後藤 「ドイツって現状で、どのくらいまで再生可能エネルギーが進んでいるんですか?」
今泉 「2010年の末で20.8%を超えたって出てましたね」
後藤 「電気だけですか?」
今泉 「電気だけです。その内訳としては、約7%が風力。日本は風力とソーラーですけど、ドイツでは私が仕事にしているバイオマスが5.2%くらい。ソーラーは出力が意外と小さいから2%くらい。あとは、細かいものがあるんだけど。ドイツでは再生可能エネルギーの主なものは、風力、バイオマス、ソーラーなんですね。そこが日本とはちょっと違う。日本はソーラーと風力。いろいろ政策があるでしょうけど、ドイツは3本柱として、そこにバイオマスを組み込んでいるんです。何故かっていうと、ソーラーは太陽任せ、風力は風任せですよね。不安定なんです。だけどバイオマスは、常に発生できる。要するに木のチップだとか木屑だとか用意しておけばいいわけですから。要するに、太陽光や風力を補うものとしてできるわけですから」
木下 「今泉さんは何年くらいやっているんですか?」
今泉 「17、8年やっています」
木下 「すごいですね」
今泉 「そういう点をドイツ人は現実的に捉えていて、再生可能エネルギーのそれぞれの性質を非常に研究して、我々のような業者だけでなく政府の役人さんが勉強されている」
後藤 「バイオマスって可能性がありますよね。休耕田の数を考えたら」
今泉 「休耕田の前に我々が毎日出している、うんちやおしっこ、これがバイオマスですから」
後藤 「前号で伺ったその話は、すごく反響がありました」
今泉 「家畜糞尿、生ゴミ全てバイオマスですから。こういうのもだけ集めてエネルギー化することが、技術的に可能なんですね。そういうものを全部やれば、多分日本の電力の2割くらいをカバーできる」
後藤 「神戸市のバスが汚泥で走ってますよね」
今泉 「そうです。廃棄物処理とエネルギー化、両方ができるわけじゃないですか。例えば風力、風はタダですがお金はついてこない。だけど、廃棄物処理っていうのは処理するときにお金が入ってくるわけです。例えば町がやれば、どこの町でも10〜15%をゴミ処理費用に使っているんですよ、それがなくなるわけですよね。尚かつエネルギーができてしまうわけですから。まず、廃棄物のエネルギー化を進めなきゃいけない」
木下 「日本ではどの程度進んでいるんですか?」
今泉 「非常に少ないですね。バイオガスプラントで言えば、ドイツでは6000〜7000機くらいあるんですけど、日本だと50機くらいです。非常に少ないです」
木下 「バイオマスのプラントは、一機でどのくらいの電気が賄えるんですか?」
今泉 「それはいろいろありますけど、私のところのプラントは800キロワットの発電ができるんです。だいたい2、3000軒の家庭の電気が賄えるくらいです。これは小さいんですが、これが5000、6000機揃えば、原発の1機分くらいは賄えますね。ちりも積もれば山となるわけですから。再生可能エネルギーはひとつの単位はすごく小さいんです。100キロワットとか200キロワットとか。ところが、適した土地が日本にはいっぱいあるわけです。それが進まないっていうのは、日本の電力会社が独占しているからです。彼らはコストのかかる原子力発電、火力発電をかかえているわけです。多分、再生可能エネルギー法が通ったとしても、電力の根本的な構造改革、送配電の分離だとか、発電会社が複数出てこないと本当に意味での再生可能エネルギーの普及にはならないと私は思っています」
木下 「エネルギー改革にはならないですよね」
後藤 「法整備的な問題もありますけど、基本的には木下君がドイツで体感してきたような人々の意識の高まりがないといけないなと思いますね」
今泉 「それが一番ありますね。先ほどのデモの話もそうですけど、ドイツの人は自分の政治的な意思を強く示そうとする。ところが、日本人はどっちかというと長いものに巻かれろで、『ああいうことをやっている人は特殊な人だ、過激な人だヒステリックな人だ』っていう見方をしますよね」
木下 「そうですね」
今泉 「だけど、結局そういう盛り上がりで、政治家も無視できないなという状況を作ればいいわけですから。もちろんルールは守って、迷惑をかけないように政治的な意思を示すことも国民のあるべき姿だと思いますね」
後藤 「現状の色々な問題の話を、みんなが興味を持ってアピールしていかなくちゃと思いますよね」
今泉 「東日本大震災、原発事故以降、環境やエネルギーに対する日本人の意識は相当変えましたよね。これを機に日本も変わっていかなくちゃいけない、と」
後藤 「ここで変わらないとね」
木下 「ここ見て見ないふりして通り過ぎていくと、絶対に過去の負の遺産として残っていく」
後藤 「そうだよね」
今泉 「私は今、自分でいろいろ事業を起こして再生可能エネルギーの最前線にいるわけですが、その雰囲気から感じるのは “この勢いは止まらない”っていうことです。今、原発推進派の方々、財界の方々、原発をベースにして日本経済を考えるのは完全に破綻していますよね。これは世の中の流れであるし。まず、経済的に採算が合わないとハッキリ出たわけですから。何に関しても保険はあるわけですけど、大きなプロジェクトを起こすときは保険をかけるわけじゃないですか。保険がかけられない事業は誰もやらないですよね。だけど、原子力は保険かけられなんですよ。保険会社も受けないです」
木下 「そうですね。今まではコストが安いと言われ続けてきたけれど、何か起こると手につけられないようなことになってしまうじゃない。それによって浮かび上がってきたのは、この隠していたシステム。それが明るみに出た、“それでも変わらなければ未来はない”と言うしかないっていうか。僕らは大人だから、“子どもに対してどう責任を取るのか?”ってことが一番デカいよね」
後藤 「そうだよね。そのツケは、まだ産まれていない世代にも回していくことになるから」
今泉 「そういうことです」
木下 「だからこそ、やっぱり全撤退に向けて舵きりしてほしいよね。それが何故出来ないんだろう?って思うかな。ドイツは本当の意味での美しさはあったね、民主主義の」
後藤 「難しいですけどね。でも、進めていきたいよね。待ったなしでね。結局、原子力発電は、資本主義だったり中央集権的な権力だったりの象徴でしかないっていうかね」
今泉 「今までの社会がずっと右上がりできて、ここへ来てエネルギーの問題だけじゃなくて、全ての面がこのままじゃ立ち行かないっていう状況になりつつありますね。僕らの世代は、それがまだわかってない人がいる。そういう人たちが社会で実権を持っているっていうのが、また難しい問題で。だけど、それはどんどん淘汰されて、若い方々が、中枢を担っていくわけですから。どう上手く受け渡しが出来るかと」
木下 「そうですね。たとえ、泥をかぶってでも未来は守りたいよね。そのための努力なんていくらでもできると思うし。日本の技術者はすごいと思うし、他のもの何でもできるだろう?とも思うし。それは安直な考え方かもわからないけど、自問自答して考えていることではありますね」
後藤 「エネルギーのことを考えるっていうのは、日本人にとって本当の意味での民主主義を取り戻すっていうか、そういうことに繋がるってことですね」
今泉 「全くそういうことですね」
木下 「そうだね。独裁企業、国と官僚と電力会社のトライアングルは本当にやめてくれって思う。そこが変わってくれないと俺たちが何言ってもキツい。もちろん“NO!”と言い続けるけど」
後藤 「みんなで“NO!”と言い続けることは、大事な気がするな。何のしがらみもない庶民の立場から、まずは“NO!”と言っていなかいと動かないんじゃないかって思うね」
今泉亮平(いまいずみ・りょうへい)
1941年東京生まれ。戦災の残る東京で幼少年期、復興期に高校、大学を過ごし、高度経済成長期に就職。40歳で独立しドイツ企業の代理店業務をスタート。90年に廃棄物処理プラントに関わり、95年にバイオガスプラント業務をスタート。石油文明隆盛の中で生き、その贖罪として余生を再生可能エネルギーの普及を願い友人たちと2006年にNPOを立ち上げ活動中。孫が成人する頃の100%自然エネルギーの社会を夢見る。
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木下理樹(きのした・りき)
'78年10月生まれ、大阪府出身。ART-SCHOOL、killing Boyのボーカル、ギター担当として活動している。ロックに限らず幅広い音楽に精通し、映画好きとしても知られる。2010年、ART-SCHOOLは結成10周年を迎える。2011年12月29日(木)の『COUNTDOWN JAPAN 11/12』のステージをもって、宇野剛史(b)と鈴木浩之(ds)が脱退することが先日発表された。
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