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坂本龍一

「楽器が傷ついているのを見ると、ものすごく胸が痛むんです」

坂本「“こどもの音楽再生基金”に、賛同してくださって本当にうれしかったです。ありがとうございます」

後藤「僕も楽器の問題は最初から気になりまして。夏にフェスティバルをやってるんですけど、その時も“どうにかできないですか?”みたいな話をしていたタイミングで、坂本さんから連絡いただいたんです。声を掛けていただき、とても嬉しかったです」

坂本「やはり、3.11の被災があってわりとすぐ、自分もミュージシャンですから、報道写真の中に時折、楽器が被災して壊れていたり、ピアノが壊れているような写真がありましたよね? 楽器がああやって傷ついているのは、もちろん、人間と楽器を比べたら、人間のほうが大事だと思うんですけど、楽器が傷ついているのを見ると、ものすごく胸が痛むんですよ。こういう感じっていうのは、音楽家だけなんだろうなとは思ってたんだけど、被災地にたくさん学校があって、楽器が無くなっちゃった子供が多いわけです。そういう子供を助ける運動は出来ないかなと思って」

後藤「局地的には、ロックバンドたちも、現地の軽音楽部などにドラムセット届けたりはやっていたんですけどね」

坂本「そうなんですよね。でも、なんせ今回の震災では、広い地域のたくさんの人、学校が被害を受けている。どこかだけっていうのが不公平になってしまうと思ってね。少しでもいいから全般的にやりたかったんです。最初、ツイッターなどで情報を集めたりしてたんですけど、個人でできることはとても小さくて。埒があかなかったんです。そのうち、確か4月の早い時点だったんじゃないかと思うんですけど、ニューオリンズから、ある中学校のジャズクラブに、楽器がどさっと届いたというニュースをやっていて。“これがやりたかったんだよな”って。でも、たったひとつの学校というわけにはいかない。被災地には1850校の学校がありますから。ダメージもそれぞれですよね。被害の状況を調査して、直して使えるものは使おう。修理しようと。だから、まずは調査を始めなきゃいけなくて。その準備に結構な時間がかかっていまして。そのうちに、全国楽器協会が賛同してくれて、やろうということになったという経緯ですね」

後藤「今後、イベントとかも企画されてるんですよね」

坂本「そう。期間も一応3年っていうのが最初のゴールとしてやってるんですけど。賛同して寄付してくれた方も、結果が見たいと思うんですよね。だから、2年先か3年先かわかりませんですけど、修理した楽器を使って、被災地の子供たちがみんなで音楽を競い合うようなイベントを考えてます」

理想的な社会を思い描き、そこに向かって歩いて行く

後藤「大きいテーマになってしまうんですけど、『THE FUTURE TIMES』では、いつも未来についてお話を伺っているんです。これからどうしていくべきかなど、特に若い世代に向けメッセージをいただけると」

坂本「なるほど。未来に対する考え方というかな、未来をどう考えるかっていうのには、ふたつの方法があると思うんです。ひとつは、過去、現在と考えて未来を考える。現在、抱えている色々な問題を、ちゃんと明らかにして、ひとつひとつ潰していき、未来をより良くするという正攻法。もうひとつのやり方は、理想的な社会というのをポンと思い描く。そこに向かうにはどうしたらいいかを考え、そこに向かって歩いていく。先に未来からプロジェクションするというやり方ですね。もちろん、両方大事だと思います。ただ、前者のように、今抱えている困難な問題ばっかり考えると憂鬱になってくるので、“こうだったらいいな”という理想的なモデルを思い描くということが大切になってくるのではないでしょうか。もちろん、それは個人的なことでもあります。だけど、後藤くん達、そして僕も考えているのは、大きく言えば日本のことであり、地球のことであり、もっと言えば人間だけじゃなく動植物のこともあると思うんです。理想的な状態、それがどういうものか、みんなでいろんなアイデアを出し合うのがいいかなと。一堂に会して話し合ってもいいかもしれません。いろんな専門家も呼んで」

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後藤「それは面白いですね。僕、人と人とが繋がる真ん中に、この新聞を使えたらいいなとも思ってるんです。ハブのようなものになっていけばと。たとえば、“No Nukes”と言うよりも、“More Trees”と言ったほうが詩的ですよね。そういうことをやりたいって想いもあるんですね。言い方を変えていこうって」

坂本「僕は2001年に、『非戦』と言う本を監修したんです。それまでは“反戦”という言い方しかなかったんですね。非戦という、戦うに非ずというふうに変えたのは、“反”って言葉を使うと、またそこで争いが起きちゃうような感じがして」

後藤「そうですね」

坂本「だから、もうちょっとヌルッと、戦わずして勝つみたいな。合気道みたいなやり方があるんじゃないかと思います。こんな不幸なことがあって、初めてデモなどが、少し一般的な感じになってきたわけですし」

後藤「もう少し集まって欲しいとは思いますね」

坂本「やっぱり、歩道で傍観しているお母さんや、OLやね、サラリーマンなんかにも参加してほしいですね。たとえば放射能の問題なんていうのは、どんな考え方の人にも同じように降ってくるわけですから。それは右も左でもないと思うんです。イデオロギーの問題じゃないと僕は思いますね」

後藤「そうなんですよね。いつか、そういうことが当たり前になっててくれるといいんですね。海外のミュージシャンと一緒になることが多いんですけど、“なんでお前達はそんなに自分達の国のことを知らないんだ”って言われることがあって、悔しいんですよ。たとえば、アメリカのミュージシャンを呼んだら、ちょっと前だと、“どこのパーティーに投票する”とか、いろんな政治の話も平気でするし。それが、日本では……」

坂本「応援したいような政党もないしね」

後藤「そうなんですよね」

坂本「グリーンパーティーがね、緑の党が、ガーンとできてくれたらいいかもしれないけどね。先進国で緑の党がないのは日本くらいですからね」

後藤「そうなんですか」

坂本「ドイツなんか、緑の党が与党になるかもしれない勢いですからね。もちろん、今までの政権の中には大臣として入っていますしね。僕の知り合いで、ジルベルト・ジルというブラジルのミュージシャンがいるんです。彼は緑の党の党員で、文化大臣を務めました。そういう人もいる。だから、ミュージシャンでも意見を持っているのは当然のことだし、そういう活動することも全然恥ずかしいことじゃないですよね」

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坂本龍一

坂本龍一(さかもと・りゅういち)

1952年東京生まれ。78年『千のナイフ』でソロデビュー。同年、細野晴臣、高橋幸宏と『YMO』を結成。84年、自ら出演し音楽を担当した『戦場のメリークリスマス』で英国アカデミー賞受賞。映画『ラストエンペラー』の音楽でアカデミー賞、グラミー賞他受賞。90年代から、環境・平和問題に言及することも多く、論考集『非戦』を監修。自然エネルギー利用促進を提唱するアーティストの団体『artists'power』を創始するなど、活動は多岐にわたる。