後藤「僕の出身は静岡です。田舎なんだけどみんなでひとつのこと考えるトピックってあまりないように思います。お茶が有名と言ったって、お茶を栽培してない土地もあるし。広島には『被爆地』という本当に大きなトピックがあるわけじゃないですか。それは、県民の感覚としてはどうなんですか?」
二階堂「私は広島県民ですが、広島市の人たちとは、また感覚が少し違っているかもしれない。みんながみんな、それを背負っているというわけではないと思います。でも、根底にはあるでしょうね。知らず知らずに受けてきた教育が、他県の人とは違ったんだろうなと。自分たちが普通だと思っていた教育が、同世代の他県の人にはないんだと大人になってから知って、愕然としました」
後藤「広島の人たちは、平和式典でも自分たちの言葉で語りますよね」
二階堂「世界平和とか核兵器の廃絶というのは、意識として当然のようにあります。でも、原発の話になると、意外なまでにそこは無関心というか。上関の原発も、広島のための発電所を作ろうとしているのに、どうもピンと来ていない。そこはもっと核アレルギーがあっていいのに、と私は思いますけど」
後藤「山口県に建設が予定されている上関原発は、広島から地理的に近いですよね。震災の前の週に初めて行った上関は、海の水が綺麗で澄んでいました。海っぺりに温泉もあったので、そこにも入って。お湯がしょっぱかったな。その後、いとうせいこうさんとThe Future Timesの取材で泊まった祝島の民宿では鯛の尾頭付きが出てきたり」
二階堂「あの辺りは、鯛を日常的に食べますからね」
後藤「上関も祝島も、いいところだなぁと思って帰りました。静岡には浜岡原発があるけど、傷まない限りは放っておく感じのイボみたいになっている気がしますね」
二階堂「私も9年前まで原発ってものを全く意識してなかったし。でも自分の家族や地域の人たちは、まだまだほとんど危機感持ってるふうではないですね。広島市周辺では、意識の高い人たちがたくさんいますけど、それでも多数派ではないです」
後藤「福島の人たちは、静かなように感じます。語りたい言葉があっても、アウトプットしないというか、多くを語らない。だから言ってください、とは思わないけど」
二階堂「事情が違いすぎるでしょうね。お仕事として容認してきたという事情もおありでしょう。原発の被曝と原爆の被爆は責任者が全然違う。でも広島は、子どもの頃の自分を考えてみても、少し被害者的な意識に寄ってしまいすぎてるのかも、とも思うようになってきたんです。今の子どもたちは、私たちが子どもの頃のような平和教育を受けてないみたいで、それも、その被害者意識の反省みたいなところからきているのかなとは思うんです。でも、それで核廃絶とか平和への意識が薄まってしまっているようにも思うし。広島の原爆資料館の展示がどんどん怖さを軽減していってるんですけど、それは良くない傾向のようにも思っています」
後藤「ずっと僕も考えているけれど、難しい問題ですよね」
二階堂「原子爆弾のことだけに執着しすぎるのは違うなと近年は思うようになって。広島の放送局の被爆70年プロジェクトのテーマソングとして『伝える花』という曲を作ったんですけど、2番に出てくる歌詞『受けた悲しみは 決して返しはしない』という部分が一番言いたかったメッセージです。報復の連鎖から抜け出す道を模索していきたいという思いを込めました」
後藤「そうですよね」
二階堂「同じ2015年に韓国やハワイで唄わせてもらう機会があったのですが、どちらとも、歴史的に悲しい過去がある。それに対して、どちらかが『謝る』『許す』という一方向のものでもない。『決して返しはしない』が、国内ではすんなり自分が主語に聞こえても、ともすれば「日本のやったことを許すべきだ」
みたいにきこえちゃわないか、と。今までもいろんな立場の人が聞くことは想像しながら作ってきたけれど、そういう政治外交的な立場とかまで考えて詞を書いたことはなかったので」後藤「取り上げる人によっては悪意を持って取り上げたり、言葉の端っこだけを切り取ったり」
二階堂「そこを説明しないのが歌の良さだと思うんです。野暮なMCを入れるのはやめよう、と思ったり。入れれば入れるほど、誤解を生みやすくなるんじゃないかという気がして」
後藤「たとえば、海外ツアーに行ったときに、MCで『宗教も文化もいろんなことが違うけど、僕ら音楽が大好きなことだけは共通してる』って言うと、大抵みんな『オー!!』となりますよね」
二階堂「そうなのそうなの」
後藤「音楽はずるいなぁ、ってなりますけど」
二階堂「なりますよね。でもとにかく、武器を持つことは絶対、平和には繋がらないんだというのは、どこに照らし合わせていても間違ってないと思ってるんです。音楽でも普遍的なところを伝えたいというか。どちらの国のライブでも自分の唄とともに、ルイ・アームストロングの『What a Wonderful World』を歌わせてもらいました」
後藤「音楽にそういう力はありますよね。月並みですが、フィーリングのようなところへ戻せるというか」
二階堂「祝島へ最初に歌を歌いに行かせてもらったときも、それをすごく感じた。きっかけは、原発の推進派と反対派で島が割れてしまい、昔からのお祭りができなくなって楽しみがなくなった話をテレビで見たことです。せめて歌謡ショーみたいなもので楽しんでもらおうと思って」
後藤「公民館ですよね、YouTubeで見ました。僕もいとうせいこうさんと行ったとき『何かやれ』と言われてやらされましたけど(笑)」
YouTube:にかちゃんライブ@祝島 2009.11.30
二階堂「何をやったんですか?」
後藤「僕が横でギターを弾いて、せいこうさんがラップするっていう」
二階堂「おー、フリースタイルで!」
後藤「途中からレキシの曲になったり。口ロロ(くちろろ)の曲もやりましたね。『ヒップホップの初期衝動』とか。最後、せいこうさんのラップは歌に変わって、ブルースみたいになって、ヒップホップから先祖帰りしちゃった。楽しかったな」
二階堂「いいですね(笑)。私も今までは同じ思いの反対派の集まりでしかやらせてもらったことはないけど、同じことを推進派の方の集まりでやったっていいんだよな、と思ったんです。講演会というと無理でも、歌の会なら、違う意見にも耳を傾けてもらえるかもしれない。心を動かせるかもしれない。音楽はいろんな立場、考えの人にも接してもらえるチャンスがあるから、何かを担えるはずですよね」
二階堂和美(にかいどう・かずみ)
1974年、広島県生まれ。1997年からシンガーソングライターとしての活動を開始。これまでに単独作として12作品を発表。2011年発表のオリジナル・アルバム『にじみ』は全曲を作詞作曲し、それまでの活動の集大成ともいえる作品となった。2013年公開のスタジオジブリ映画『かぐや姫の物語』(監督:高畑勲)の主題歌『いのちの記憶』を書き下ろし、話題に。2015年、RCC中国放送が展開する「被爆70年プロジェクト『未来へ』」のテーマソングとして書いた『伝える花』をシングルでリリース。著書に『しゃべったり書いたり』。浄土真宗の僧侶でもある。