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循環する産業とエネルギー Vol.2〔後編〕

■前編を読まれていない方はこちら

THE FUTURE TIMES第3号の特集は、『農業のゆくえ』です。農業というレンズで現在の社会をのぞき見ようというのが、今回の特集のテーマ。——震災後、いち早く木造の仮設住宅とうかたちで隣接する地域の支援に乗り出した林業の町、岩手県気仙郡住田町。今回の記事はその続編。若い林業家と仲間たちが目指す新しい林業について、松田林業の松田さんと、重機メーカーの山本さん、森林組合の藤さんに話を伺った。(第1号での記事はこちら

取材/文:後藤正文 撮影:橋本塁

私たちが捨てているもの

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山本「今までは山に手を入れることが凄いコストだったんです」

後藤「なにより驚いたのは、このチップになるような木材を捨てていたってことですよね」

山本「この木材はリアルに山に捨てていて、こちらはあまり洪水とかないですけど、沢山の雨が降ると木材が川に流れて来て、橋とかに引っかかったり、ダムに放流されたり、その量がハンパじゃないんです」

後藤「山に捨てられている木材が流れ出てくるということですか?」

山本「そうなんです。濁流に混ざって街に流れ出ることもあります」

後藤「山が荒れているのは都市部や住宅地にも関係しているってことですよね。松田さんから、木の4割は山に捨てられているという話を聞いたときに、本当に驚きました。そんなに捨てているの!?っていう。そういう認識はまったくなかったですから」

山本「かたちの良いものしか流通できないんですよね。市場に出回らないというか。邪魔なものにしかならないので」

後藤「多少の節(フシ)とかがあっても、テーブルやイスに使えたりしないんですかね。僕は気にならないのですけど…。かたちが悪いだけで、同じようにはじかれているものが日本中に、林業の場だけではなくて、いっぱいあるんですよね、漁業の現場でも農業の現場でも…」

山本「そうですね」

後藤「こういう一次産業だけじゃないと思うんです、きっと。僕は音楽にだって同じことを感じます。みんな整えていって、こういう端の味のあるところは全部削いでいってしまうような流れがあります。経済性が重視されてしまうような」

松田「既存のシステムを “そっちじゃねえべ”って変えていかないと…」

後藤「僕ら30代は本当に経済が良かった時代を知らないから…。右肩上がりの経済なんて幻想で、社会に出てみたらずっと下り坂というか…。大量生産大量消費をしないと回っていかないような経済をどこかで止めていかないと…。やっぱり、回っているというのが理想だと思います。循環している、捨てない、ウェイストゼロっていう、ゴミを捨てないのが一番良いと思うんです。原発も核のゴミの問題が大きいと思うし、どこに行っても産業廃棄物の問題はあるし、原発反対って言いながら他のゴミを山のように出していたら意味がないですよね。自治体のゴミ処理場の老朽化問題でも、どこかに建てるってことになれば反対運動が起きますし…。東京でも自前で焼却所を持っていなくて苦労している町がありますから」

松田「結局、上の世代が好き放題やって、政治家とかも借金を山のようにして、ツケのツケが子供や孫の世代にまわるようなもので…。俺たち以上に “なんなんだ、前の大人は” ってなると思う」

収穫までに40年から50年

後藤「このあたりでは、どのような方法で林業を行っているのですか?」

松田「間伐(※1)ではなくて、“皆伐(※2)”っていう山を全部切ってしまうというやり方をするので、木を植えて次の世代に引き継いでいかなければダメだっていう話を役場の方と一緒にして、分収契約といって、土地の所有形態を変えて、土地は山主さんのものなんですけど、木を植えて、ウワモノは我々のものということで、最後に収益が発生したときには分けるというような契約の仕方をして、再造林をするっていう。契約の手続きから再造林の作業まで、森林組合さんがやってくれています」

「そうですね。ここの造林地は松田林業さんが木を全て切ったので。その年に松田さんから、ここにカラマツを植えて欲しいという話をされて、今年の春に植え付けをさせていただきました。スギとカラマツを植えるときの間隔は決まっていまして、カラマツであれば縦横2メートル、スギであれば縦横1.8メートルの間隔で植えています。若干、こういう残材が間にあるところは、それを除いて遠くに植えている場合もあります」

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後藤「木を積み重ねたような足場はどうしているんですか」

「これは “地こしらえ”っていう作業で、残材をある一定の間隔で柵にして寄せて、苗木を植え付けしやすいようにしています」

後藤「崩れたりしないようにっていう役割もあるということですか?」

「はい。道路を造ったときに斜面になる部分を法面(のりめん)と言うのですが、そこにやれば、法面の土砂が崩落することを防ぐ効果もあります。奥のほうは“刈り払い”の作業が完全に終わっていないので…」

後藤「 “刈り払い”はどのような作業なんですか?」

「この苗木のまわりに草が生えるんですよ。この草が苗木を覆ってしまうと、苗木が育たなくなるんです。それをなくすために、周りの草を刈る作業を”刈り払い”とか“下刈り”っていうんですけど、それを苗木が5年生になるまで行います、夏場ですけども。それによってこの苗木が、大体2メートルから2メートル50くらいにはなります。スギよりカラマツのほうが土壌の環境が悪くても育つので、どこに植えてもいい苗木になっていますね」

後藤「スギよりカラマツが良いんですね」

「はい。あと、やっぱり成長もカラマツのほうが早いんですよ」

後藤「大体何年くらいで収穫できるんですか?」

「40年から50年くらいですか」

後藤「はぁ…。サイクルは長いですね…。山を転々としながらやっていくしかないってことですね。切り過ぎてしまったら戻すのに時間かかりますよね」

松田「そうなんですよ。多分、戦後の拡大造林(※3)のときに植え過ぎて、すごい奥地まで植えて、今だったらそんなところまで切りにいかれないよというところまでやってしまっているから、これからは手前の、林業に適したところだけで良いのではないかと。山の上のほうは自然に帰そうと…。それこそ、何十年という単位ですけど」

(※1)間伐

木々の成長を健全に保ために、森林の木を間引いて、密度を調整する作業。価値の高い木材を生産することができる。コストや人材・技術者不足などの点で、実施が困難になることも。

(※2)皆伐

対象となる林の木を一斉に伐倒して木材を収穫する方法。林地面積あたりの収穫量が多いが、一方で環境負荷の問題も指摘されている。

(※3)拡大造林

経済性の低い樹林を切り払って、より経済性の高い樹木に植え換えるための造林。戦後、復興などの目的で木材需要の急増し、天然林を人工林に置き換える「拡大造林政策」が実施された。

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松田昇

松田昇(まつだ・のぼる)

有限会社松田林業
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山本磨(やまもと・おさむ)

緑産株式会社
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藤優太(ふじ・ゆうた)

気仙地方森林組合 業務課