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福島の農家が語る、被災地の今

信じるものは 自ら選ぶ

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― 昨年の10月の福島市全域除染を皮切りに、各地で本格的な除染作業が始まっているようですが、この地域では何か除染作業はありましたか?

真部 「二本松では、ゼオライトっていう放射性物質を吸着する鉱物を、市内全部の農地に埋める作業が行われましたね。行政は二本松だけで10億円以上の予算をかけたみたいだけど……そんなに効果あんのかね?」

柳瀬 「正直なところ、もっと山奥の水源とか、根本からやるべきだと思うな。耕作地の除染も確かに大事なんだけど、なんかその場しのぎって気がするし」

「今はとにかく、実際に放射能が検出されたところとか、人の住んでいる周辺から、しらみつぶしに除染をしている感じなんですよね。やり方もそうですけど、もう少し落ち着いて、放射能に対する根本的な考え方を変えたほうがいいんじゃないかなって」

― それは、どういうことでしょうか?

「たとえば、食中毒の菌やウイルスなどの病原菌って目に見えないし、簡単に測れないじゃないですか。でも、放射能は今や測定機器も容易に入手できて、数字で確認することができる。生活の中にある様々なリスクの中では、比較的管理しやすいものなんですよね」

― 確かにそうですね。

「管理できるリスクならば、危険にならないよう管理すればいい。その前提に立てば、“あそこは線量が高いから子供は行かせない” とか、“これは食べる回数減らそう” って、リスクはコントロールできるんですよ。そういう考え方を広めていけば、こんなにみんなで不安になることはないと思うんですけどね。そもそも、“除染”っていう表現があまり好きではなくて。“除染”が終わらない限り、福島県には一生“汚染された土地”ってイメージが付きまとってしまうから。放射線量についても、管理しようというより、減らそうなくそうって方向ばかり向いてしまっているのは、“臭いものにはフタをする”っていう日本人の象徴的な考え方で……って、すみません、なんだか私のガス抜きみたいになってしまって(笑)」

― いえいえ! むしろ、ガス抜きなさってください。話していただいた通り、私たちの安全に対する意識や考え方については、見直すべき部分が数多くあると思います。

仲里 「なんか、科学者が信用されなくなってるんですかね。基準値が示されているのに、それをクリアしてても危険だと疑われるってことは。数字が信用されてないってことだから」

大槻 「多分、原発っていう絶対に安全だと言われていたものが爆発したから、そこで私たちの中にあった“安全”って言葉も、一緒に吹っ飛んじゃったんですよね。それで、科学者も数字もデータも、みんな信頼されなくなってしまった。でも、全てを疑ってたら、とてもじゃないけど、心が持たない。冷静になって、信じられるものは信じていかないとね。自分で分からなきゃ、誰かを信じるしかないですしね」

頑張ることがある 頑張るよって言える

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― 前号で取材した南相馬の方々は、原発に対する憤りがものすごく大きくて“もっとこの声を届けてほしい”と口々に言っていました。みなさんは、原発に怒りを感じていますか?

柳瀬 「僕はもう、怒り疲れちゃいました(笑)」

真部 「怒りって言うより、しょうがねえかなって感じですね。自分は、ここで生きていくしかないので。“なるようになる”と思って、やっています」

仲里 「奪われたものは、もちろん、たくさんありますけど、それに対してどうこう言ったって、何も始まらないよね」

柳瀬 「そう、やらなくちゃいけないことがあるから。自分たちには他にやることがある、頑張れることがある。“頑張って”って言われて、“頑張るよ”って素直に言えるから。そういう意味では、津波の被害にあった人たちとは、心情は違うのかもしれないです。 “頑張って、とは言われたくない”というほどの思いは、していないので。 “就農してすぐなのに大変ね”って言われることもあるけれど、始めたばかりの僕らにとっては、これから上っていこうとしていた階段が、ちょっと高くなったくらいの感覚です」

大槻 「うん、今できることから、地道にやってくしかないなってね」

柳瀬 「……そう言えば、あんまり人から頑張れって言われたことないなぁ」

「これからオレが言ってあげるから! オレは自分自身にいつも言ってるよ、“お前こんなんでいいのか! もっと頑張れよ! 手ぇ抜くな!”って」

柳瀬 「じゃあ、これから会ったときの挨拶はみんな“頑張れ!”にしようか!(笑)」

大槻 「それはちょっと……(笑)」

― ありがとうございました。お伺いしたお話は、責任持って記事にさせていただきます。

柳瀬 「いえ、こちらこそありがとうございます。こうして忘れないで、わざわざ話を聞きに来てくれるのは、本当にありがたいです」

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― そう言って頂けると嬉しいです。The Future Timesは“忘れないチーム”でいようと、胸に刻んでいます。

柳瀬 「こちらがいくら主体的に情報発信したとしても、“あまり興味がないし、これ以上知る気もない”というふうに、気にしないでなんとなく過ごしている人が多いと思うんです。それが一番怖いと思うから。第三者が現地に足を運んで、実状を伝えてくれるのは、本当にありがたいです」

― また、来てもいいですか?

大槻 「是非、いらしてください! 今度は関さんの作ったビールを飲みながら語らいましょう!」

(2012.9.19)