服部「本当に深い長い歴史を知ると、もっと視点がおおらかになりますよね。おおらかになることって、大事だと思う。たとえば喫茶店でちょっぴり困った対応をするウエイトレスさんがいたとして、その人に対してどう対応するかって、とても自分が試されると思うんです。前にTVでやっていた実験で、お坊さんが喫茶店に入って、ウエイトレスさんがすごく失礼なことをするんだけど、お坊さんは上手に、とてもまろやかに対応するの。そういうような意識の変容がみんなにちょっとずつ起きることが必要なんじゃないかって思っています。“ムカつく!”ということが起きた時、どう解釈して、どう調和的に、解決するのかを考えないと、原発や経済の問題も、謎解きができない気がする」
後藤「確かに、日本全体が調和を失っている感じがしますね。優秀だと言われている人たちが集まって国を動かしているはずなのに、どうして機能しないのか。もどかしいですね」
服部「福島の映像(福島第一原発)を見たりすると、すごく寒々しくて、人間の命が通っていない感じがする。最初はあんな事故を起こすつもりじゃなかったのに、だんだんおかしくなって暴力に走ってしまった、みたいな。その事自体に対して怒ることも大事なんだけど、もうちょっとこう“愛でつつむ”みたいなところから始まらないと、と思う。恐怖や罪悪感や怒りから行動すると、結局二項対立の戦争になってしまう。そんな過ちを繰り返さないためにも、問題解決の根本はまろやかな愛情にしないと。そういうわけで事故直後は、とにかく原発に向かって私は“今までありがとう、そしてごめんね”…って、意味が無いかもしれないけれど…でも一生懸命、愛を送るようにしました」
服部「今の状況が起きているのって、世界の歴史からみるとほんのちょっとの時間だから、また元に戻ることだってできると思う!ただ、“変えなきゃ”って思う人の割合がある一定数いないと…。だから後藤さんが『THE FUTURE TIMES』を創ったのも、すばらしいと思います。音楽の力ってすごいし、後藤さん、本当によく行動に出られたなと思って」
後藤「こういう社会や環境の問題が、音楽を熱心に聞いている若い子たちに伝わればいいなと思って。(結果が出るのには)10年ぐらいかかってもいいと思っているんです。今まさに学んでいる子たちが気づいてくれたら、その結果が10年後に出てくるから。そのための種まきをしたい。でも上から目線でやると厚かましくなっちゃうから、ぼくも一緒に学んでいきたい」
服部「私も同感です。『マーマー』も、これからの時代を“育てる”人達が、地に足をつけて、物事を見るために、背中を押したり大丈夫だよ、って言ったりする役割かなって思います」
後藤「女性が変わったら変わりますからね、社会は」
服部「社会の中で女性性って大事ですよね。今、時代がシフトしていて、男性性が優位だった時代から、女性的なものも意味を持つ時代になってきていると思う」
後藤「世界って女の人が動かしていると思う。友達の奥さんが、“日本は汚れてしまったけど、ここで産んで育てるんだ”ってことを言っていて、強いな女の人は、って」
服部「『風の谷のナウシカ』みたいですね。地震の直後に熟読したんですけど、あの物語は本当にすごくヒントになると思う。子育てをしている友人が“女の人が社会を動かしていたら、原発なんてああいうタイプのものは作らないと思う”って言ってました。現実的に、壊れたら大変なことが起こるってわかってるわけだから。福島にもよく行かれているある方がお話していましたけど、福島に行くと、男の人はシステムの話ばかりしている、って。女の人は食べ物の話とか、どの場所に行ったら子供を守れるかという現実的な話をしている。 だからって、じゃあ女の人のほうが偉いんだというわけじゃなくて、もう少し女の人の感覚が社会のシステムの中に入っていって、男性と女性のお互いの良いところが生かされると、もっといい世の中になるんじゃないかな。もっとナウシカ的な愛、まろやかさを大事にしてね」
後藤「女の人の感性って、面白いですもんね。小説を読んでいても、女の人って、内側から湧き出てきたようなものを書いているなあと思います」
服部「後藤さんも、ものを作られる方だから、余計に感じますよね」
後藤「言葉に関しては、自分の男性性みたいなのを感じるので、もっと、女の子みたいに歌詞が書けたらいいなあって思いますよ」
服部「すごい話!」
服部「私は『冷えとり健康法』を実践しているので、身体から変えることもとっても大事だと思っています。身体には“腎”と呼ばれる場所があって、そこがあたたまると自分が安定するし、逆に冷えると不安を感じるというメカニズムがあるそうなのですが、冷えとりを勉強しだすと、今の世の中の仕組みも腎が冷えるようになっているとしか思えないんですよ。食べ物とか、生活スタイルとか。本当に今、日本中の人の腎が超冷えてて!それが改善されたら心身がどっしりと安定してくるから、周りの言う事や目先の事に惑わされなくなってくるはずって思ってます」
後藤「僕も、30代後半に突入して、身体を大事にするようになりましたね。ロックバンドって基本的に、自分の中の10代性と付き合っていくような音楽なんですけど、歳を重ねるにつれて、肉体的には離れて行っているのが分かるようになってきてしまって…。健康っていいなあ、とか思うようになりました(笑)。肉を食べるのを控えたり。食べたとしても鶏だけにするとか。肉食については、健康のこともありますけれど、なにより、“自分で牛と豚は殺せないな”と思ったのもあります」
服部「一緒です。私も食べ物については試行錯誤してきましたが、“自分が獲れるか獲れないか”は目安だなと思っています。魚は釣れるかもしれないけど、マグロは釣れないなと思う(笑)。だから、自分で採取できるものだけを食べていた、縄文時代の生活は理にかなっていると思います。“分相応”ってすごく大事だなあと思って。それを超えるといろんな過ちを犯し始める気がするの。だからって裸に腰みのだけの生活に戻るのは無理なんだけど、その時の考え方とか精神を、科学が発達した今の時代に持ち込むのが、未来になってゆくんじゃないかな。古いものと最先端のもののいいところが混じり合うような、生きているのは現代だけど、マインドは縄文人、みたいな」
服部みれい(はっとり・みれい)
『murmur magazine』編集長。自身も執筆活動も行いながら、冷えとりグッズを扱う「mm socks」、本のレーベル「mm books」を主宰。『冷えとりガールのスタイルブック』(主婦と生活社=刊)の企画・編集ほか、著書に、『あたらしい自分になる本』(アスペクト)、『オージャスのひみつ』(蓮村誠=監修 マーブルトロン/中央公論新社)、『あたらしい自分になる手帖』(アスペクト)、『みれいの部屋 ニューお悩み相談』(主婦と生活社)、『服部みれい詩集 甘い、甘い、甘くて甘い』(エムエム・ブックス)など多数。
最新号『murmur magazine』16号(エムエム・ブックス刊)、『あたらしい東京日記(大和書房刊)』、ともに6月23日発売予定。
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