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農業のゆくえ-静岡-

カマキリとバッタ、ミツバチがいる茶園

大塚「この茶畑は土壌が酸性なんです。昔のなごりだと思うんですけど。その意味も込めて、何回かに分けて、徐々にアルカリ的な『苦土石灰』を撒いて。量的にはまだ全然足りていないのですが…。5年後に健康な土が出来ればいいかなって」

後藤「自然農法というのを目指しているってことですもんね」

大塚「そう。なるべくそっちに近づけたいと思っています。でもこういう型って決めてやるわけではなく。去年お茶を揉んでもらった向島さんっていう人の言葉なんですけど、『自然栽培に固執して宗教的にやるのではなくて、本当に健康な状態のお茶を育ててあげることが一番良いんじゃないか』って。足りないものは補って。人間で言うと、タンパク質をとらない食事をしたら偏っていくだろうし、ご飯しか食べなかったら、他のビタミンが足りなくなるかもしれない。やっぱり健康に育ってるのが一番良いかなと。虫も沢山いるし。バッタがいて、カマキリも来るし」

後藤「あの山を分け入って来たときは、全部ジャングルみたいな状態だったんですか?知らないひとが来たら、これはお茶って分からないですよね」

大塚「多分、気づかないと思います。ここもそうだけど、藤枝の山とか島田の山とか放置されたところは多いです。この山も条件が悪くて、商売をやるには最悪なんです。車が入らない。摘んだお茶は全部担いで降ろさないといけない。肥料もお茶刈り機も全部担いで…。そこに電動の滑車がありますが…」

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後藤「この山道を…。そうやってきたってことですよね、この山のお茶農家のひとたちは」

大塚「でも、有機をやるには最高なんですね。普通の茶畑は土地が区画で別れていて、田んぼみたいに隣接していて、そこで有機をやろうとすると、隣接しているところがいろいろなものを撒いてるわけなんです。100%に近い状態で有機をやりたいというひとたちは地境のお茶の畝(うね)を高くして、農薬が飛んでこないようにしてるんですけど、ここはそういう心配もないし」

後藤「やっぱり無農薬だと、産業としてお茶畑をやっているひとたちにとっては、やっかいな害虫が出るんですか? 穴があいてしまうとか」

大塚「いや、穴があいてもいいと思うんです。穴あきキャベツと同じ発想ですよね。虫のつかないきれいなキャベツが不自然なのと同じです。何でそんなにやっきになって虫をとらないといけないのかって分からないんですよ。その、昔から指導されていることが…。農薬カレンダーみたいなものがあるみたいですしね。農薬と化学肥料を撒く時期みたいなのが」

後藤「なるほど。お茶に関する農作業が機械化されたのって、そんなに遠い昔ではないですよね。ここ100年とかでしょう? それ以前はどうしていたんでしょうね」

大塚「その通りです。切り拓いた時代はね」

後藤「もちろん、手で摘んでいたわけですからね。こうやって本当は手間がかかることなんだってのを知るのも、自分にとっては凄くいい学びですけど、農業って簡単じゃないですよっていう。今はなるべく簡単にできるようにしてきたんだと思うんですけど、どういう方法が最適なバランスなのかっていう疑問はありますよね。でも、面白いですね、茶畑。ここで茶畑をやることによって、ここまでの山道とか、今後手を入れようって思いますか?」

大塚「思います。去年までは拓くのに必死だったけど、今年に入って台風とかで荒れてしまって…。この山は鎌倉時代くらいから先祖が住んでいたらしくて。そういう話を聞かされていて、山のほうも竹の量とか適正にしてあげようかって…」

後藤「そうですよね。でも、多分、そういうことだったんですよね、この山の中で茶畑をやるってことは。山も整えないといけない。そうやってきたんでしょうね。茶園だけ良ければいいってわけではなくて、全体的なものですよね」

大塚「そう。去年まではそっちの考え方でした。とりあえずここを拓かなきゃと思って。あとはもう、後でいいやって思ってたんです。やっぱり変わりますよね」

後藤「いいと思います。面白い」

大塚「上のほうにはミツバチもいて。ちょっと嬉しくて」

新しい暮らし方について考える

後藤「新しい暮らし方を、僕らの世代はデザインしなおさないといけないのかなって、最近考えるようになりました」

大塚「それ思いますね。これまでの高度成長を担ってきた親父世代のことを何も考えずに引き継ぐんではなくて、新しいのを作るべきだよね。自分で考えてね」

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後藤「そうですよね。それは同じことを思います。そうしないと何か、随分と町に出たというか、生活が都市化したと思うので、それがこういう場所に荒れ地を作ったりするわけじゃないですか? そういうところにどうやって向き合うのか。とはいえ一気に全ての仕事を捨てて山に入ったりはできないわけで…」

大塚「私も熱くなるほうなので、はじめここ見たときに、俺がやるしかないと思って、すべてを捨ててここに専念したいと一瞬思ったんですけど、それは難しいなと思って」

後藤「そうですよね」

大塚「実際、去年3万円ちょっと売り上げたっていって——半額はゴッサン基金の被災地支援に使ったんですけど、それに対する経費って20万円くらいかかってて(笑)」

後藤「ありがとうございます。被災地支援に、大切に使わせてもらいました。しかし、赤字なんですね…」

大塚「別に生活の支障にはなってないんで、いいんですけど(笑)」

後藤「通販で売っているんですか?」

大塚「はい、通販しています。世間に知られていないので知人への発送がほとんどですけど。そして、親交のあるファームの収穫祭や、今年は下北沢で第4日曜日にやっている農作物のフリーマーケットに出店させていただき販売したりとか…」

後藤「でも、そうやって自分の時間をつかったり、お金を使ったりしてでも、やる意義とか、そういうのを感じていることでしょう?」

大塚「そこはね。そうですね。もともと先祖っていうか親戚の土地っていうのがあって。でも、大きな木も倒れてしまって…。本当に、荒れて行く森の典型みたいな。ここ2年くらいなんですよ、こんなになってしまったのは。去年と一昨年は雨が多くて、台風がたくさん来たので…」

後藤「森の手入れも大変なんですね。昔はいい森だったんですよね?」

大塚「そう。タケノコもいっぱい取れていたそうです」

(2012.8.29)
■タカテン茶園のブログ : http://ameblo.jp/takaten-chaen/