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自立した町を目指して

市民の意識を変えることから始める

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後藤「これまでの取り組みに対する、市民の皆さんの反応はどうですか?」

國島「僕が脱原発を宣言した当初よりも反対意見はなくなってきました。『エネルギー大作戦』といったフォーラムを継続的にやっているんですが、定員以上の方が集まってくれたり、NPOができたりもしています。そういう面での手応えはあります。ただ、最初にお話ししたように、何か具体的に作るという段階までは進んでいないんです。そこまで行くには、少なくとも市民の6、7割が賛同してくれなければ、何を作っても砂上の楼閣で、いつかは崩れていってしまうので。だからまずは人、ソフトを作っていくことに力を入れて、その次に自然エネルギーをうまく活用していろんなものを生み出していくような、ハード作りに取りかかれたらと思っています」

後藤「その話も個性的ですね。以前、自然エネルギーがブームになったときは、多くの町で風車を建てたりしていましたよね。実際は風が吹かなかったりして、計画が頓挫したという話も耳にしました。〝まず箱物を建てるところから始めよう〟っていう考えに行きがちなところで、市長の〝まず意識を変えなければいけない〟という考え方はすごく新鮮です」

國島「さっきの太陽光発電の例で言えば、なぜ家の屋根にソーラーパネルを取り付けるのかっていう意識の問題ですよね。もし市民全員に設置を義務づけたとしたら、形としては〝自然エネルギーを活用している市です〟と謳えるかもしれない。でも、住んでいる人の考え方、意識が変わらなければ意味がないし、続かないでしょう。それに子供たちは敏感だからわかるよね。親がお金のためにソーラーパネルを付けたのか、そうじゃないかっていうのは(笑)」

後藤「そうですよね。そこがまず大前提としてあって、次に具体的なプロセスに入っていく。多くの人にきっかけを作るためには、最初は補助金をあげたりっていう工夫が必要になってくるんでしょうけど」

國島「動機付けは必要ですからね」

捨てられる資源をどうやったら活かせるか

後藤「それと、個人的に最近すごく気になっているのが、世の中には捨てるものが多すぎるんじゃないかっていうことなんですね。太陽光も、川を流れる水も、木材の端材も全部そうだと思うんですが、とにかく捨て過ぎなんじゃないかって。それは現代的な大量生産、大量消費、大量破棄っていうところにも繋がっていきますけど、もうちょっと、もったいない部分を減らしていけないものかなって」

國島「現状、高山市にも捨ててしまっているものがあるんです。高山市は東京都とほぼ同じ広さなんですが、そのうち約92%ぐらいが森林で、4割が国有林、6割が民有林です。そのなかには間伐が必要な時期を迎えている森林も多くあるんですが、間伐しても、『捨て置き間伐』といって、端材を山から持ち出さないという状況になりがちなんです。それはなぜかといったら、持ち出してもお金にならないから。今では間伐材の6〜7割くらいが、山に放置されて腐っていっているんです」

後藤「岩手の林業家の方にも同じ話をうかがったことがあります。輸入材に価格で負けてお金にならないから木材が山に放置されるっていうのが現状なんですよね」

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國島「残念ながらそうですね。高山市の面積の約92%を占める森林ってすごい資源なんです。それを活用しない手はない。今取り組んでいるように、間伐材で箸を作ったり、家具を作るといったことも有効でしょう。そして、捨てられるものを活用して資源にするという考えのもと、まずはバイオマスに取り組んでいこうというのが、高山市としてのひとつ大きな目標になっているんです。熱利用にするのか、電気利用にするのか、肥料にするのか。そのほか、高山市には温泉もあるし、水量の多い川もある。そういうものをかけ合わせることだって可能だと思うんです」

後藤「それが実現したら、高山市オリジナルの取り組みになるはずですもんね」

國島「そのためにも、エネルギーにはどういうものがあって、どんな使い方ができるのか、みなさんと一緒に考えていかなきゃいけない。その土台をつくるのに3年かかりました。市長になったらなんでもすぐにできるかと思ったら、全然そんなことはないんですね(笑)」

後藤「まあ、そこはしょうがないというか、市長が変わる度に市政が変わりすぎるのも市民としては困りものですから(笑)。ゆっくりとした変化でもいいんじゃないかって思います。震災後によく考えたんですが、確かに国政もドラスティックに変わってほしい気持ちはあります。でも、バチッと切り替わったものは、状況が変わればすぐにバチッと戻ってしまう気もしていて。時間をかけて、ゆっくり変わっていうほうがいい面もあるんじゃないかと思うんです」

國島「そうですね」

後藤「ヨーロッパには、市役所や市議会や小さな町の役所へ行くと、エネルギーのトレーディングルームがあって、自分のところで作ったバイオマスのエネルギーをどこに売ったら一番高く売れるかっていう話を当たり前のようにしている町もあるそうです。ラディカルだなって。そうして町が自立していくと、市民が働く場所もできるんじゃないかなと思うんですよね」

國島「目標ですね、それは」

後藤「一度、東京に出た人でも、戻ってきてちゃんと生活できるような就職先があるっていうのはすごく希望になると思うし」

國島「そこは重要です。市長として考えることは、自立がまず基本的なテーマとしてあるけれど、そこで生活できないと意味がないんですよね。仕事もお金も食料も、生きていく糧というものを得られなければ、絶対に地域は存続しません。環境がよくて自立していたとしても、働く場所がない、生活の糧を得る手段もないというんでは、人が住む場所とは言えません。そのために、エネルギーの問題をきちんと地域振興に繋げていかなきゃいけない」

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國島芳明(くにしまみちひろ)

國島芳明(くにしまみちひろ)

1951年生まれ、岐阜県高山市出身。愛知大学を卒業後、73年に高山市役所へ入庁。その後、市教育委員会で芸術・文化振興、文化財保護、地域振興の企画担当などを歴任する。2008年に高山副市長、10年に高山市長に就任。自然エネルギーの掘り起こしを通じて、まちおこしや地域経済の活性化を目指す『高山エネルギー大作戦』に取り組んでいる。14年8月、市長に再選され市制2期目をスタートさせた。