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循環する産業とエネルギー Vol.2〔後編〕

やってみたかった仕事、そして現実

後藤「藤さんは普段、どのような仕事をされているんですか?」

「普段は木を植えたり、下刈り(刈り払い)という作業を主にやっているんですけど。ここに関してはイヌワシのすみかがあるということで、組合で働いている作業班のひとりがそれを管理していまして、その方のアドバイスを受けて、この場所は “いつから入れる/入れない” というのを確認して(イヌワシの繁殖などを考慮して)作業をしています」

後藤「こういう仕事をしたかったんですか?」

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「最初は自然環境を守る仕事をやりたかったんですけど、就職活動するにつれて、だんだん夢とは違うかたちになってきて…。小さい頃に思った自然を守りたいってところから、大人になるにつれて山に興味が出てきて、山を管理するにはどうしたらいいかな?ってなったときに森林組合の募集があって、そこにたまたま採用されたので(笑)」

後藤「夢とのギャップはどうですか?割と近いですか?」

「割と近いですね。最初の頃よりは、やりたいことも明確になってきて、それに対する自分の目標も少しずつ決まってきたので」

後藤「どんな目標ですか?」

「今は木を植えたり、木が小さいときの管理をする仕事が主なんですけど、これが大きくなっていく段階のところで間伐をやったり、間伐をやるための作業道を造ったりする仕事を目標にやっていきたいです」

後藤「いいですね。自分で思っていたことを、現実で仕事にしようとすると実務的なところがあって。でも、本当に何かをやろうと思ったら、こういう場所が最前線なんですよね」

「現場に立ってみないと分らないこともやっぱりあるので」

後藤「漠然と自然保護!とか言っても、ねぇ…」

「そうですね。入ってみて分ることもあるので」

持続可能な、理想の林業に向けて

後藤「このあたりの森についてはどう感じますか?林業のあり方も含めて」

「ここの造林地については、松田林業さんが木を全部切って、そのあとの作業は組合の作業員がやったんですけど。できれば(松田さんのような)素材業者さんのほうにもう少し、木を切っただけでなく、そのあとの柵の作業だったりを少しやってもらえれば、山主さんからも、こうやってただ残していないで柵にしたとか、使わない残材を違う方法で利用してもらうこともやってもらえれば…。(笑)」

後藤「松田さん、もうちょっとやって下さいってね(笑)」

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松田「(笑)こっちの汚いのが林地残材って言うんですけど、それを処理したくて、あの破砕機なんです」

後藤「これをウッドチップにすれば、ここに捨てなくて良いってことですもんね」

松田「ゴミではなくて資源になる。一石二鳥。ゴミがなくなって、集める作業もなくなれば、そういう経費も浮くだろうし」

後藤「この林地残材で作った柵はなければないほうがいいんですか?」

「ないほうが見た感じもいいと思いますし、柵を作る作業がなければ、ただ植えるだけでいいので、かなり経費は安くなりますね」

後藤「ゴミがあるから、この柵を作らざるをえないと」

「そうなんですよ」

後藤「これは必要でやっているわけではなくて、なければないでいいんだってことなんですね。植えるだけでいいから。ただ、一応、ゴミがあるから、ゴミを有効利用するっていう意味合いから、山が崩れないように、苗を守るような目的で使っているけれど、なければないでいいと」

「はい」

後藤「なるほど。この柵は絶対必要だと思ってたんですが、そうではないんですね。ゴミが出るからやってるんですね。しかし、これはゴミの山。ゴミの山って言っても、あとはもう何年もかけて腐っていくのを待つだけですよね」

松田「土に返るのを待つというか」

後藤「これはまた、何年もかかるんですよね。そうそう腐らないんですよね、木は」

松田「簡単に腐らない。だから、持続可能な林業としておかしいというか…。だから、俺の林業もまだ完璧ではないというか、ダメなところだらけだから、理想の林業に向けて一つひとつ潰していかないとダメだっていう。それでいろいろやってると、藤君とか、山本君とか、いろいろ手助けしてくれる仲間が増えていっているというか」

後藤「50歳。あと15年後には、山からこういうゴミを全てなくしたいですね。そのくらいかかってしまうかもしれないけれど」

松田「やりはじめてみないと分らないけど、理想を言えば、ああいう根株がついた状態で切った木を引っ張ってきて、枝払いをしながらプロセッサーという機械にかけるんだけど、一発目にタンコロっていう短い材が出る。この部分は、集成材に持っていって乾燥させたときにすごいヨレたり暴れたりしてしまう。だから付けないでくれっていう製材所のオーダーがある。だったら、最初からバイオマス用に取ってしまえばいい。それで山に捨てないような木の取り方にして、全部使うようなことを、さっきの破砕機が導入されればできてくるんじゃないかなと」

「山の奥は神様のところだから」

後藤「藤さんは、おいくつですか?」

「今年で24歳です」

後藤「若い!良いじゃないですか、素晴らしいですよ!僕たちオッサンと干支がひと回り違う(笑)。しかし、松田専務は頼もしいですよね」

「頼もしいですね。いろいろなことやって、考えてくれているので。それについていけるように、こちらも支えていければいいなと」

松田「皆が協力してくれるので。極力、若い人をひっぱり出したい」

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「この木を植えたり、草を刈ったりする仕事って、大変なんですよ。若い人たちが集まってくるためには、この作業をもっと簡単にしたり、この作業をやるときの事業費をもう少し高くしたりすれば、来やすくなるのかもしれません」

松田「下刈り(刈り払い)って作業は炎天下の中、一日中刈り払い機を持って斜面でやらなければならないので、一番過酷な…。脱水症状になって、意識もうろうとしながら(笑)、スズメバチが飛んできて刺されたりだとか、それが一番キツいよね」

「はい。それが一番キツいですね。それ言ってたらキリがないですけど」

松田「木を植えて育てるのは時間と手間がかかりますから…」

後藤「40年ですもんね。そういうタイムスパンで昔の人はやっていたんですよね、多分。それとも切りっぱなしだったのかな? ハゲ山とか結構あったと聞いたことがあるし…(※4)。歴史を参照することも大切だけど、やっぱり自分たちで新しく作っていくしかないんですかね…。バイオマスなんか完全に新しい考え方ですもんね」

松田「自分たちのできる範疇(はんちゅう)で、計画的に管理していくっていう。あとは、手に負えないところは自然に返すっていう」

後藤「なるほど」

「そうやらないとうまくまわらないですよね。循環しない」

後藤「手が届くとこから。あまり深く分け入っていかないというか」

松田「山の奥は神様のところだから」

「(笑)」

後藤「奥は神様のところだからっていうの、僕は好きです」

松田「何にでも神様が宿っているというか…。そういう神様とか関係なしにやっているから、原発みたいに…、自然をナメくさってはいけない」

(※4)

日本書紀によると、最古の森林伐採禁止令は天武天皇によるものとされている(676年)。平城京、平安京が作られた600年〜800年が第一期の森林荒廃という説もある。江戸時代は幕府の厳しい伐採規制・植林事業により、森林資源は回復に転じた。しかし、太平洋戦争時の需要拡大によって、日本各地の森林はことごとく伐採された。

(2012.8.22)
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松田昇

松田昇(まつだ・のぼる)

有限会社松田林業
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藤優太(ふじ・ゆうた)

気仙地方森林組合 業務課