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1年後の現在地(宮城)

石巻工房という空間。

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 アニメキャラクターが並ぶ商店街の片隅、石巻駅から徒歩10分ほどの交差点に石巻工房はある。工房長の千葉隆博さんは石巻の寿司職人だったが、手先の器用さを活かして家具を製作し、インターネットや工房で販売している。商品はベンチやスツールが中心だ。
 若い人達にモノづくりを楽しんでもらおうとスタートし、ワークショップを開くことをメインにしていた工房が、家具の販売を開始したのは昨年末のことだった。
「これから何十年にわたって復興に関わっていくのは高校生や中学生だから、そういう子達を育て、意識から変えていく必要があると思うんですよ。今まで地方経済は消費型の社会に翻弄されてきたけれど、地方からモノを生み出し、そこにお金が転がり込んでくるような仕組みに変えたい。そのためにはモノづくりの楽しさを伝え、モノが生まれるドラマティックな環境を演出する、この工房のような場所が必要で。実際やっている現場を見ることって大事じゃないですか。ここで椅子を作り、売れているという状況がわかればやりたいという子が出てくるだろうし、うまく産業になれば雇用も生まれるだろうと思ったんです。若い人は、収入よりもやりがいに価値を見出している人が多い。震災後、たくさんのボランティアが石巻に来て、話を聞いていると彼らは純粋に人に喜んでもらいたくてやってるんですよね。金銭は絡まず。それなら、人に喜んでもらえることでお金ももらえて、生活できるようなビジネスが被災地で生まれてもおかしくないよなと思ったんです。若い人が楽しいと思える仕事を石巻に根付かせていきたい」

 1月12日にオープンしたばかりのこのスペースには、ふらっとトイレを借りに来る人、打ち合わせに来る人、家具の注文に来る人など、様々な用事で次々と人が訪れる。シンプルな白壁に、木製の家具。工房とはいえ1杯100円でコーヒーも飲むことができ、事務所やカフェのような雰囲気がある。
「ここを、人が集まるスペースにしたいんです。電源があれば充電できるし、コインロッカーも使えるようにすれば人が来る。人が来れば横の繋がりもでき、いろんなアイデアが出ますよね」
 どうやら工房とは表の顔、その目的は家具の販売だけに留まらないようだ。

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ISHINOMAKI2.0という集団

img007  石巻工房との連携や、5万部配布したというフリーペーパーの発行に復興バー、街歩きMAP制作、フットサルイベント、滞在施設の民泊や、移動居酒屋などなど。『ISHINOMAKI2.0』の活動はとりとめがないほど幅広い。石巻に暮らす十数人の実行委員を中心に、他都市の境を軽々と越え、プロジェクターも含めると100人以上のメンバーがいるという。
「4月にボランティアとして石巻に来たんですが、瓦礫拾いや泥かきだけではなく、他にもできることはあるんじゃないかと思って。いろんなスキルや職を持っている人が集まったので、『2.0』の活動を始めたんです」
 今では横浜の家を引き払い、拠点を石巻に移したという小泉瑛一さん。以前は同じくメンバーのひとり、阿部久利さん宅に居候しながら活動していた。居候先の阿部さんは、石巻で生まれ育ち、ダイニングバーを営む料理人。彼の「革命だよね」という一言が、そもそもの始まりだったという。
「もともと商工会議所のやり方に疑問を持っていたんですよ。石巻は潤った街だったので、富を流出させないように閉ざされていた。得た利益を市内で循環させていたから、貧富の差ができていたんです。でもそれが、震災から強制的にリセットされて…。街の仕組みを変えていけば、いろんな人が楽しく仕事できる社会ができるんじゃないかと思うんです。今までになかったような価値観や選択肢を石巻の人に提示して、田舎でもおもしろく過ごせるということを提案し、石巻にいろんな種を蒔いて育てていきたい。工房もひとつの種なんですよ」
img009  『2.0』について聞くと、「拠点のない集団」「類友」「ベクトルは同じ」などの言葉が飛び交った。それぞれが、自分の特技や興味を活かしたプロジェクトを実行する。石巻というリセットされた場所だからこそ、新しい実験ができる機会でもあるという。企業から企画の相談を持ちかけられることも多い。幅広い彼らの活動に共通するのは、ワクワクさせる何かを持ち、新しい石巻に変えるという前向きな意志ではないだろうか。そんな彼らの次なる計画、今後のビジョンを聞いてみた。
「もとの街に戻さないという動きが必要。結果ではなく、まずやってみせることがミッションなんです。石巻で生まれたアイデアが世界に発信され、おもしろいと思ってくれる人がいれば、一緒にやろうという連鎖が広がっていく。これからは、石巻をブランド化したいですね。他の被災地のモデルケースにもなれると思うし、コンパクトシティとして、街のデザインやライフスタイルを世界ブランドにしたい」
 小泉さんが答える隣で、「世界征服だよ」と千葉さんがささやく。そこに阿部さんが、説明を加えてくれる。そんな自由な雰囲気の会話から、新しい『2.0』の企画が日々生まれているのだろう。

復興民宿

img008  石巻を訪れた人の滞在施設『復興民泊』も、『2.0』の活動のひとつ。使われていない建物を直し、昨年9月末に1号室を、11月末には2号室をオープンさせた。
「前は畳を剥がしただけだったけれど、壁もきれいにしました。本棚を作ったので、これから本を集めます。廃業している旅館も多いし、復興関連の人がたくさん来るので、毎週末予約でいっぱいになりますよ」
 民泊の担当は小泉さん。利用料はひとり1800円からで、収益の半分を建物のオーナーにバックし、残り半分は運営費に回すという。この日泊まっていたのは、東京にある設計事務所のボランティアチーム。翌日の活 動について、話が盛り上がっているようだった。

2012年7月21日~8月1日 石巻STAND UP WEEK が開催!

毎年8月1日に行われる石巻最大のお祭り、川開き祭り。2011年の震災後初の夏休みにも開催され多くの人で盛り上がりました。ISHINOMAKI 2.0では、7月最終週からこの川開き祭りまでの10日間を「Stand Up Week」と名づけ、石巻が再び立ち上がるためのイベントを開催。野外映画上映会、まちづくりシンポジウム、ベルギーカフェ、音楽ライブ。このまちが、震災を乗り越えて新しいまちへ生まれ変わるためのヒントを探る10日間となりました。

そんな石巻中央商店街を舞台に、今年もまた「STAND UP WEEK2012」が開催されます。より多くの新しいアイディアを注入し、石巻の未来を、みんなで考え、みんなで創り、みんなで楽しむ10日間。この機会に石巻を訪れてみるのもよいかもしれません。

ISHINOMAKI2.0主催「STAND UP WEEK2012」に関してはコチラから! http://ishinomaki2.com/category/project2/stand-up-week/

(2012.7.4)
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