80KIDZのメンバーとして2008年からの活動を経て、2010年よりDJとして独立。音楽の聴き方が多様化する現在だが、彼女が変わらず愛してやまないヴァイナルやその周りのカルチャーについて今、感じていることを語ってもらった。
MAYU 「レコードを買い始めた時って、人前でDJをしたいとも思っていなかったんですよ。女の子がレコードにハマるのって、だいたい付き合っている彼氏の影響だったりすると思いますけど、私もそうで(笑)。そのうち彼氏よりもハマっちゃって、ターンテーブルがもう一個欲しくなって、DJをやってみようと思ったんですね。80の3人が全員上京する前まだmixiとかが活発で、エレクトロシーンが登り詰めていく前にmix CDを作ろうとなって。そのころ私は広島のバーとかでDJをさせてもらえるようになってきました」
――世代的にはレコード世代ではないですよね。
MAYU 「CD、MD世代ですね」
後藤「MDって、音悪かったよね(笑)」
MAYU 「悪かったですねえ! MDが直で録音できる機能がコンポに付いていて、そうするとヘタでもミックス録音できたんですよ。それが嬉しくて。その頃は、KITSUNE(※1)なんて夢のような人たちだったのに、DJを始めて、どんどん夢がかなうような気がしたんですよ。こんな人たちにも出会えるんだ、こういうところにも行けるんだって。東京にいれば当たり前のように毎日パーティがありますけど、広島に住んでいると遠い感じがするんですよね。」
――レコードを買うことって、既に特別なことでしたよね。
MAYU 「そうですね。レコード、高いですしね。自宅に届くと、お母さんにすごく怒られるので、勤めていた会社に送ってもらっていました(笑)。娘がレコードをいっぱい買い出した! って心配だったと思います。20歳くらいからターンテーブル買い出して、何を始めたんだろう!?って」
――ご自分でも、一歩踏み込んだ感があったんじゃないですか?
MAYU 「CDじゃ満足いかなかったんだなって。DJやりたくても、CDJにしなかった。ジャケットが好きなのもあるし、コレクター気質なのかな? それにしては雑に扱っているんですが……(笑)、これはめっちゃ怒られるんですけどね。DJする前に、ないないない!って探したりするし」
後藤「並べていないんですか?」
MAYU 「(小声で)並べていないんですよ!(苦笑)。AからZにすると、アーティストごとじゃなくて、ジャケの感じとか、レーベルで覚えていたりするから。一軍、二軍っていう分け方です(笑)」
後藤「俺、AからZで並べているよ」
MAYU 「凄い!」
後藤「しかも、今はレコーディングの合間とかに、名前もAからZに分けてるの。Bだったら、BECKだけでもたくさんあるから」
MAYU 「それが一番いいんですよ。ゴッチさん、DJやればいいのに!」
後藤「何をかけたいのか、整理ができないから。CDだけで2000枚くらい持っているから、その中から、今日掛けたい曲を50曲とか選べない」
MAYU 「凄く贅沢な悩みですよ! 私なんか、ほしいものがあり過ぎて、何を削っていいかがわからないんです(笑)。レコード屋さんの入荷日はだいたい火曜日なので、ここでこれだけ買うと、次のレコード屋で買えないとか、毎週葛藤してます(笑)。しかも、ここ(代々木VILLAGE・Music Bar)(※2)でやることになって、明らかに買う枚数も増えちゃって。ここで聴いたら凄くいい音もあるし、それとまた三宿WEBとかのクラブで掛けたい曲は違うから」
――今ってどれくらいレコード持っているんですか?
MAYU 「今持っているのは、1000枚あるかないかかな? でも、居住スペース狭くなっちゃうし回転させてますよ。広島のステレオレコードが好きなので、そこに送って買い取ってもらったり。手放す奴は潔く! その作業も好きなんです。この子はいるな、とか。後悔することもあって、また買い直したりするんですけどね(笑)」
後藤「盤がお金になる文化はなくなっちゃっていますよね。レコードはともかく、CDなんてほとんど売れないでしょ?」
MAYU 「ああ、私、BOOKOFFに売りに行った時に、10円とか20円とかって言われて、行くんじゃなかったと思いました」
後藤「データはコンピューター上にタダで転がっているから、CDって売るものじゃなくなりましたよね」
――レコードはどうですか?
後藤「まだ売れるよね。レコードって、限定だったりするし」
――ちなみにMAYUさん、CDは買いますか?
MAYU 「最近また買うようになっていますね。CDしか出ないものもあるし。LPが出るまで我慢して待ったりもするんですけどね、最近はダウンロードコードが付いていたりするから」
――レコードもCDもダウンロードも利用しているんですね、DJでは?
MAYU 「9割5分以上はレコードです。CDJが逆に難しかったんですよね。ターンテーブルに慣れちゃってて。周りもレコードだったから、不思議じゃなかったのかな」
――DJをはじめてからの変化はありますか? ダウンロードが普通になったりしているじゃないですか。
MAYU 「私、フリーダウンロード先が見付けられなかったりするので。海外のフリーダウンロード先を探していると、エッチなサイトとかに飛んじゃったりして、諦めてiTuneで買ったりとか(笑)」
後藤「俺も、そういうの使ったことないからわからないなあ」
――じゃあ、やっぱりレコードが多くなりますよね。
MAYU 「重いんですけどね。でも、だからこそ自分にしかできない愛情のかけ方ができるっていうか。自分にはこっちの方が合っているんだろうなって。音の質もそうだし。パチパチいうのも好きなんですよね。ミックスとか録る時に、最初にパチパチいう感じが。あとは、ピクチャー盤とか扱いづらいけど可愛いんですよね。ただ、クラブでは、暗いから曲のはじまりが見えなくて使いづらいけど。透明のヴァイナルとかね」
後藤「溝が見づらいんだ。へえー!」
――いろんなフォーマットが出ている世の中になったことに対しては、どう思いますか?
MAYU 「最近、シーンが活性化するならいいなと思って、パソコンに繋げるコントローラーと、パソコンの音源だけでできるDJ機材の会社とWEB媒体の企画で、モデルの子にDJを教えたことがあるんです。その子たちの中には、iTunesがパソコンに入っていない子もいたし、どうやって音楽を買うかわからないという子までいたんですね。そこからどうやって教えたらいいのか考えて。一曲好きな曲を教えてって言って、YouTubeで検索して、そうすると関連の動画が出てくるから、そこから曲をセレクトすればいいんじゃないかなって。本当に音楽やクラブに興味がない人っているんだなって。自分の周りには、好きな人しかいないから。私はヴァイナルのDJだからこの企画に参加するのを迷いましたが、やってみて、それで音楽やクラブが好きになった子もいるならば、MP3もダウンロードも関係ないかなと気付きました」
――入口さえも見つかっていない人がいるんですね。
MAYU 「それが本当にびっくりしたんですよ。だから、そもそもDJって何!?みたいなものからはじまって」
――クラブで見ていて、年齢層についてはどうですか?
MAYU 「私が不定期でやっている三宿WEB(※3)のイベントは、年齢層が高いですね。20代後半から30代の方がいろんなものを通過して楽しんでいる感じ。ただ、AIR(※4)とか大きなクラブでは、若い子は多いと思います。自分が音楽を聴いていると、周りも好きな子がいるのが当たり前だと思っていたけれど、離れてみると“何を買ったらいいかわからない、CDで曲を知って買う”とかっていう子ばっかりで。もっと掘っていったらおもしろいよって言うのは伝えていきたいですね」
――形に愛情を持つと、突っ込んで好きになれるっていうのもあるかもしれないですよね。データだと愛しようがない、というか。
MAYU 「うん、レコード可愛い!みたいな文化ができたら、ブワーって広がっていくと思うんですけどね。レコ屋の袋を持っているのが可愛いとか。ちょっと昔はそうだったじゃないですか」
後藤「レコードを買いにいくのがオシャレとかね」
MAYU 「そうそうそう(笑)。今も私はそういう感覚を持っていますね。原宿のBIG LOVE(※5)ってレコード屋さんが好きで、ときどきしか行けていないんですけど、冒険するような買い方ができるんです。ショッパー(買い物袋)もかわいいし。絶対に試聴ができないから、調べずに行って、オーナーの仲さんのレコメンドだけを見て買ったり、ジャケ買いしたり。それで、これはまだ理解できないって思っても、半年後に聴いたらカッコいいって思えることも多々あって。そういうのが、自分が新鮮にDJをしたりレコードを買うときに必要なんだと思います」
――知っているのばっかり買わない、というか。
MAYU 「そうそう。お客さんに、これ何?って言われるのも好きで。ジャケの写真を撮って、買おうって言ってくれたり」
後藤「俺、そういうのが気になると、すぐにDJに聞きに行っちゃう」
MAYU 「私も!」
――ネットで調べられない曲もありますからね。
MAYU 「そう、だからShazam(※6)ができた時に、かざしただけでわかるってどういうこと!?って思って」
後藤「どういう機能なんだろうね。俺も、これ誰の曲だろう?なんて言ってると、マネージャーがさっとShazamで調べて教えてくれたりして」
MAYU 「私は負けず嫌いなことがあるので、クラブでは出したくないんですけど、ポケットの中で起動させたりとか(笑)」
後藤「俺は聞いちゃうなあ。あと、全アルバムを持っていないバンドのライヴに行って、知らないめちゃめちゃいい曲があったりすると、後でセットリストを調べて買うとかね。俺、まだアナログだなあ」
MAYU 「DFA(※7)という私が大好きなレーベルのジェームズ・マーフィーとユアン・マクリーンと共演した時、彼らは海外から凄い量のレコードを持ってきていて。ユアンは私がサウンドチェックしている時に隣に来てくれて、『女の子でレコード使ってDJをしているのは珍しいね』と言われ、『Vinyl is all, Keep play vinyl!』って!それにグッと来て、ずっとレコードでやろう!と思いました。憧れの人がそうやって突き進んでいることがカッコいいと思って」
後藤「ジェームスの部屋がカッコいいんだよね!」
MAYU 「HUgEで特集されていましたよね!」
後藤「レコードの反りを直す機械とかがあって」
MAYU 「私もあれ、欲しいなって」
後藤「高いんじゃない?」
――未だに憧れの人を追い掛けているところも、大きいんでしょうね。
MAYU 「はい。来日する時は見たいし、あわよくば共演したい。頑張っていればできるかなって」
MAYU(まゆ)
広島出身。80kidzのメンバーとして2009 年まで活動。脱退後DJとして活動を続ける。 こよなくVINYLを愛しINDIE ROCK, HOUSE,DISCOを繋ぐ、 TOKYO INDIE ROCKシーンの重要DJの一人。都内を中心に様々なイベント・パーティーに出演。11年に三宿WEBにて m.y.k.&monkeytimersと"SISTER SISTER"をスタートさせた。また2012年秋より代々木ビレッジにて隔週ミュージックセレクターを担当。これまでJAMES MURPHY,RITON等国内外のアーティストと共演し、ピュアな感性と常に先を行くプレイでフロアからの支持も確実に得ている。
■注釈
(※1)KITSUNE
2002年に設立されたフランス・パリのインディペンデントレコードレーベル。音楽だけでなくファッション、アートなど様々な活動を行うクリエイター集団。日本でもショップを展開している。
(※2)代々木VILLAGE・Music Bar
音楽プロデューサーの小林武史氏が率いるkurkkuプロデュースの商業施設、代々木VILLAGE。この中にあるMusic Barでは最高峰のサウンドシステムで小林武史氏や大沢伸一氏によってセレクトされた5000枚を超えるレコードコレクションや、ミュージックセレクターによって選曲された音楽が楽しめる。
(※3)三宿WEB
1994年オープンの東京・三宿にあるクラブ。MAYU自身も多くのイベントを開催している。
(※4)AIR
2001年オープンの東京・代官山にあるクラブで、世界中のトップDJが集まる場所として有名。
(※5)BIG LOVE
BIG LOVE:東京・原宿のインディペンデント・レコードショップ。2002年にオープンした『ESCALATOR』を母体とし、2008年からはレーベル『BIG LOVE』もスタート。2010年に店名も『BIG LOVE』となり、主にアメリカ、イギリス、そしてヨーロッパのインディペンデント・ミュージックをセレクトしている。
(※6)Shazam
Shazam Entertainment Ltd.が開発している音声検索アプリケーション。スマートフォンにインストールし、マイクに向かって歌ったり、スピーカーに近づけることで、楽曲を検索できる。
(※7)DFA
2001年にアメリカ・ニューヨークで設立されたインディペンデント・レーベル。2000年代のダンス・ミュージックシーンに多大な影響を与えた。