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音楽と未来 ─ 自分の歌を聴きたいって言ってくれる人がいる限りは。(草野マサムネ)

演奏なり歌なりを披露して、それに見合う対価をいただく。俺らがやってることもこれがベーシックなんだなと思いましたね。

後藤「でも音楽の現場で、そうやって“これ、どうなのよ?”みたいに思ってることって、世間一般のことと共通項があるような気がいつもしてます。ある種の鏡になってるっていうか。ミュージシャンならライブとか、フィジカルな現場に対する愛着が高まってることは、社会が高度に情報化してることと繋がってるし。反動というか」

草野「そうだね。ほかのジャンルでも、まあ映画とかにしても、今はけっこう安く撮れちゃったりするからね」

後藤「はい。カルチャーの分野だけを見回しても同じことが起きてるという認識があるから、音楽と容れ物について自分が考えてることは無駄じゃないというか。どこか応用できるんじゃないかと思って、いつも考えています」

草野「たぶん俺、いま中学生とかだったらYouTubeで聴くだけで充分満足するような気がするな。好きな曲についても」

後藤「僕もそんな気がします。というか、夢のようだと思いますよ。今はもうタダで、ネット上に音楽が山ほどあって。でもそれは、こと音楽の未来を考えたら、すごく明るいことのような気がするんですけどね。東京にいるトンガったヤツじゃなくても、田舎町の子とかでもトンガった音楽にたどりつくフェアな土台が登場したことが、音楽における一番輝かしいインターネットの功績だと思うんですけど」

草野「うん。そうですね」

後藤「あと、マサムネさんに、ひとつ聞きたいことがあるんですよ。べつに問い詰めたいわけじゃないんですけど、ミュージシャンが政治的な発言をしたり社会に対して発言することって、どう思います?」

草野「うんとね……自分は、リスナーとしては、それを求めちゃうんだけど。ただ、当のミュージシャンとしては、勉強してないっていう負い目もあって、ちょっと慎重になっちゃうかな。だけど“これはちょっとおかしいんじゃないか”っていうようなことに関しては、自分のブログっていうか、WEB会員の人しか見れないところだけど、そこで小出しに書いたりはするんだけど。やっぱり……どんな問題に対しても、断言できないんですよね」

後藤「なるほど。そうですよね」

草野「難しいし。そうなると、いろいろと面倒くさくなることも多いし」

後藤「そうなんですよね。僕も、何でこんなに面倒くさいところに着地したのか、全然わからないんですけど(笑)。どうしてこんな面倒くさいことしてるんだろう、っていう。10代の頃はミュージシャンがやるチャリティとか大嫌いだったんです。だけどこの歳になって、震災が起きて、“ああ、俺、何かやらなきゃダメだな”と思っただけなんですけど」

草野「うんうん」

後藤「あと、悔しかったのもありますね。おじさんたちの中に“最近の若い奴らはどうして(忌野)清志郎みたいにやらないんだ!”みたいに言ってくる人たちがいて。“いやいやいや”みたいな」

草野「そういうのは斉藤(和義)くんとかも頑張ってるよね」

後藤「そうですよね。最初の替え歌とかも、ものすごい賛否両論ありましたもんね。ミュージシャンの中でもあれが好きとか嫌いとか、たぶん分かれてると思うんですけど。そういう波風が立ってナンボな気もしますしね。でも、僕がズバリ解決できるようなことなんてひとつもないって、わかってるんです(笑)。みんなそうだと思うんですけど、考えるきっかけは絶対必要な気がして……。新聞を作りながらも、“面倒だな”っていう気持ちは、今でも少しはあります」

草野「そうだね。それを、やってる音楽とリンクさせられるのも、ちょっと微妙かなと思うこともあるし」

後藤「そうなんですよね。音楽をある種の政治性から離れたところで成立させたい、みたいなことはずっと思ってるし、今でも思ってるんですけどね。プロテストソングみたいなのって、あまり好きじゃないというか、自分でやりたいと思わないというか。まあ、だから新聞を作ったところもありますけどね。音楽のチャンネルから外さないとならなかった。これらの問題を丸々歌えやなんてしない、みたいな」

草野「欧米のミュージシャンは、わりとそういう立ち位置をはっきりさせてる人が多いでしょ? だけど日本の社会ってあんまりなじまないというか、よっぽど考えてやんないと難しいのかなと思うこともあるし……」

後藤「ですよね」

草野「あと、正直に全部言っちゃうと、敵がすごいできちゃうかもしれない、っていうのもある。だけどウソはつきたくないので、だったらあんまり言わないほうがいいかなというのは、正直あるかな」

後藤「そうなんですよね。いろんな発言をしていくことは結局得じゃないっていうことは僕もわかってるんですよ(笑)」

草野「ノイズ(=批判)が目立っちゃうと、主張がどうでも良く捉えられたりするので、そこは考えてやらないと、けっこう面倒くさいよね。今の日本の社会の中では。だけど一方では“ことなかれ主義にはなりたくない”っていうのもあって、葛藤があるのね」

後藤「そうなんですよね。バイアス(偏見)がどうしても、音楽にもかけられてしまうというか。その点アメリカとかでは、普通に政治的な発言をするような印象がありますけれど……」

草野「そう。普通だもんね」

後藤「『NANO-MUGEN FES.』に来たサード・アイ・ブラインドのボーカルのスティーブは“俺は民主党支持だ”って平気で言ってましたよ。オバマ支援の活動もしていたそうです。“お前は日本どこのパーティ(政党)を支持してるの?”みたいなことを打ち上げで聞かれて、ビックリしましたけどね」

草野「そうなんだよね。そういうのを、たとえば友達とメシ食ってるときとかに出せるかっていうと、“引かれるから言えない”とか思っちゃうよね」

後藤「でも、それ僕、すごい普通の皮膚感覚のような気がします」

草野「うん。“たぶんこの人は同じようなことを思ってるな”っていうのを、なんとなく確認してからじゃないと言えないっていう。“こいつとは、そっち方面の話したらダメだな”って思ったりね。お互いそっちのほうに行かないように避けたり……それでも酒入ってくると激論みたいになったりするんですけど(笑)」

後藤「面白いですね(笑)。でも見方を変えると、“空気読め”みたいな雰囲気には、日本の村社会的な怖さがあるというか」

草野「そうね。それがいいときもあるとは思うんですけど」

後藤「そうなんですよね。 “絆”みたいなポジティブなものに集約されるときと、反転して、それがしがらみになるときがある。そういうのの差はすごく感じますね」

草野「同調圧力みたいになったりね。非常時には、それが悪いほうに働くこともあるし」

後藤「そうですね。じゃあ草野さんは未来について、ほかにどんなことを思ったり考えたりしてます?」

草野「うーん……さっき言ったこととかぶってきちゃいますけど。エコと資本主義や経済とを両立できるような方策があるんじゃないかな、というのを最近考えたりしますね。たとえば新聞とか読んでて、そういうのにつながるような記事には、とくに目がいったりする。誰かが何とかしてくんないかな、みたいな……丸投げですけど(笑)」

後藤「そういう見方をしていくのはいいなって、僕も思います。何かに反対するのも、もちろんいいんですけど。世の中が良くなる面白いアイデアとかには敏感でいたいな、みたいな。たとえばどこかの地域で何か面白いことが始まっているのを知ってることは、すごくいいことだと思いますしね」

草野「そういうのがどんどんあるといいと思いますね。震災以降、たとえば“儲けるために電気もガスもガンガン使え”みたいなのはおかしいんじゃないか、っていう意識が広がっていって、そんな方向性の中から雇用が生まれるような何かがあるといいなと思います。まあ自分も全然勉強してないんで、具体的にどうとかは言えないんだけど。あ、この本って読みました? ちょっとヒントになるような気がして、最近読んでたんですけど……(カバンの中から本を取り出す)」

後藤マーク・ボイル、『僕はお金を使わずに生きることにした』

草野「良かったら、あげますんで(笑)。けっこう面白かったですよ」

後藤「あ、そうですか? いただきます」

草野「これはお金を一銭も使わずに1年間生活してみることにチャレンジをした人のお話なんですよ。場所はロンドンの郊外かな。だけどお金は使わないんだけど、友達とかはとことん頼ったり(笑)、キャンピングカーみたいなのを貸してくれる人がいたので、そこで住んだりね。それは楽な生活ではないんだけど、こういうところにヒントがあるのかな、と。こういうことを楽しんでやれる精神性を共有できるようになると持続可能な未来っていうものが開けてくんじゃないかな、と思ったりしました」

後藤「坂口恭平くんみたいですね。じゃあ、そういう中で音楽は、どうしていったらいいと思います? 」
(※ 過去の坂口恭平さんのインタビュー記事:ゼロセンターPart.1 / Part.2)

草野「音楽の未来ね。どうなるんでしょうね……」

後藤「でも、たとえば今、一切がタダになっても、草野さんは音楽を1曲も売らなくても食べていけると思うんですよ。コンサートはもちろんするだろうし。あとは草野さんがギター持って、いろんな町を廻ったら、みんな家に泊めてくれると思うし。うまい刺身とか山ほど出てくると思いますよ(笑)」

草野「(笑)テレビ番組みたいな。『田舎に泊まろう』とか?」

後藤「(笑)いやいや。でも草野さんがギター1本でうちの地元の街に来たら、近所の人、たぶんみんな集まると思うし。公民館にステージを造って、歌ってもらってね。あとはもう酒とか、いっぱい出てきますよ(笑)。それで日本中廻って、食べていけます」

草野「でも自分の歌を聴きたいって言ってくれる人がいる限りは、たとえば“もう十分やったから南の離島にでも引っ込んで”みたいなことはできないという覚悟はあるかな。それは役割だと思う。声が出なくなっちゃったらムリだけど」

後藤「いいですね。そういうふうに、ずっと続けてほしいです。ポール・マッカートニーみたいに70歳ぐらいになってもガンガン歌ってる、みたいな」

草野「ああ、なるほどね(笑)。こないだ高円寺で大道芸人のお祭りがあって、外国からも来てジャグリングとかパントマイムとか曲芸を見せてくれるんですけど、最後にバケツや帽子を置いて、みんなから小銭を集めるんです。演奏なり歌なりを披露して、それに見合う対価をいただく。俺らがやってることもこれがベーシックなんだなと思いましたね。だから大道芸人さんたちを拝見して、初心に帰ったという」

後藤「いや、本当にそうですよね(笑)。今日は面白い話をいろいろとありがとうございました」

草野「いえいえ。どうもありがとうございました」

(2013.9.11)
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草野マサムネ

草野マサムネ(くさの・まさむね)

1967年福岡生まれ。日本の音楽シーンの最前線を走り続けているスピッツのボーカル&ギター。1987年の夏にスピッツを結成。1991年3月シングル『ヒバリのこころ』でメジャー・デビュー。スピッツの全ての曲の作詞、ほとんどの作曲を手掛ける。また、他アーティストへの楽曲提供も行う。今年の夏は、スピッツ主催のイベント「ロックのほそ道」を、8月13日・岩手県民会館大ホール、8月15日・仙台サンプラザホールで開催した。9月11日には、前作から約3年ぶりとなるオリジナル・アルバム『小さな生き物』をリリース。また、9月14日(土)には、16年ぶりとなる単独野外ライヴを横浜・赤レンガパーク野外特設会場で行う。