後藤「健さん、震災前から政治についてガンガン発言してますよね。すごく覚えてるけど、自民党の細田さんに会いに行ったり」
横山「でもさ、政治って自分の生活に直結してるでしょ。俺は自分たちの日常のことをやってるだけだと思っていて。そりゃ代議士と会うのは特別なことだけど、政治について言及することと、今日は暖かいなって話すのは同じだと思う。今日はどこどこでこれが安売りしてました。今日はこんな法案が通りました。これ同じことなんだよね。なかなかそうは思えないかもしれないけど、でも本当なんだよ。全部が同一線上にあると思うし、あって欲しい」
後藤「なるほど。なのに、どうして政治的なことや社会的なことをミュージシャンが発言するとダサいってことになったのかなぁ。ずっと考えてたんですよ。社会的な発言をすると、すぐ『あんたらミュージシャンは日々のこと歌えや』みたいな。書くことぐらい自分で選ばせろって思う(笑)」
横山「日々のこと、愛のこと歌うのはEXILEに任せておけばいいじゃないか(笑)。俺、ロックで社会的なのは当たり前だと思うんだけどな。途中で変わったよね。ロックがビジネスになって、ロックって言葉自体が空洞化しちゃったけど。でも、もともとロックミュージシャンなんてイタい人たちなわけでしょ?」
後藤「元来イタいです、はい。いきなり人前に出て『自分の歌を聴いてくれ』っていうイタさ(笑)。たまたまいい曲作れたからなんとかなってるけど」
横山「ギター弾いて声出して生きていこうなんて、やっぱもともと頭おかしい人の考えることだよね(笑)。あとさ、俺は今でもしっかり信じてるけど、ドラマーってみんなバカでしょう」
後藤「はははははは!」
横山「だってモノ叩いて生きてんだよ? モノひっぱたいて、この音がどう、とか言ってんだよ。そんな職業ある? 麺打つ人だってちゃんと切って茹でてるよ。あいつら音出して終わりだもん」
後藤「確かに……(笑)。行為としてそういうおかしさはありますよね。原始的な人種というか。だから僕らも社会的に見ればタイコの部ですね。打楽器の部」
横山「モロそうよ。『理論武装? 必要だったらしますよ。でももともとイタいですよ?』っていう(笑)」
後藤「それでも発信しないとダメなんですよね。特に、外に向かって出さないと。ツイッターで延々議論していても、僕を含めてマイノリティがやってるものなので。世の中変わんないと思うんですよね。もっと実世界に出していかないと」
横山「俺もそれはすごく思う。もっと声出さないと意味がない。空気読むってすごく大事なことだけど、今は世の中も音楽業界も読みどころが違う。空気の読みどころが違って、そこは言ってもいいのに、ってところで黙っちゃう。やっぱり本当にそう思うんだったら迷わず発信していくべきで。その発信の仕方によって、その人の在り方とか立ち方がもっと見やすくなってくるでしょ。そこも含めてロックミュージシャンなんじゃないですか? て提言したいかな。それだけがロックだとは言い切れないけど、音としてのロックは結果論だから。どんだけ歪んだサウンドでもロックじゃない人はいるし、全然綺麗な音でも発信する人の中に鋭いロックがあれば、その作品に鋭さは絶対感じられるもので」
後藤「どっかに鋭さが潜んでますよね。詞とかアートワークかもしれない。僕、そういうのを作りたいですね。なんかシレーッとしてるけど尖ってる音楽。そういうのが面白いと思っていて。そのエッジな部分がなくなってきちゃうと……」
横山「エッチな部分はなくしちゃダメよ!」
後藤「エッチじゃない(笑)。そこまだ当分なくなんないですけどね。なくなってきたらどうしましょうね。バイアグラとかは飲みたくねぇなと思ってて」
横山「それはダメよ。あれ、ゴッチ今いくつだっけ?」
後藤「36です」
横山「36……けっこうアダルトビデオが蔓延してた世代だよね。中学生の頃から視覚的刺激を受けてた?」
後藤「中学のときは見てなかったですね。まだエロ本でした」
横山「あ、二次元か。紙面だといいんだよね。最初から動くものを見ちゃうとけっこう違ってくる。想像できるかできないか」
後藤「……なんの話でしたっけ」
横山「未来! はははは」
後藤「ヤバい(笑)。でもこういう脱線とか、ちょっとしたユーモアみたいなのを持ちながら、話していけるといいなぁと思う。健さんのツイートとかもそうだけど、どぎつい下ネタ飛び出してくるんだけど、ああいうのも必要だと思う。いや、必要じゃないんだけど必要だと思うなぁ」
横山「同一線上でいいと思う。くだらない下ネタも、世の中を憂いていることも、選挙行くことも、全部頭の中にあることだし。全部をひっくるめて僕たちは自分ができることとして音楽をやっている」
後藤「うん。あと他人任せにしたくないですよね。選挙だって代議制をとってますけど、選んでるのは僕らだから。原発とかガレキの話にしても、自分さえよければどっかに押しつけとけっていうのは嫌で」
横山「うん。これだけ問題も情報も多い社会だと、自分だけじゃなくて、ちょっと人のために、って思うセンスが必要なのかもね。たとえばガレキだって受け入れるべきか受け入れないべきか、いろいろ情報があって、どっちがその人にとって正しいのかわかんないでしょ。もちろん行政には利権とか正解もあるだろうけど、いち市民にはわからない。そういうときに、自分だけ、っていうんじゃなくて、ちょっとでいいから世の中に対して優しく、他人にも優しく考えるっていう。これはセンスとしか言えないものだけど、そういったものが必要なんじゃないかなって気がする。これからは特に、僕らが育った時代よりも必要になってくる」
後藤「今ってお金がお金そのものとして見られてますよね。『千円出すから千円ぶんのサービスしろ』みたいな。でもそこに乗っかってるものはもっとあるじゃないですか。ライブだって二千円のチケットで、二千円では買えないものを持って帰ることがあって。もう一生の思い出とかもあるかもしれない。貨幣価値しかないっていうのは、それこそ感情まで資本に牛耳られちゃうことだと思うから。なんかね、金じゃ買われねぇぞっていう何かを、自分の行為に乗せていくことが大事で。『Future Times』も普段働いてる人たちが土日とか割いて無給で集まってますけど、それって貨幣価値じゃない新しい付加価値を生むんじゃないかと思ってるんですね。この前もラフォーレミュージアムが会場を格安で貸してくれたり。被災地支援のイベントだからディスカウントでいいですって。それって今、健さんが言った、優しさのセンスじゃないですか。お金よりも、みんなの想いとか行動とかに価値があると思ってくれた。そういう現象が、いろんなところで起こればいいなぁと思いますね」
横山「もっとやりようがあるし、やってかなきゃいけないよね。よく優しさのない殺伐とした時代だとか言うけど、声かけてみると変わるもんね。ちょっと周りはどうかな? って考えて。近所付き合いとかもさ、ちゃんと発信するだけで繋がっていけるし。それだけで住みやすくなっていくとか」
後藤「まぁマンションとかに住んでると、誰が住んでるかわかんないですよね。いきなり隣の家にコンコンって行ったら通報されちゃう時代なんだけど」
横山「でもウチの息子が小学校行くようになってさ。上の階に、それまであんまし交流のなかったお宅があって。小学校4年生の娘さんがいるんだけど、その子のとこに行って『一緒に学校まで歩いて行ってください』ってカミさんが挨拶して。そしたら、すごい仲良くなるのね」
後藤「そういうきっかけ、いいですね」
横山「でね、そのついでに俺は、その小学校4年生の女の子から『ピアノっていうのはね、弦楽器でもあり打楽器でもあるのよ』っていうのを、つい最近教えてもらいました(笑)」
後藤「いい話じゃないですか。日本を代表するミュージシャンなのに(苦笑)」
横山「ピアノやってる子らしくて。『あぁ、そっかぁ、そうだねぇ!』なんつって。でもね、人と交わるっていうのは、こういう価値があるんです(笑)」
Ken Yokoyama(けん・よこやま)
1969年10月、東京都出身。1991年 に結成したHi-STANDARDのギター&ボーカル。2004年に、アルバム『The Cost Of My Freedom』でKen Yokoyamaと してソロ活動開始。 レーベル「PIZZA OF DEATH RECORDS」の社長も務める。2011年9月18日に ロック・フェス『AIR JAM 2011』を横浜スタジアムにてHi-STANDARDで主催する。そこで、11年 ぶりにHi-STANDARDの活動を再開させる。2012年9月15日(土)・16日(日)に、宮 城・国営みちのく杜の湖畔公園みちのく公園北地区風の草原にて、「AIR JAM 2012」を行うことも決定。