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谷尻誠×後藤正文

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後藤「そういう谷尻さんの建築の発想は、どこから湧いてくるんですか?」

谷尻「言葉がすごく好きなので、建築を言葉から想像したりしますよ。今みたいに『カフェって何?』『廊下って何?』『庭って何?』とか…… 気になる言葉をノートにラクガキしながらメモしているんです。『街に絵を描くってどういうことだろう』とか、『建物にレースの服を着せたらどうなるのか』とか、ほとんど妄想みたいなことばかり! ここに書いてある『どこまでも続くようなリビング』というのは、『部屋は大きさがわかるから狭いと言われるけれど、続いているような気配や予感さえあれば、実質的な空間は小さくても広く感じられるんじゃないか』と考えた時のメモですね」

後藤「住んでいる人が計り知れないリビングなんて、面白いな。『えー、どこまであんだよ、ウチ』って。ふふ。ところで、この“世界クッキー”という言葉が気になったんですけれど?」

谷尻「以前、作家の川上未映子さんと対談させてもらったとき、『“世界”という言葉と“クッキー”という言葉は誰でも知っているのに、それが“世界クッキー”となった瞬間、すごく新しいものになる』という話をされたんです。『こんなことで革命が起こせるのか!』と感動しました。川上さんはナンセンスメモと呼ばれていましたが、組み合わせをしていくと思いがけない発見があります。『“住宅”ってプライベートなものだけど、公共と住宅が組み合わさった“公共住宅”ってどうやったらできるんだろう?』とか。これは3冊目なんですが、少しだけページが透けて裏映りする紙なんですよ。『透かして見える違う言葉の組み合わせで思いがけないアイデアが生まれたらラッキー!』なんて思ってます」

後藤「僕は無印良品の『らくがき帳』をノートにしてて、5冊目くらいですけど。それに詩なんかを書いてますね」

谷尻「マイナスな言葉もメモしてますよ。小さい、狭い、暗い、安い、荒い、不便、低い、変な形。みんながダメって捉えていることをどう肯定できるか考えれば、それも十分に新しいと思うんです。たとえば、家の大きさに関係なく、階段に必要な面積ってあまり変わらない。小さい家は、階段があるせいで狭くなる。それじゃと考えたのが、部屋自体が階段状になっているこの絵です。1段目が玄関、2段目がキッチン、その上がダイニング、リビング、寝室……家の中が階段になっていれば、階段をなくせるんじゃないかなとか、もう変なことばっかり」

後藤「最近だと、どんなことを考えていますか?」

谷尻「そうですね、『建築って強くて堅いから不便なんじゃないか?』とか『建物が地震で壊れて人が亡くなるのは重いからだな。じゃあ、もっと軽くできないのかな?』とかでしょうか。今ある状況に対して『なんでこうしないんだろう?』ってことを一度は考えてみないとダメなんだな、と思います」

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後藤「できる、できないは、まず別にして」

谷尻「ええ。この時代で当たり前に思っているものを、もう一回考えていきたいんです。いつの間にかできないと判断しているだけで、実は今の技術を使えばできることが昔より増えているかもしれませんから。少し不真面目なくらいに考えないと、こんなのがあったらいいな、とならないですよね。自分が経験したことがないもの、見たことがない新しいものを創りたいので、誰よりも不真面目に考えて、誰よりも真面目に作ることを目指しています」

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後藤「ちなみに、コンピュータは設計に使っていますか?」

谷尻「使いますよ。でも、ほとんど最初は手描き、それと言葉ですよね」

後藤「僕、田んぼとか眺めるのが好きなんですけど、なんで農耕って四角くしていくんだろう、建物が四角いのもそういうところから来てるのかな、とか思ったりします」

谷尻「不思議ですよね、自由にやっていいのに。自然界に四角なんて一個もないじゃないですか。人が作る瞬間、全部が角張ったものになっていく」

後藤「音楽も四角くなってきている気がするんですよね。ダンスミュージックの醍醐味ってビートなどの正確さにもあるから、カクカクしてるように感じるんですよ。コンピュータが登場したことで、音階も五線譜の上にキッチリ置こうとするんですけど……弦楽器でも、声でも、普通はピッタリのところにいかないはずなんですよね。東洋の文化はそういうのがルーズだったりしていたはずなのに。ここからここまでは適当、とか」

谷尻「その感覚、とてもよくわかります」

後藤「今の基準はコンピュータの中にあって、それにみんなが合わせようとするから、似てくるというか、作っているものがひとつの場所へ向かっている気さえします。そういうのに気づいた人は、そこから逃れようとか、離れようとする。自分たちを縛っている四角さみたいなものから、逃れよう、逃れようという動きがある。お話を伺っていて、そういうところにも繋がってすごく面白いと思って」

谷尻「僕は、大学行って建築を勉強して、師匠について、独立する……というシナリオは歩んでいないから、世の中に自分を合わせていくこと自体が違うんじゃないかと思ったんですよね。みんなの真似して新しいものを作れるはずがない、それよりは自分に合う方法を見つけて、自分なりの建築家像を作るしかないな、と」

後藤「僕も似たようなこと思いますよ。たとえば『バンドをやりたい人が、なんで音楽の学校に行くんだろう?』とか。『それって誰かに教えてもらうものなのかな?』とか」

谷尻「ほんと不思議ですよ、与えすぎちゃうのって。僕は独立したばかりで仕事がない頃、焼鳥屋でバイトしながら設計をしていましたけど。習っちゃうことの怖さってありますから」

後藤「あるマニュアルをパーフェクトにマスターするのが美徳とされるんですよね。なぜだろう」

谷尻「絵にしたって、利き手じゃないほうがいい絵を描けるかもしれないですよね。思いどおりになり始める怖さというのが、すごくあります。僕はずっとバスケをしていたんですが、ひとつのことをずっと追求していくとうまくなるじゃないですか。できるようになってくることは嬉しいんですけれど、不安もありますね。こうやったらできるな、という自分の奢りみたいなものも感じられて」

後藤「自分のなかで作っちゃう手法というか、ルーティンワークみたいなものってありますよね」

谷尻「絶対『クセ』も出てくるでしょうし」

後藤「僕も『コツ』が嫌いなんです。自分では『表現』と言ってるくせに、って。このコツというのを真っ先に殺さないといけないんですよ、本当は」

谷尻「テクニックでその場しのぎになるのって、危ないですよね。(本棚の本を指して)この本は『はじめて考えるときのように』(野矢茂樹・著、植田 真・絵)という、僕が好きな本ですけど、タイトルがもういいんですよね。大人になった僕達は、初めて考えるときのようにはいられないことばかりじゃないですか。さっきの『名前を取る』というのも、そうやって考えるための方法なのかなって思います」

後藤「ところで、谷尻さんはどんな家で育ったんですか?」

谷尻「広島市内よりもっと県北の田舎です。僕ん家、ほんとボロい家だったんですよ。もう間口が3. 5m、奥行きが25mくらい。昔の町家(まちや)ですよね。うなぎの寝床みたいな所で、お風呂は五右衛門風呂でした。家の真ん中に中庭があるんで、それこそ安藤忠雄さんの“住吉の長屋”じゃないですけど、雨が降ったら傘をさして台所に行ったり……すごい不便な家だったな。夕方になったら、遊びたいのにお風呂を湧かしに家へ帰らなきゃいけなかったし。『こんな家イヤだ』とずっと思っていて、『大きくなったら大工になってお城を建てる!』とずっと言ってたんですよね。だから、大工かパン屋だったんです、将来なりたかったものは」

後藤「パン屋は?」

谷尻「それは単にパンが好きだから!」

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谷尻誠

谷尻誠(たにじり・まこと)

1974年広島生まれ。建築設計事務所「SUPPOSE DESIGN OFFICE」代表。広島と東京を拠点に、数々の住宅や商空間、展示会場などに関する企画・設計、ランドスケープやインテリアのデザイン等を手がける。代表作は、毘沙門の家、豊前の家、他多数。09年JCDデザインアワード銀賞ほか国内外で受賞多数。近著に「よりみちパン!セ」シリーズから『一歩手前の建築』(仮)が予定されている。特技は建築とバスケットボール。