自分がもうイヤになったの! 太くなくてさ。だから全部オープンにして、バカって他人に思われてるほうが、まだちょっと楽というかね」
後藤「でも話を聞いてて、整理してもらったような気分になりました。今日はどうもありがとうございました」
大木「ありがとうございました!」
大木伸夫(おおき・のぶお)
1977年埼玉県生まれ。“静”と”動”を行き来する幅広いサウンドで3ピースの可能性を広げ続けるロックバンド、ACIDMANのボーカル&ギター。1997年ACIDMANを結成。以後、ACIDMANの楽曲の全ての曲の作詞を手掛る。2002年10月、デビュー・アルバム『創』を発表。2013年2月、9枚目のオリジナル・アルバム『新世界』をリリース。同作を携え、6月から韓国・台湾公演を含む全18本の全国ツアーを展開。ファイナルは、7月26日日本武道館に登場。この武道館公演の模様を収めたライブDVD/Blu-ray『LIVE TOUR“新世界”in日本武道館』を12月18日(水)にリリース。また6月より、自らの楽曲名を掲げた新たな事務所『FREESTAR』を立ち上げた。