『The Future Times』の第3号の特集は『農業のゆくえ』。滋賀県の面積に匹敵する耕作放棄地を抱える日本。エコでもロハスでもなく、農業というレンズで現在の社会をのぞき見ようというのが、今回の特集のテーマです。
——震災後、いち早く木造の仮設住宅とうかたちで隣接する地域の支援に乗り出した林業の町、岩手県気仙郡住田町。今回の記事はその続編。若い林業家と仲間たちが目指す新しい林業について、松田林業の松田さんと、重機メーカーの山本さんに話を伺った。(第1号での記事はこちら)
後藤「効率悪いんですか?」
松田「木質バイオマスで発電しようと思うと、3割くらいしか効率を出せないんです。木質バイオマスは化石燃料と違って、急にガーンと熱量を出せるものではなくて、じわりじわりと燃やすみたいな性質の燃料だから、重油炊きのボイラーみたいな、お湯を沸かしたり暖房を取ったりだとか、蒸気を発生させるだとかいうものに対しては化石燃料を使うよりも割安だし、有効だっていうことで、そっちをメインに考えて、残りを発電にすれば熱効率90%ぐらい、捨てることなく取れるんです」
後藤「熱利用ってことですよね」
松田「熱利用をメインに考えたほうが絶対に良いんだっていう。それで、今、固定価格買取制度が始まったお陰で『発電!発電だ!』って言っているのが危ないなって感じがします。20年間価格を保証するってことで未利用木材の価格設定をしているらしいんですけど、キロワットアワーあたり33円、それだとここにある木材は1トン3千円で買う予定なんですけど、1トン7千円で買っても間に合うみたいな…。そうすると、逆に今まであった木材産業の秩序がメチャクチャにされてしまう」
後藤「なるほど、木材に使っていたものも “チップにまわせ” となってしまうということですね」
松田「そうです。そうすると、あとはもう、山はやりたい放題になってしまう。ハゲ山にされてしまう。そういうことになりかねないから、危ないなと。うまくブレーキをかけながら、コントロールしながらやらなければダメなんじゃないかと」
後藤「買取価格が高いのも考えものということなんですかね、林業にとって」
松田「高いに越したことはないというか、買ってくれるところがあればそれはそれで良いってことなんでしょうけど…。でも、木材のカスケード利用(※1)というか、値段の高いものから順番に木材をとっていって、バイオマスはそのカスでやるほうが資源を有効活用するという意味でも良いんじゃないかと。バイオマス燃料は対重油で考えれば、3割4割安い燃料だと、そういうところを攻めていくほうがいいんじゃないかと」
後藤「3割4割安いってのは、相当安いですね」
松田「給湯とか暖房とか、簡単な熱源に対しては木質燃料を使って、限りある化石燃料をもっと大事に使おうと。それで、いくらか化石燃料の使用量を減らして、浮いた分を高効率の火力発電に利用したほうがいいんではないかと。そういう考え方がスマートなんじゃないかと」
後藤「なるほど。農業用ハウスの暖房に使ったりもできるし、いろいろ使い方はありそうですよね」
松田「住田町の集成材(※2)工場では、木を加工したときに出る端材をボイラーに使っていて、発電機もついているんですよ。コージェネレーション(※3)ですよね。熱は木材を乾燥させるための乾燥機に、あまった分は発電機にっていう施設があるんですけど、今はちょっと乾燥機の台数が増えたので、全部乾燥機に熱を取られているから発電には回していないそうなんですけど。あと設置したのが、ひと昔前のことなので、東北電力にいろいろ言われたみたいで…」
後藤「それは送電線が来ないとか、そういう問題ですか?」
松田「 “あんたたちが作るような低質な電気なんかダメなんだ” という感じで。安定していないし、何かあったときに責任とれるのかみたいなことを散々言われて、なかなか買ってもらうのが大変だっていう。そういうのですごく苦労したって話をよく聞くんです、集成材工場のひとたちから」
後藤「改めて聞きたいんですが、このC材っていうのは合板にもならないし、木材にも使えないんですか?」
松田「このあたりの木はアカマツですけど、節(フシ)が強過ぎたりとか、あとは曲がっているとかで使えないんです」
後藤「木質バイオマス用のチップにしないんだったら、ここにあるようなC材は本来、何に使うんですか?」
松田「昔はダンボールとか、製紙とかの原料だったんです。それが、今はもう紙需要が少なくなっている。そして、いちばん俺たちが困るのは円高。製紙は中国に勝てない。ここらで動いている集成材とか製材品も、北欧とかヨーロッパからガンガン安いのが入ってくるから、売れなくて、競争が厳しくなっているというか、不利な状況に追い込まれている感じですよね」
後藤「じゃあこれは、チップに使わなかったら山に置いておくしかないんですか?」
松田「そうですね。だから極力集めてくるな、山に散らかせ、ということにしかならない。結局、一社でこれだけ集めてますから。ウチみたいな会社が住田町だけでも6社あるんです。その他に、森林組合っていう事業体が気仙地域にふたつあるので。その人たちが、このC材を出す先がなくて困ってるという…。多分全国的に、そういう傾向にある。使ってくれる製紙工場があればいいんだけど、なければこういう状態になってしまうということですよね」
後藤「それはもったいないですよね」
後藤「このウッドハッカーっていうのがドイツの機械ですか?」
松田「そうです。2009年にスウェーデンの林業機械の展示会に行ったときに衝撃を受けて。ドイツの『JENZ』っていうメーカーの機械なんですけど。そのときは林地残材をどうにかしないといけないって思っていたので」
後藤「林に起きっぱなしの木材のことですね」
松田「そうです。その林地残材を処理するためには、どうしてもこの機械がなきゃだめだと思っていたんですよ。いつかは地元にこの機械を導入したいと思ってました。それで調べていったら、日本にも輸入しているメーカーがあって。震災後のエネルギーの問題でこういう機械が脚光を浴びてきたところで、メーカーさんがとても協力的で、ウチの会社に持って来てくれて実演会をやってくれたりだとか」
後藤「現在はリースなんですか?」
松田「これはデモ機です。事業計画としては、これか、もうひとつ大きいサイズのものを買ってやりたいと。やっぱり、坂本龍一さんの考え方には共感するところがあって。日本には山がある。森林整備をして、山をきちんと管理して国土を保全しつつ、それから出てきた木材をエネルギーに活用するっていう循環型の社会っていうか。そうすれば田舎の人たちも林業で活性化するだろうし。発信力のある方に発信してもらって、俺たちは地元でそれを具現化するってことがいいんじゃないかなと」
後藤「それぞれの場所で得意なことをってことですよね」
松田「そうです。俺たちはマイク持って発言するのは無理だから(笑)。俺たちはこうやって重機を運転したり、トラックを運転して山から木を集めてくるってのは得意だろうし。昨日のケセンロックフェス(※4)もそうだけど、都会と田舎が手を組んでやっている感じがすごくあって。フェスの開催のために東京でイベントをやってくれたり、都会と田舎の距離が縮まってきてるんだなって。バイオマスも田舎と都会が繋がれる、そんなことを企んでいます」
後藤「普通に買ったらいくらくらいするんですか?」
松田「5000万円です」
後藤「5000万!なかなかの投資ですね。高い!日本のメーカー、もっと安くできないんですかね」
松田「でもやっぱり、林業機械に関しては、日本は20年遅れてますから。国策なんですかね、ドイツの林業は進んでいるということを聞きます」
後藤「石油が採れないということに対して敏感なんでしょうね。ドイツは石炭が採れると思いますけど、どうにかして他国から化石燃料を買わないようにしているんじゃないですかね」
松田「ドイツは、やっぱりチェルノブイリのときにガッと再生エネルギーに進んで。その流れがちょっと落ち着いてきたときに福島の事故があって、脱原発をきちんと決めましたよね」
後藤「そうですよね」
松田「この機械、ドイツ国内ではすごい引き合いがあって、今頼んでも、納期が8ヶ月から一年かかるらしいんですよ。そして、木質バイオマスの発電機の普及率がドイツですごく伸びているっていう。だから、再生可能エネルギーが一番進んでいるドイツの機械を持ってくるのが効率いいんじゃないかなと」
(※1)カスケード利用
資源やエネルギーを利用すると品質が下がるが、その下がった品質レベルに応じて何度も利用すること。
(※2)集成材
多数の板材・角材を接着剤で接合して作った木材。薄板を接着した合板(ごうはん)と区別していう
(※3)コージェネレーション
石油やガスなどの一次エネルギーから、動力と熱、あるいは電力と熱のように2種類以上の二次エネルギーを取り出すシステム。
熱併給発電、熱電併給ともいう。
(※4)KESEN ROCK FES.
大船渡市、陸前高田市、住田町、気仙地方の地元有志で運営されているロックフェスティバル。
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