美味い米を作るコツを、わずか数語で語り尽くせるはずはない。それでも、八鍬さんに聞いた。どうしたら美味しいお米を作れますか?
「特に大事なのは、穂が出る30日前の状態。葉っぱの色を確認して栄養状態、生育に重要な窒素の量を見極めるんです。追肥をしても、効果が出るのは次に出てくる葉っぱ。天候を予想して、2週間後、3週間後の姿をイメージしながら追肥するんです」
その判断は、いくらマニュアルが確立しても、どれだけ機械化が進んでも、「人の目でしか出来ない」と言う。
「牛馬で耕したのは遠い昔です。機械化が進み、トラクター、バインダー、ハーベスターなど、色んな機械を使うようになりました。広い農地を、短い時間で作業できるようになったんです。体への負担は本当に少なくなりました。大型のコンバインを買うのと同じ値段で、立派な外車が買えます。でも皆、コンバインを買う。作業が楽になるからです。今は、機械を無視して作業はできない。機械に合わせたような体系になりました。それでも、人の目でしかできないことがあるんです」
そして、完全なマニュアルはないと、八鍬さんは言う。
「日本の稲作技術って、かなり完成されたものなんです。どの時期に苗が何cm、葉っぱが何枚あればいいといったことはハッキリしています。でも、無理に合わせる必要はないんです。人だって、背が高い人も低い人もいるでしょ? でも、それぞれ健康ですよね」
そして、何より大切なものがあると続けた。
「やっぱり太陽が一番大事なんです。お天道様が生産者なんで。農業は計画生産出来ないんです。4月半ばには種蒔きをしたい。でも、雪解けが遅くなれば、それだけで遅れる。田んぼを耕せないから。気温などの関係から、5月の25日くらいまでには田植えを終えたい。7月の10日くらいを境に、苗が転換期を迎え生殖成長に移行します。この時期の栄養状態が味に影響を与えるんです。お盆前には穂が出る。どの時期も、天気がいいことにこしたことはありません。でも晴ればかりでは、今度は大事な水が不足します。収量がほしいといって、あまり背を伸ばすこともできません。東北じゃ倒れてしまうから。稲刈りをいつすればいいかは、品種によって違います。穂ができてからの気温の総積算が関係していて、つや姫ならば1000度くらいが一番美味しいと言われています。天候は年によって、天気も日によって違う。だから、どの工程も、人間が先に日付を設定することはできないんです」