これまで『THE FUTURE TIMES』のレギュラー・コーナー「◯◯と未来」では、多岐に渡るジャンルのクリエイターを招き、社会を変えるための視点やアイデアについて語ってきた。 今回はその特別編として、『水曜日のカンパネラ』のボーカリストでありながら、音楽活動に止まらない幅広い活躍、また、その行動力や発信力でも話題を集めるコムアイを迎えた。 後藤正文が今、飛び抜けて自由に見えるというコムアイに、「その自由な立ち居振る舞いの源はどこにあるのか?」話を聞いた―。
後藤「この『THE FUTURE TIMES』はアラフォー世代が作ってる新聞なんだけど、僕らは社会や政治との関わりを避けてきたし、特にしなくてもよかった世代なのね」
コムアイ「それより上の、学生運動とかあった世代が今60歳くらいですよね。その人たちは、もう関係なくても巻き込まれたんだろうけど」
後藤「そうそう。でも俺たちはもっと距離があった世代で、震災の後、目の前に様々な社会問題がいきなり現われて。どうしようと思って、初めてデモに行ってみたり、こうやって新聞を作ってみたりして……」
コムアイ「今やめちゃくちゃ詳しいですよね、ゴッチさん」
後藤「いやいや、そんなに詳しくないよ。ただ、俺はいろんなところに話を聞きに行って、それを翻訳して伝える立場なんだと思ってる」
コムアイ「自分で連絡して行くんですね。私の場合は……だいたい恋愛がきっかけだったりする。そのときそのときで近くにいた男の人が、変なおじさんのところに連れて行ってくれる、みたいな。女子!って感じですね(笑)。最近思い出したんですけど、16歳の誕生日は六ヶ所村で過ごしてて」
後藤「ヤバいね、それ(笑)」
コムアイ「ピースボートの事務所で会った人たちと映画『六ヶ所村ラプソディー』(※1)を観て、夏休みに六ヶ所村に行ってみようって。ただ、行っても別に何もできることはないし、見て感じるしかないじゃないですか。でも再処理工場(※2)の近くで畑をやってる人たちが印象的だったな。ものすごい罪深いものを抱えながら、でもポジティブで、もうどっかで切り離してるような感じもあって。そういう出来事を知っていって、アンチから人生が始まった感じがする」
後藤「そうなの?」
コムアイ「それまでは強い熱意を持つようなことがなくて。別にすぐ働いて親を食わせなきゃいけない状況でもないし、好きに勉強していいよって言われたものの、勉強したいこともないし、部活も世界が狭くてつまらない。非行に走るには大人になりすぎてた(笑)。けっこう時間を持て余してたんですよね。周りにもけっこうそういう人がいたし、そこでNPOに関わってみる子って今多いと思うんですよ。この余ったエネルギーと時間を、どうせなら社会のためになる活動に使いたいって。あとは単純に、大人に会いたいと思ってました。小学生とか中学生の頃は学校がすごく嫌いで、もっと面白い大人に会いたかった。学校の先生と自分の親しか知らない生活がすごく不健康だと思ってました」
後藤「偉いね。俺は、そういう気持ちになったの最近だよ(笑)。自分の父親の世代に面白いお爺さんがいっぱいいて、ちゃんと話を聞きに行かなきゃって思った。上の世代も確かに面白いんだけど、コムアイはSNSですごくナチュラルに思ったことを言うじゃない? 俺からすると、今、コムアイが飛び抜けて自由に見えるんだけど」
コムアイ「いや、すごい気を遣いながら言ってますよ。そのまんま言ったら超嫌われると思う」
後藤「……アレでもフィルターかかってるんだったら、さらに面白んだけど(笑)」
コムアイ「けっこう毒吐きそうになることが普段は多くて。私が自分の仕事としてどうにかしたいと思ってるのは“東京の呪い”なんですね。子供の頃から東京はずっと何かから見捨てられていると思っていて、最近はさらにその確信が増して。街全体に『まどマギ』(アニメ『魔法少女まどかマギカ』)みたいな感じで、ドローっとしたものが被ってるイメージがあるんですよね(笑)。怪しい話ですけど、街が作られていくときに風水的に何かを間違えてしまったというか。だから何もしてないのに街を歩いているだけで疲れることが多いし、逆に東京以外の街に行くとめちゃくちゃ元気だったりする。大阪の人に聞いても沖縄の人に聞いても『東京にいると少しずつHP(ヒットポイント)が盗まれてる感じがある』って話になることがあって」
後藤「ヒットポイントね。体力っていうか」
コムアイ「そう。頑張らなきゃいけない、ちゃんとしなきゃいけないと思わせる力がすごく強い街ですよね」
後藤「たぶん、土地的な何かというより、もっと観念的な呪いがあるような気がするけどね。田舎の人が持つ“東京!”っていうイメージ。僕みたいに田舎から“自分の思う東京” をそれぞれ抱えて出てきて、そういうイメージが集まって東京を形作ってる気がする」
コムアイ「確かにそうですね(笑)。エアーシティだ」
後藤「たぶん東京が一番シャイな街だと思うんだよ。メキシコとかでライブをやって盛り上がって、日本に帰ってきたらびっくりしちゃう。メキシコ人は、全部ウワーッて歌うし、リフも全部歌っちゃうの」
コムアイ「あはははは!」
後藤「『合唱するのは迷惑だ』って怒ってる人もいなくてさ。でも東京だとみんな隣を気にしてる。ルールとかマナーを守らせたい奴も出てきちゃうんだよね。それで同調圧力みたいな空気が立ち上がっちゃうんだけど」
コムアイ「そういうの、感受性が豊かじゃないなと思っちゃう。でも『感受性が豊かじゃないのはダメだ!』なんて言ってもしょうがなくて、言いそうになって止める。そのときは自分もその呪いにかかってるんですよね。何かを否定したいっていう呪い。それが怖いなと思う。きっと私が自由に見える理由……自由に見せている理由ってそこですね」
後藤「あぁ。なるほど。不自由を感じるからこそ、誰よりも自分が一番自由になるんだと」
コムアイ「そう。空気なんて野外にいれば変わっていくじゃないですか。よく“持っていかれる”って言い方するけど、あれはすごくいいことのような気がする。その場にある要素、その日のその瞬間のものに、体を全部委ねるってことだから」
後藤「委ねることと、圧に流されることは違うもんね」
コムアイ「そう。流されないぞって否定してるうちはダメなんですよ。私も後藤さんも新しい社会のビジョンを持っているけど、政治的には、社会的には、巻き返せてない、負けてると思うんですよ。東京のバッド・ヴァイヴスにやられて、まだ否定で返してるから。それを変えたいと思ってる。否定じゃなくて、心地よさで場所を支配していくしかないと思うんですね。胡座をかくにしても『この場所は絶対譲らないぞ!』って言うんじゃなくて『あのぉ~、ここにいるのラクなんでぇ~』みたいに笑ってるほうが、人はその場所を奪いづらいんですよ」
後藤「確かにそうだよね。対立すると、ガチガチになってどうにもならなくなるから。ライブだって、マナーで縛りすぎると窮屈になるだけで。もっと自由に、自分の好きに踊ればいいのにって思う。でもそれをステージの上から『お前たち、もっと自由に踊れ!』って言うのも違うから、誰よりも自分が自由でいるしかない」
コムアイ「自由に踊ってるほうが、喋っているより伝わっているときってありますよね。おしゃべり好きなんですけど、もっと軽くなりたい。『水曜日のカンパネラ』は、曲とか私の存在だけで勝手に、相手が持っていかれて自由に踊っちゃう、そんな存在になりたい」
コムアイ
1992年7月22日生まれ。神奈川県出身。高校生時代には、いくつかのNGOやNPOに関わり活発に動き回る。サルサダンスに魅了され、キューバへ旅し、同世代100人のチェキスナップとインタビューを敢行。その後は、畑の暮らしを体験したり、たまに海外へ。最近は、鹿の解体を習得中。作曲・編曲担当のケンモチヒデフミ、それ以外担当のDir.Fからなる音楽ユニット「水曜日のカンパネラ」の主演・歌唱を担当。2015年、「ヤフオク!」のテレビCMに出演し話題を集める。2016年6月、ワーナーミュージック・ジャパン・アトランティック・レコードからEP「UMA」をリリースしメジャーデビュー。2017年3月8日には初の東京・日本武道館公演「八角宇宙」を開催。6月から8月にかけて全国ツアー「IN THE BOX TOUR」を開催。この夏は、多数のフェスやイベントに出演した。
(※1)六ヶ所村ラプソディー
2004年、六ヶ所村に原発燃料からプルトニウムを取り出す再処理工場が完成した。この再処理工場周辺で暮らしている六ヶ所村の人々の葛藤にスポットを当てた鎌仲ひとみ監督によるドキュメンタリー映画。
(※2)再処理工場
各地の原子力発電所から使用済みの核燃料を集め、ウランやプルトニウムを取り出す工場。