後藤「そうやって気持ちいいことにフォーカスしつつ、普段から『いや、社会的な問題はこうでしょ』って意見を言う。そこが俺はうらやましいし理想的だなと思うのね。インタビューで読んだけど『ミュージシャンが一番いろいろな意見を言えたり、ライフスタイルをアピールしたりできる』って人に言われて、音楽をはじめたんでしょう?」
コムアイ「そうです。いろいろ問題意識を抱えていく中で、今のマネージャーと話したときに『だったら音楽家になって発信したほうが一番世の中に広く伝わりやすいし、言っても悪く見られない』って」
後藤「それ読んで、ハッとしたけどね。そんなふうに音楽を始める人がいるんだって」
コムアイ「めっちゃ曲がってますけどね(笑)。でも歌と踊りのコミュニケーションの世界に放り込まれて、もっと豊かなことを教えてもらったのはラッキーで嬉しい。もともとすごく感情表現が苦手だし、学生の頃は社会人になる準備もしていたんですよ。隙のない人になろうと」
後藤「普通に働くつもりだった?」
コムアイ「うん。人に批判されないように生きる準備をしてたんですよ、大学生の時。でも急に『水曜日のカンパネラ』に入って舞台に立ったら、そういうのはモロバレになっていく。お客さんはそういうのじゃポカンとしたままだし、結局こっちも裸になるしかなくて。そうやって泣きやすくなったし、喜びやすくなったし、いろんなことを感じやすくなった。だから子供に還っていくような感じがします」
後藤「大人になると感情と体の距離が遠くなっていくもんね」
コムアイ「身体性を取り戻したいですよね。一回リハビリするしかないと思うんですよ。20世紀の間に問題はリストアップされたじゃないですか。環境問題とか人権問題、戦争はやめようとか。“さぁどうしましょう?”っていうところから21世紀は始まった。すぐに方法は見つからないし、方法を見つける心にまだ行ってないんですよ、たぶん」
後藤「見つける心?」
コムアイ「何か解決するときって、誰もストレスを感じずにその選択になるって感じだと思う。今はまだ、『そこまで自分たちが愛されてない』って東京の人たちは感じている。気持ちよく踊ってるときって、音に愛されてるって思うじゃないですか。ちゃんと安心しないと言いたいことも言えなくて。私もそうだったけど、素敵な人がどんどん周りに集まって、少しずつ人にはっきり言えるようになってきた。それまではまったく言えなかったんです。口を開けたら絶望的に相手を否定してしまうと思って。でも私の中で絶望的じゃなくなったから、言っちゃっていいんですよね。相手を傷つけてでも言ったほうが相手のためになる」
後藤「言わないまま流しちゃうと、なんか嫌だねって空気に支配されて、みんな体がこわばっていくからね。でもコムアイは、どうやってユルユル振る舞ってんの? 常にすごく柔らかく、しなやかに振る舞ってるように見えるのね」
コムアイ「あー、サルサかもしれないですね」
後藤「サルサ!?」
コムアイ「最初はクラシック・バレエをやってたんですけど、8年ぐらい続けて、小学生のくせにけっこう疲れちゃって。自分で踊りださなきゃいけないんですよね。列になって並んで、“あー、次は私の番だ”って思いながら踊りださなきゃいけない。面倒臭いんですよ。でもピースボートの人がサルサ・レッスンに連れていってくれたときは全然疲れなかった。曲が流れて間はどっから踊りだしてもいいし、男の人が女の人に手を差し伸べたら始まるんです。で、手を押し合ったり引っ張り合ったりして踊るから疲れない」
後藤「能動的だし、協働的なんだね。お互いに働きかけ合ってる」
コムアイ「そう。すごい少ない力で踊れるし、何十分でもずっと踊ってられる。最初に踊りが好きになったのがそれだったから」
後藤「そうなんだ。俺もダンスのビデオを観るのが好きで、コンテンポラリー・ダンスも時々観に行ったりするんだけど、どうやったらあんなふうに体が動くのかしらって思う。思ったように体が動く人ってすごい素敵だな。誰もがダンスするように暮らせたらいいのに」
コムアイ「そのほうが絶対気持ちいいですよね。このあいだフランスのフェスで、厨房の人たちがレゲトンかけてみんな踊ってて。食器とか包丁とかカッチャカチャやりながら。そこに入っていってみんなで踊ったんだけど(笑)」
後藤「あぁ。それは、なんかいい画として浮かぶなぁ」
コムアイ「踊るように暮らすっていうより、暮らしが踊ってるって感じでしたね。そういう瞬間のほうが、フェスのライブより良かった。生活の中で踊りたくなっちゃう感覚。ほんとは、あの瞬間を人と共有したいなと思ってますね」
後藤「暮らしが踊るって、いい言葉だね。それをみんながやれば〈東京の呪い〉は解けるのかな?」
コムアイ「解けると思います!」
コムアイ
1992年7月22日生まれ。神奈川県出身。高校生時代には、いくつかのNGOやNPOに関わり活発に動き回る。サルサダンスに魅了され、キューバへ旅し、同世代100人のチェキスナップとインタビューを敢行。その後は、畑の暮らしを体験したり、たまに海外へ。最近は、鹿の解体を習得中。作曲・編曲担当のケンモチヒデフミ、それ以外担当のDir.Fからなる音楽ユニット「水曜日のカンパネラ」の主演・歌唱を担当。2015年、「ヤフオク!」のテレビCMに出演し話題を集める。2016年6月、ワーナーミュージック・ジャパン・アトランティック・レコードからEP「UMA」をリリースしメジャーデビュー。2017年3月8日には初の東京・日本武道館公演「八角宇宙」を開催。6月から8月にかけて全国ツアー「IN THE BOX TOUR」を開催。この夏は、多数のフェスやイベントに出演した。