そして、中部電力の浜岡原発(御前崎市)に近いという地理的な条件が、牧之原市をエネルギー政策の推進に積極的な自治体にしてきた側面もありそうだ。
バイオガス発電所の建設を応援してきた前市長の西原茂樹(にしはら しげき)さんは言う。
「もともと牧之原市は、09年に『バイオマスタウン構想』と『新エネルギービジョン』というふたつの計画を策定して、太陽光や風力、バイオマスなど、再生可能エネルギーの活用を推進してきたという経緯がありました。その流れが大きく加速したのが東日本大震災、そして福島第一原発の事故です。牧之原市として環境やエネルギーの問題について、具体的にいま何ができるのかと、突き付けられたわけですね。そして、私たちはこう考えました。『もし浜岡原発が停止したら、どうやって電気をまかなうのか?』『じゃあ、自分たちで電気をつくればいいんじゃないの』とね」
前述のとおり、バイオガス発電は廃棄物を有効活用しながら、二酸化炭素の排出量も抑制することができる。また、都市部で地産地消の再生エネルギー発電ができれば、現在のように遠方の大規模発電所から電気をわざわざ運んでくる必要性もなくなる。
運転開始から約1年半、現在では食品ロスの多い都市部の自治体を中心に、全国から行政職員がバイオガス発電所の視察に訪れているという。
「また現在、全国各地の自治体が所有するゴミ処理場の多くが老朽化し、耐用年数の問題で建て替えを迫られているという事情があります。もしこれを機に各地でゴミ処理場とバイオガス発電所を併設する動きが広がれば、問題をまとめて解決することができるんです」
そう力を込める前出・大橋さんが、最後に今後の展望について語ってくれた。
「電気の地産地消、地元電源というのは当初からの計画ですが、現在はすべて中部電力に売電している状況なので、電気を使っている住民たちにとっては、それがバイオガス発電に由来するものなかどうかがわからない。今後は、牧之原市と一緒にバイオガス発電所を中心とした共同プロジェクトを立ち上げ、地元への貢献度を上げていくような活動を進めていきます。
また、発酵が終わった廃液(消化液)を脱水した固形物は現在、山梨と富士宮にある工場で堆肥に加工しているのですが、これは本来、廃液そのものが液体肥料として使えるもの。今後は地元農家、JA、商工会の皆さんと協議会を作って、利用試験を行っていく予定です。さらに、発酵にともなって生じる熱は現在、タンクの加温に使っているのですが、ドイツではこういった施設が農業と一体化していて、温室・ビニールハウスの熱源になっていたり、薬草の乾燥に熱が回されていたりします。熱の有効利用というのも今後の課題ですね」
クリーンなエネルギーで暮らしたいと願う人は多い。一方、さまざまな折り合いのなかで、理想とするエネルギーがなかなか広がっていかない現実に慣れはじめているというのも事実だろう。牧之原バイオガス発電所の取り組みでは、廃棄されていただけのゴミがイメージを逆転させ、クリーンなエネルギー資源として生まれ変わり、さらにお金も生み出している。これを実現したのは、技術とファイナンスの両輪がうまく回った結果だ。人智と自然の掛け合わせによる持続可能な未来を信じたい。