東日本大震災。津波によって甚大な被害を受けた岩手県の沿岸部。木造仮説住宅というかたちで、いち早く被災地支援に乗り出した山間の町と森林保全団体more treesのユニークな活動。復興支援だけにとどまらず、これからの地方産業のあり方や低炭素社会へのヒントになる循環型の林業を目指す住田町の取組み。町の現在と将来像を住田町町長、多田欣一さんに訊いた。
—まず、震災が起きてから仮設住宅を建て始めるまでの流れを教えてください
町長「もともと去年から仮設住宅を作る計画を進めていたので、震災の4日後、住宅産業や木工団地の人たちに “やるべ” と話をしました。私は構想を温めず思いついたら話しますから、この話をしたときには、みんなわかっていたと思います。住田の一番の特徴は、木材の搬出から製材、集成材を作ってプレカットし、工務店に渡るまでがひとつの団地のなかにあることです。町の意見がスムーズに通る、悪く言えば町のわがままが通るところですので、それいけといえば一連の流れができるんです。本来、仮設住宅を建てる場合は県の発注を受け、設計や入札、議会の議決などさまざまな手順があるんです。でも今回はそれらを全部無視して、町長の権限でできる『専決』というのをやりました。私の意思で契約できる、議会にかけないやり方です。でなければスピードをもってやれなかったでしょうね」
—議会のみなさんの反応はどうだったんですか?
町長「震災の10日後くらいに、議員全員集めて話をしました。議会の人たちは “町長やってくれ” と。ただしやるからには、住田は出し惜しみしたと言われないように、よくやってくれたと思われるようにやってくれというのが議会の総意でした」
—心強い言葉ですね。町独自の判断で行動されて、時期が早すぎたために補助金が下りず、建設費用も町で負担されているということですが
町長「そうですね。このような流れで、5月末までには93棟が完成しました。なぜ住田はそんなに早く対応したのかと言われますが、それは被災地に近いからです。陸前高田まで車で30分の距離ですから、避難所で過ごす知り合いもいっぱいいて、なんとかしなければという思いになるわけです。むしろ、水谷さん(more trees事務局長)は現場から遠いのに、なんて早いんだとびっくりしました。住田が木造で仮設を建てると聞いて、3月末には来ましたからね。水谷さんの後も、いろいろな団体に来ていただいて、力強く感じたんですよ」
—木造の仮設住宅への反響はいかがですか?
町長「新聞や雑誌など次から次と取材が来て、いろいろなところに講演にもいっています。ただ、日本はもともと木の国だから、仮設住宅も木で作って当たり前なんですよね。むしろ報道関係の人がこれだけ騒ぐのが不思議です。でもおかげさまで仮設住宅も地元の工務店で作れるんじゃないかと、国や県が気づいてくれました。地元で作れば経済も回せ、それだけ復興にお金が回っていく。私はうまい方向に回ってくれたと思っているんです」
—なるほど
町長「震災以前から私は、100棟、200棟分の仮設住宅の材料をこの町にストックしたいと構想していたんです。そういう場所を全国に10カ所程作り、災害時にはいちばん近いところから送ればいいんですよ。木造の仮設住宅が、住田の専売特許というつもりはない。日本各地どこでも森があるんだから、有事の際は地元の木材と職人さんで作ったらいい。すでに問い合わせがあった方々には、図面を送りました。海外も含め、かなりの数でしたよ。私が口だけで話していたことが、現実として前に進んでいきそうな気がします」
—ストックの話ですが、木材だから反ったり腐ったりして難しいと聞いたんですけど
町長「やり方次第ですね。木は生き物ですから伸びたり縮んだりというのは当然で、それも考えて作らないといけない。住田では、柱と柱の間に板を落とし込む“落とし込み工法”をアレンジして仮設住宅を作りました。断熱材を板で挟んでパネルにしたんですが、このやり方ではストックが難しいと思うんです。私が考えているのは、一枚ずつ板を落としていって、間に断熱材を入れるという方法。板とパネルを別々に保管すればいいと思うんです。板としてストックしておくだけなら、反ったとしても、柱の溝をそれなりの太さにしておけばできると思います。仮設住宅は2年もてばいいと思うんですが、今回住田で作ったものだと10年経ってもびくともしない。職人としてはしっかり作りたいという気持ちがあるようですが、仮設が10年ももつと住宅産業がつぶれてしまいますよね」
—入居している方も仮設住宅が気に入っていて、持って帰りたいと言っていました。実際仮設住宅を自分のものにしてもいいんですか?
町長「建てる段階から、終わったら譲ってくれという人がいっぱいいるんです。30m2ですので、建築確認がいらない。どこに建てても許可がいらないんです。しかし町の財産なんだから、タダで譲るわけにはいかないという意見もある。でも解体費が20〜30万かかるでしょう。私はその解体費がかからない分、譲ったほうが得だとも思うんですが」