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進歩と未来 | 奈良美智

知らなかったことを、知ろうと変わった

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奈良「そんな風に、震災がきっかけで地方にあるローカルなコミュニティの大切さが見えてきました。10人くらいの住民はみんな年寄りなんだけど、そこで仲良く助けあって暮らしている。住んでいる人にとっては、その狭い世界というのがとても居心地がいい。都会から見ると僻地に思えたり、大変だろうなと思うことが、実はあまり大変じゃなくてね」

後藤「それまで見えなかったことなんですね」

奈良「そう。僕がいちばん変わったのは、知らなかったことを知ろうとするようになったことです。東北の出身なのに、山奥のことはまるで知らなかったし。今は震災にあった地域とは関係なく、過疎地のことを考えています。過疎の土地は、過疎なりに充実した生活があると分かったからなんだけど。そうしたら、昭和63年に初めて電気が通った集落が岩手にあったことを知って」

後藤「昭和の終わりですよね。それまではどうしていたんだろう」

奈良「ランプを灯して暮らしてたんじゃないかな。おじいちゃんとおばあちゃんが住んでいたんだけど、おじいちゃんが亡くなってから、おばあちゃんは里へ降りて誰も住まなくなった。それまでのドキュメンタリーを本にしたものがあって、読んだら『豊かな生活というのはこういうことかな』と感じたんですね。あるものはある、ないものは欲しがらない」

後藤「いい言葉ですね」

奈良「昔はみんなそうだったと思うんだよね。僕の世代、地方に住んでいると都会より10年は遅れていたから、冷蔵庫なんかも上に氷を入れておくの。ご飯をお釜で炊いている家も一杯あった。テレビが初めて来たときも覚えていて、東京オリンピックのときだから小学生。そういうリアリティを知っているのは貴重なのかもしれない」

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後藤「僕のときだと電話はダイヤル式、ご飯はガスでした。それがいつの間に電気ジャーになって、電子レンジが家に来たときはビックリしました。CDプレイヤーが来たのが、小学校高学年で」

奈良「それは自然に受け入れた?」

後藤「当時は全部カセットで聴いていたから、頭出しができるのはとても便利だなって。レコードプレイヤーは家にあったんですけど、壊れたら針も高いし」

奈良「俺、CDが出たときには、これじゃ本当の音楽が伝わらない!とだいぶ反抗したんだけど、いざ買ったら、曲が飛ばせるし便利だぞって(笑)。でも、レコードの良さに戻ってるんだよね、今」

後藤「僕は10代の終わりに東京に出てきたらレコード屋がたくさんあるんだと知って、カッコいいなと思ったのが最初でした。そのうちにどんどん良さが分かって。こういう体験をすると、みんな戻りますよね」

奈良「どんなにCDや録音技術が発達しても、身体で知っているレコードの良さを選ぶ。ご飯も釜で炊く人が増えてるそうです。ガスの上に乗っけて作ったご飯は美味しいって。そうやって戻ってくんだよね。変に便利になりすぎたものは淘汰されていくんじゃないかな。そのうち、世界中でエコに生活しようとなったとき、どれだけ自分たちの先祖がエコな暮らしをしてきたか知るわけじゃない。不思議だよね、進化と進歩の兼ね合いは。進化自体は、進歩とは違うんだ。進歩すると、戻っていくこともあるというか」

後藤「僕も年々、そういうことも考えるようになりました。アナログで音楽を聴き始めるようになったのもそうだし。何年か前に、大事に使っていたCDウォークマンが壊れたんです。電話したら、お客様サービスの人に『買ったほうが安いですよ』と言われちゃったんですよ」

奈良「いつからかそうなっちゃったんだよね、何かが壊れたときに買ったほうが安くなってしまった」

後藤「でも、意地で修理しましたけどね。本体を丸ごと買うよりずいぶん高くつきました。直せるものを直さないで『ハイ、これはもうゴミ』っていうのはなにか引っかかるんです」

奈良「クルマとか愛着のあるものなら、直すこともあるよね。新車のほうが性能もいいはずなのに。ちょっと見方を変えると、いろんなものが長く使えるはずだよ」

後藤「直す技術のあった人は、どこへ行ってしまったんだろうと思います。音楽の現場だと、録音の技術は自分たちが上の人から受け継がないと、もう次の世代へ繋がらないんです。機材もコンピュータに入れてソフトウェア化してしまうと、いつかツマミをひねった感触も忘れてしまうんじゃないかって」

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奈良美智(なら・よしとも)

奈良美智(なら・よしとも)

1959年、青森県弘前市に生まれ。1981年、愛知県立芸術大学美術学部美術科油画専攻に入学。1987年、同大学大学院修士課程修了後、1988年にドイツに渡り、国立デュッセルドルフ芸術アカデミーに入学する。2000年帰国。翌年、新作の絵画やドローイング、立体作品による国内初の本格的な個展「I DON'T MIND, IF YOU FORGET ME.」が横浜美術館を皮切りに国内5ヵ所を巡回。いずれの会場でも驚異的な入場者数を記録し、美術界の話題に。現在、青森県立美術館、その他、東京都現代美術館、ニューヨーク近代美術館など、国内外の多くの美術館に作品が収蔵されている。現在、森美術館で8月31日まで開催されている「ゴー・ビトゥイーンズ展:こどもを通して見る世界」に参加。