後藤「僕の地元では、やっと小水力発電が始まりました。大井川はもともと水量があるので、落差が7mぐらいある場所にタービンを設置して、流域の農家1100世帯分の電気をまかなえるそうなんです。いろいろな取り組みが各地で少しずつ進んできているんですよね。」
國島「素晴らしいですね。私は、そこで各自治体が率先して取り組むことも大事ですが、国がもっと真剣に取り組んでほしいという気持ちもあるんです。本気で水力発電をやろうと思っても、タービンを設置しようとするとすぐに水利権がどうとか、制度上の問題が出てくる。大量に水が流れてるのに、なぜそれを有効に使えないんだ、なぜ水車をつけることが許されないんだっていう」
後藤「まず管轄の問題がありますもんね。一級河川は国、普通河川は地方とか」
國島「そうなんですよね。太陽光発電にしたって、同じような問題にぶち当たりますよ」
後藤「そうなんですか?」
國島「国の決まりで、〝農地にソーラーパネルを取り付ける場合、パネルの下の土地で、今までの8割くらいの収穫がある農作物を作ってください〟というのがあるんです。でも、日陰なのに8割の収穫って、いったい何を作ればいいのって話ですよね(笑)。国にはもう少しルール作りも頑張ってほしい」
後藤「農地をつぶしてメガソーラーを設置するとか本末転倒ですし。結局、みんなで一歩ずつ考え方を変えていくしかないんですね」
國島「みんなで考えれば、やはり新鮮な意見も出ますからね。さっき高山市には温泉もあると言いましたが、その温泉のお湯が川に流れ込んでいることに、今まで誰も違和感を持っていなかった。実はそれが、熱エネルギーが流れ出してるのと同じことだなんて誰も考えてなかったわけです。それに気づいた瞬間、〝もったいない! 何か活かす方法はないのか?〟って、頭をひねって考えるようになった。今でも冬場の融雪や暖房に使ってはいますけど、まだまだ膨大な量が川に流れ出している。そういった身の回りのことから、みんなで考えていきたいですね。〝高山には温泉がある、木質バイオマスがある。それで何ができるのか?〟ということを課題としては問いかけ続けようと思います」
後藤「今後の具体的な目標はありますか?」
國島「これまでは種まきの時期だったので、この4年間の任期で、ひとつでもふたつでも形に変えていきたいですね。すでに動き出していることもあって。ソーラーパネルを新しい学校の校舎につけたりするじゃないですか。それってだいたい校舎の入り口に〝現在○○キロワット発電しています〟みたいな表示を出して、教育の素材にしているだけで、実質的に使われてはいないんですね。高山市では、災害が起こったときの避難所が学校に指定されていることが多いので、昨年から10キロワットくらいのものですけど、学校に最低限の電力がまかなえるようなソーラーを取り付けようという取り組みを始めました。まあ、『エネルギー大作戦』は長期構想のプロジェクトなので、あせってはいけないでしょうけど」
後藤「発送電が分離される法案もようやく成立しましたしね。そうなってくると、自然エネルギーで収入を得る自治体も出てくるかもしれません。〝あの町は木質バイオマスで生計を立てているから、いい図書館がある。じゃあウチも〟とか、そんな町が出てくる可能性もありますね」
國島「そうですね。ただ発電というのは、川上から川下までが一体になってやらないと成立しない。木質バイオマスの施設があっても、材料が届かなければ燃やせないわけで。そういうところをトータルで考えないといけません」
後藤「林業農家から木工屋まで、意思が通ってないとダメだということですね」
國島「そういうことです。山の中の木を切るっていっても、まず切りにいくまでの道がないといけない。機械もいるし従事者もいる。そういうことを整備しないで、バイオマスだ、自然エネルギーだって掲げても、それはムリですから」
後藤「そうですね。岩手の林業家も、地元の端材をより有効活用するためにも、薪やペレットを燃やすボイラーがもう少し普及してくれないと厳しいなっていう話をしていました」
國島「整備できないまま進めて、木材が調達できないからって、外材を持って来て燃やさなきゃいけなくなったら、本末転倒なわけで。今でも木質バイオマスの施設自体のエネルギーは自給しようと思えばできるんです。でも、それは『点』の話であって『面』の話ではない。〝このエリアのエネルギーはすべて木質バイオマスでまかなわれています〟といったことを謳えるような仕組み作りがなくては、いずれ挫折するだけだっていうのは肝に銘じています」
後藤「やっぱり、何かを変えようと思ったら、時間がかかるんですよね」
國島「エネルギーと時間がかかります。このエネルギーは誰もくれないので、自給自足しないといけません(笑)。また手伝ってください」
後藤「もちろんです。今日、市長の話を聞いて腑に落ちたことがたくさんありました」
國島「今までは疑問に思うことすら、ほとんどなかったですからね。特に若者たちには、自分たちの意思を持って、それを発信してほしいですね。まだまだ現状が当たり前だと思っているというか。自分を取り巻くものが、何によって成り立っているのかというところまで踏み込んでほしいです。表面的に流れていってしまう若者が多い気がするので」
後藤「それは僕ら30代にも反省があります。僕らの世代って、極力ポリティカルなことには触れないように青春時代を過ごして、最近気づいた人だけが〝まずいぞ〟と思っている。でも、もっと普通に自分の意思を表明できるようにしようと思っている人は増えている気がします。」
國島「そのひとつとして、こういう新聞があることは素晴らしいと思います。ぜひ続けてくださいね。私も、市長でいる限り全力で取り組みを続けていきます」
國島芳明(くにしまみちひろ)
1951年生まれ、岐阜県高山市出身。愛知大学を卒業後、73年に高山市役所へ入庁。その後、市教育委員会で芸術・文化振興、文化財保護、地域振興の企画担当などを歴任する。2008年に高山副市長、10年に高山市長に就任。自然エネルギーの掘り起こしを通じて、まちおこしや地域経済の活性化を目指す『高山エネルギー大作戦』に取り組んでいる。14年8月、市長に再選され市制2期目をスタートさせた。