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インターネットにアップしたデータで完結するんじゃなくて、現実世界も使っておもしろくしたい

――PUNPEEくんは去年『Movie On The Sunday(※21)』というアンソロジー・ミックスCDを発表しましたよね。これが、新曲が12曲、リミックスが3曲収録されていて、アルバムとして発表してもおかしくない内容でした。それをあえて、ミックスCDにして、しかもディスク・ユニオン限定の数量限定生産でリリースしたのにちょっと驚いたんです。なぜ、ああいうリリース形態だったんですか?

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PUNPEE 「最初からミックスCD作ってほしいって依頼されてたんです。それで、1曲だけパシッと新曲を作って、それをミックスに入れようと思ってたんです。でも、なかなかかっこいい曲ができなくて、次々に作っているうちに15曲ぐらいできちゃって。じゃあ、いいや、これを全部ミックスしちゃおうって」

――ああ、そうだったんですか。特別な理由があったわけじゃないんですね。

PUNPEE 「あんまりなにもないんです」

――『Movie On The Sunday』はいちど完売して、いまはライヴ会場で手売りしているだけですよね。(現在はライブ会場の手売りも一時停止中)

PUNPEE 「なんか自分はそういう売り方が好きなんですよね。ビースティ・ボーイズ(※22)がライヴ会場で、シングル・カットしていない曲のインストだけを毎回レコードにして売ってるのとか、すげぇ粋だなって思ってましたし。そういうのが好きっすね。リスナーを振り回したりして、リスナーはたぶん迷惑してるんすけど、数百枚しか発売されない盤を手に入れたら、真剣に聴くと思うんですよ。昔ファミコンの人気ソフトを発売日に買いに行ったら、どこの店にも売ってなくて、わざわざ隣町まで行ってゲットしたときの興奮に近いというか。レコードを使って、そういう迷路みたいな遊びを仕掛けたいなって思いますね(笑)。インターネットにアップしたデータで完結するんじゃなくて、現実世界も使っておもしろくしたいなって。いや、でも、現実世界って言い方はおかしいですね。普通に全部が現実世界ですからね」

後藤 「家を出て買いに行くとか、けっこう大事だよね。違うものを買ってくるときもあるしね」

PUNPEE 「そっちの方がすごく良かったりすることもある」

後藤 「あきらめて違うのを買ってきて、そっちにハマったりとか」

PUNPEE 「あと、レコードだとA面からB面にひっくり返す作業があるじゃないですか。(山下)達郎さんがHMV ONLINEのインタヴューで、“(LPレコードを)ひっくり返すという作業によって、精神的なリセットになる。片面4〜5曲の中での起承転結、ドラマがある”っておっしゃっていて。CDになる前の制作側はそこを考えて作っていたりもしたわけですよね。今の若い世代がレコードをひっくり返して聴くときも、そういうところでハッとしたりもするし」

後藤 「レコードだと、他のことをやりながら聴くことができないですよね。針を上げて、盤をひっくり返さなきゃいけないから。リスナーが音楽に歩み寄ってる感じがある」

PUNPEE 「いい意味で流し聴きができないから、ちゃんと聴きますよね。いまでもそれがかっこいいって思う人たちがいるから、アナログが今また売れはじめてるんでしょうし」

――今の時代にアナログ・レコードをリリースしたり、聴いたりすることって、音楽好きの道楽だったり、フェティシズムだと思うんですよ。だからこそみんな本気になるし、僕はそこがすごい大事だと思うんです。

PUNPEE 「たしかにそうだと思う」

後藤 「たしかにね。レコードのパッケージの匂いを嗅いだり(笑)」

PUNPEE 「ああ、あれアガりますね。友達がレコードのビニールをジーパンで擦って開けてるの見て、“かっこいいー!”みたいなのもある」

――CDにしても国内盤は開封しやすいけど、輸入盤は開封しづらくて開けるときにバリッてケースが割れちゃったりしてね。そこで日本の技術力のレベルの高さを実感したりするという。

後藤 「たしかに輸入盤はあの上についてるシールが剥がしづらいですね。ケースは日本が一番いいかも」

PUNPEE 「でも、自分は輸入盤のあのぶっきらぼうな作りが好きっすけどね。だからやっぱり手間っていう楽しさがあると思うんですよね」

制約があるなかでDJするというのも超重要だと思った

――ここ2、3年はアナログでDJすることはほとんどないですか?

PUNPEE 「一度だけ、久しぶりにアナログだけでやってみたことがありました。おもしろかったですね。50枚ぐらいのレコードを詰めたダンボールをカートで引き摺ってクラブに行ってDJすると、スペシャルな気持ちになりますね。制約があるなかでDJするというのも超重要だと思いました。自分の頭使って考えますから」

後藤 「それは文章とかでもそうだと思う。1200字でまとめなければいけないっていう文字数の制限があると、たとえばこの数時間のインタビューのなかから一番いいところを拾わなければいけなくなる。実は全部載せちゃうとおもしろくないっていう」

――すごいわかります。インターネットには基本的に文字数の制限がないじゃないですか。インターネットにアップする文章を書いたり、インタヴューをまとめたりする仕事に偏ると、文章を削ぎ落とす能力や瞬発力が鈍ってくるんですよ。

PUNPEE 「へぇー」

後藤 「『THE FUTURE TIMES』の紙版の記事は残したいところをより削らなきゃいけないし、紙って刷った後で修正がきかないから、Webとは違った緊張感が出ますよね」

PUNPEE 「オレもアナログでDJしたときに同じようなことを思いました」

後藤 「ソフト・シンセとかもライブラリに山ほど音源があるじゃない? 昔は(コンコンとテーブルを叩いて)この音がいいから曲ができるとかあったと思うんですよ。いまは使う音を選ぶだけで大変。ドラム音源を決めるのに一日かかったり(笑)」

PUNPEE 「制作でプロ・ツールス(※23)のような無限にトラックのある音楽制作ソフトを使っていて、逆に自分がアホになっていると感じるときもありますね。8トラックのMTR(※24)しかない時代は、限界があるからこそ生まれてきた音楽があったんですよね。仕方なく音数を減らして、どうやったらかっこよくできるかを試行錯誤してた」

――文章でも、制約や制限があるなかで残した部分にその人の意見や主張が如実に表現されるというのはありますね。

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PUNPEE 「だから、今はあまりにも自由になり過ぎてる気もしますね。そのカウンターで、ラッパーにしてもDJにしても、職人的でストイックなヤツらが目立つようになるかもしれないって最近ちょっと思うんです。反動は絶対あると思うし」

後藤 「職人殺しみたいな時代になってる気もするよね」

PUNPEE 「なってますね」

後藤 「誰もができるようになってくると、スペシャリストの技術が引き継がれなくなるというのは確かにある。師匠を見つけて弟子入りする人なんて、最近じゃ少ないだろうし。たとえば、プロ・ツールスで誰もがエンジニアのやっていた仕事が自宅でできるようになると、大きいスタジオがどんどんなくなって、大きいスタジオで作った経験のあるエンジニアも減っていく。スタジオも減る。農業も工業も、全部一緒ですよね。すべて機械でできるようになったら、昔気質の人がいなくなるっていうか」

PUNPEE 「でも、自分は今、自由ですげぇ楽しいんですけどね(笑)」

――今日話してくれたPUNPEEくんのスタンスが、アナログ世代とデジタル世代の中間にいる音楽家のリアルな声なのかなって思いました。

後藤 「だから、俺もアナログ礼賛も違うと思うし、レコードの話だけしていてもだるいでしょって思うんです。“アナログ・レコードって何だろう?”ってことを今みんなで考えると、フェチの話になったり、『THE FUTURE TIMES』の紙版とウェブ版の違いの話になったり、農業や工業の話にまでなる。それが今回のレコード特集の意味というか。色々な分野に当てはめて考えたりしつつ、その上で、音楽好きの人がもっと増えればいいなって」

PUNPEE 「インターネットでバババーっていろんなものが広がって、音楽もタダになってるのを見ると、なんか原始時代に戻ってるんじゃないかなっていう声をいろんなところで聞くんです。そこらじゅうに凄腕のストリート・ミュージシャンがいて、競い合っている状況に近いと思う。だから、リスナーにとっては最高の時代だと思うし、レコードにはまた違う価値が出てきてますよね。モノとして欲しがる人も増えてるし。なんだかんだオレは今のそんな状況が好きっすね」

(2013.7.12)
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『Hee Haw Brayks』

DJ BUTCHWAX 『Hee Haw Brayks』

DJをはじめたのは、とにかくスクラッチがカッコいいと思ったからなんです。当時サポート・メンバーだったバンドにスクラッチを取り入れようと、中三か高一ぐらいのときにミキサーとターンテーブルを買って、このスクラッチ用のレコードでひたすらコスってました。原点ですね。

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PUNPEE
『Movie On The Sunday』(Vinyl)

もうひとつは昨年出た自分の作品なんですが、今度アナログにもしようかなーって……。まだ誰にも言ってないんですがこのタイミングで言ってしまおうかなと。(笑)とりあえず“デカく自分のジャケットを見たい!』っていうシンプルな気持ちから。そのうち出ると思うので適度にCheckしてくれたら嬉しいです。

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PUNPEE

PUNPEE(ぱんぴー)

東京生まれ。DJ/ラッパー/プロデューサー。2007年、実弟でラッパー/トラックメイカーのスラック、ラッパーのガッパーと共にヒップホップ・グループ、『PSG』を結成。2009年、デビュー・アルバム『DAVID』を発表。ユニークな作風が、ヒップホップ/ラップのジャンルを超え、多方面から賞賛を浴びる。DJとして、『Movie on The sunday Anthology』をはじめ、数枚のミックスCDをリリース。ラッパーへの楽曲提供やリミックス等多数。今最もソロ・アルバムが待たれるヒップホップ・アーティストのひとり。
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■注釈

(※21)Movie On The Sunday

2012年リリース、PUNPEEの3rdMIX CD。自身が大好きな“映画”をテーマにした作品集。ディスクユニオン限定販売で即完売。アーティストKREVAによっても高い評価を得た。

(※22)ビースティ・ボーイズ

1986年デビュー、アメリカはニューヨーク出身のヒップホップおよびパンク・ロックグループ。ファースト・アルバムである『ライセンス・トゥ・イル』はビルボード・チャートで1位を獲得。白人ヒップホップの草分け的存在とされ、ヒップホップとオルタナティブカルチャーを融合させた活動は大きな功績を残している。現在でもカリスマ的人気を誇り、2012年にはロックの殿堂入りを果たしたカリスマ的グループ。

(※23)プロ・ツールス

パソコン上でレコーディングや編集、加工処理を行なったりするためのデジタル・オーディオ・プロダクション・システム。音楽制作に必要な要素をほぼ網羅しているとされ、レコーディングに用いるアーティストも多い。

(※24)8トラックのMTR

2トラックのステレオチャンネルを4つ備え、計8トラックの信号で録音される“マルチトラックレコーダー”と呼ばれる録音機器のこと。