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YouTubeで漁って聴いてても、B面の4曲目とかはない

――レコードはけっこう買っていますか?

PUNPEE 「買ってますね。この前も水戸に行ったときにバカ買いしちゃいました。で、東京に戻ってきて(ディスク・)ユニオンで見たら4000円ぐらいで買ったレコードが500円とかで売ってて」

――それはショックですね(笑)。今、レコード買うのは曲を作るときのサンプリングのためか、それともリスニングのためか、比重はどうですか?

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PUNPEE 「聴いたりもしますよ。ちょっと前から甘茶っぽいソウルを聴きだしたりして。ゆっくりしたテンポで黒人の男性シンガーが裏声で歌ってるソウルですね。最初は(ヒップホップの)ネタとして聴いてたんですけど、ゆったりできるし曲としてもすげぇいい感じに聴けるなって。そういった音楽からサンプリングもしたりしますし」

――あと、単純にレコードでしか聴けない曲ってのもありますよね。

PUNPEE 「ありますね。YouTubeで聴いてても、B面の4曲目とかはないんですよね」

――YouTubeって万能に思えるけど、実は取りこぼしだらけのメディアだったりしますよね。ただ、今はYouTubeにアップされてるものとかインターネット上でフリーで聴ける音楽からサンプリングするプロデューサーもいて、それによって新たな音楽も生まれてきていますよね。作り手として、サンプリングの権利問題に関しての緊迫感はあったりしますか?

PUNPEE 「それは誰しもあると思いますよ」

後藤 「僕らもベックの『ルーザー』(※16)のカヴァーをやったんだけど、めちゃくちゃ大変だった。10人以上権利を持っている人がいて。あの曲はたくさんのサンプリングからできてるじゃないですか。だから、権利を持ってる人がいっぱいいて…」

PUNPEE 「あの曲はドラムとかもサンプリングですもんね」

後藤 「許可が下りたのが、その曲の演奏をUstreamで放送する前日だった(笑)」

PUNPEE 「マジっすか? たとえばメロディをカヴァーするだけなのにドラムのサンプリング元の権利者の許可とかも必要なんですか?」

後藤 「うん。DVD化するっていうのとインターネットで放送するっていうのがネックになったんじゃないかな。ライヴでやるだけだったら、普通に使用料を払えばいいだけだったと思う」

PUNPEE 「でも、サンプリングの権利問題は昔っからヒップホップにはつきものですよね」

――そうですよね。アメリカでは90年代前半に、ビズ・マーキー(※17)がギルバート・オサリバン(※18)の曲を許可なくサンプリングして、訴えられて、敗訴するという事件がありましたし。

PUNPEE 「でも、過去の音楽を引用して、コラージュしたりして新しい音楽を作るわけだから、サンプリングには創造性がありますよね。でも、たしかに自分が500円玉ぐらいのハゲができるまで悩んで作った曲をいきなり若いヤツにサンプリングされたらどう思うのかなっていうのもある」

後藤 「難しいよね」

PUNPEE 「難しいすね」

後藤 「アートの世界でコラージュしてる人がいちいち金を払わなきゃいけなくなっちゃったりすると、そもそもアートが成立しなくなっちゃうよね。それと同じで、サンプリングもフリーにしていかないと成り立たなくなっちゃうと思う」

――サンプリングにしても、コラージュにしても、された側の作者が自分の作品に対する敬意を感じられればまた話も違ってくるのかもしれないですけど。

PUNPEE 「うんうん」

後藤 「本当にそうなんじゃないかな。いとうせいこうさんと対談したときに、せいこうさんが“CDの裏を返したら『リスペクト、ジェームス・ブラウン』って書いてあって。書いてあれば、誰でもかっぱらえたんだから”って話していて(笑)」

――『アトミック・ドッグ(※19)』って曲をヒップホップのアーティストに何度もサンプリングされているジョージ・クリントン(※20)は、サンプリングのおかげで多額のお金を得たのはたしかなんですけど、ブートレグそのものを肯定した発言をしてますよね。ブートレグが自分の生み出したファンクを守り続ける役割を果たした、と。

PUNPEE 「俺は自分の曲がブートレグのミックスCDやミックステープに入れられたりEDITされてても全然嫌じゃないっすね。発表したばかりの曲があまりにも早く使われたらアレですけど、でも昔から自分もミックスCDとか出してたし、それがヒップホップの文化だと思うし。ただ、そういう文化のないジャンルの人がどう思うのかはわからないところです」

――音楽が無料で聴けたり、安く手に入ったりするのはリスナーとしてはありがたいけれど、特に日本のようにインターネット時代の音楽ビジネスモデルがまだまだ確立されていない状況だと、アーティストにとっては経済的に厳しい側面もありますよね。そこついてはどう考えてますか?

PUNPEE 「もちろん、フリーでネット上に曲をアップするとお金にならないけど、アーティストとしてはすぐに作品を発表できるし、いろんな人が勝手にリミックスもできるし、そういう自由はあるじゃないですか。名前が知られていないアーティストがかっこいい曲をネット上にアップして急に有名になったりもしますし。しかもファンは、たとえばYouTubeに曲が上がっていても、好きなアーティストがレコードでリリースしたら欲しがると思うし、ちゃんとお金も払うと思う。だからアーティストは、ネット上にフリーで曲をアップしていても、正規でリリースしたらいいと思うんですよ」

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PUNPEE(ぱんぴー)

東京生まれ。DJ/ラッパー/プロデューサー。2007年、実弟でラッパー/トラックメイカーのスラック、ラッパーのガッパーと共にヒップホップ・グループ、『PSG』を結成。2009年、デビュー・アルバム『DAVID』を発表。ユニークな作風が、ヒップホップ/ラップのジャンルを超え、多方面から賞賛を浴びる。DJとして、『Movie on The sunday Anthology』をはじめ、数枚のミックスCDをリリース。ラッパーへの楽曲提供やリミックス等多数。今最もソロ・アルバムが待たれるヒップホップ・アーティストのひとり。
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■注釈

(※16)ベックの『ルーザー』

ベックは1970年生まれ、アメリカのカリフォルニア州ロサンゼルス出身のミュージシャン。93年にインディーズでリリースした12インチレコードの『ルーザー』から火がつき、翌年メジャーデビュー。楽曲制作にはサンプリングも多用している。オルタナティブ・ロック界を代表するアーティストのひとり。

(※17)ビズ・マーキー

アメリカのヒップホップアーティスト/ヒューマンビートボクサー。コミカルなキャラクターで人気を博す。自身の3枚目のアルバムに収録された『Alone Again』でサンプリングのネタ元であるギルバート・オサリバンに楽曲の使用許可を得ていなかったことから裁判にて敗訴。この一件をもとにヒップホップ・アーティストが楽曲をサンプリング使用する際には代価を支払うべき、という判例が生まれたことでも有名。

(※18)ギルバート・オサリバン

1946年アイルランド出身のシンガーソングライター。70年代に数々の楽曲が全世界でヒット。ビズ・マーキーとの間で訴訟問題となったのは彼が72年にリリースした世界的な大ヒット曲である『Alone Again - Naturally』。

(※19)アトミック・ドッグ

ジョージ・クリントン(※20)による1982年に発表されたアルバム『コンピューター・ゲームズ』に収録。




(※20)ジョージ・クリントン

1941年生まれ、アメリカのミュージシャン。ファンクミュージックの開拓者であり、60年代後半から70年代にかけて『パーラメント』と『ファンカデリック』というふたつのバンドを率いて、『Pファンク』と呼ばれる音楽ジャンルを築き上げた。80年代以降はソロ・アルバムも発表。彼の生み出した楽曲は後に、数多くのミュージシャンにサンプリングされ続けることで、ヒップホップをはじめとする様々な音楽に今日まで多大な影響を与えている。