後藤「30代前半で、社会全体に深い興味を持っている人まだそう多くはいないと思いますが、どうしてソーシャルデザインに興味を持たれたんですか?」
兼松「僕は1979年生まれなんですけど、いわゆるロストジェネレーションらしいです(笑)。夢のあるアラサーがそもそもあまりいないと言われているなかで、色々やりたいことがあったけど、自分に言い訳して企業戦士になっていく人、人生をエンジョイできてない人が多いのかなとも。それって僕らしくないと思ったのは、ウェブデザイナーをしていたときに、大企業のサイトを作ることが多かったんですが、病気になってしまって。大きなものに巻き込まれて、部品みたいになっていたんですよね。ふと“自分に子どもができたときにこの仕事誇れるかな”と考えて“これはないな”と思った。座右の銘ってあるじゃないですか。最近いいなぁと思うのは“座右の問い” なんですよ」
後藤「“座右の問い”ですか。面白い言葉ですね」
兼松「自分を見失いそうな忙しいときに、自分に問うことで、素直な自分を思い出せる。僕でいうと“この仕事って子どもに誇れるかなぁ”っていうのが“座右の問い”なんですよね。で、その頃に担当したNPOのウェブサイトの仕事の場合は、打ち合わせから提案まで全部自分でできて、僕にはそれが快感だった。自分のデザインを見てNPOに参加してくれる人が増えたら自分のデザインが役にたった気がして、嬉しかったんですよ。今もそのモチベーションは変わってない。自分のためになるだけでなく社会にもなにか貢献できるようなテーマが何かしら関わってないと、楽しくないという風に考え方が変わったんですよね」
後藤「社会に関わることに喜びがあったんでしょうね」
兼松「そうですね。振り返ると、社会的な課題ってよくいわれるような環境問題だけでなく“自分の結婚式を素敵にしたい”とか“もっと気軽にありがとうを伝えたい”とか、身近なことでもいえると思うんですよ。きっかけは“自分ごと”だけど、多くの人が共感できるテーマってあるんです。マスメディアが取り上げるから“やらなきゃ!”となるのではなく、自分から解決したいと思える課題の多様性が大事」
後藤「そうですね」
兼松「そして、どんな課題に立ち向かうかのプライオリティは自分で決めるべきですよね。例えば“自分の結婚式を素敵にしたい”というテーマに関していえば、アウトドアでのウエディングが増えているんです。奥多摩でアウトドアウエディングを挙げる人が増えて、実際そこからビジネスも生まれていて、すごくいいなぁと思います。ユニフォームプロジェクトという事例もある」
後藤「それはどういう話ですか?興味あります」
兼松「インド系アメリカ人の女の子が1種類だけの制服を着て、365日いろんなアレンジで着まわしをするんです。インドに小学校が全然足りてないからと始めて、1年で1千万円も集まったんですよ。このプロジェクトを素敵だと思った全世界の女性に火がついて、個人で始めたことがインターネットに乗って世界中に広まった。今まではネットで悪い噂が広まることが多かったけれど、フェイスブックのような“いいもの”も広がるインフラが整ったんですよね。自分ごとが世界を変えるか変えないかというと、身近な世界は確実に変えられる、大きな世界は気付いたら変わっている。変えるんじゃなく変わってるというほうが態度として気が楽。“周りの人がまねしてくれたら嬉しい”って思ってくれるかどうか、オープンに“真似してよ”っていえるかどうかが大きい気がしますね」
後藤「貨幣価値では計れないところに、本当の価値があるんでしょうね」
兼松「僕にとって初めのNPOとの接点は、大学時代。『広告』というすごくファンキーな雑誌があって、“こんな世の中が可能なんだ”ということをデザインで見せてくれて、かっこよかった。そのプロジェクトのなかで、スカベンジャーというFINAL HOMEというブランドの服を着て、HIPHOPが流れるラジオを担いでゴミ拾いをするというイベントがあったんです。渋谷でゴミを探して拾っていたら、街の景色が変わって見えた。ゴミがいっぱい落ちているなぁ、渋谷のことを全然見てなかったなぁと思って、渋谷を見る解像度が全然変わりました。そのときNPOの人達と仲良くなって、多くの野菜は農薬漬けらしいとか、丁寧に育てたオーガニック野菜というものがあるらしいとか、知らなかったことをたくさん知ったんです」
後藤「なるほど」
兼松「ネガティブなニュースばかりで“自分には何もできない”みたいな虚無感があったりもしたんですが、NPOで活動するポジティブな人の話を聞くと“ちゃんと考えて行動している人もいるじゃん”て思った。地道に頑張る人達と触れ合ったときに、僕はこっち側の人間だなと思ったんですよ。とりあえず“思考停止”をやめるっていうのは大事なことだと思います。僕は東京の“のせられている感じ”に、ずっと違和感があった。雑誌に載っていれば、本当に自分がそうしたいかどうか自問しないまま、思考停止のままいろんなことを言っていたり、いろんな音楽を聞いたりなど、流される人が多いような気がします。かつての自分も含めて」
後藤「兼松さんがこれからやりたいことは?」
兼松「今までの人生を振り返って人生のグラフを描いてみると、初めて上を向いているのが実は今なんです。この先は50代になったら小説書いて、60代は俳優がやりたくて、70代は歌手になりたい(笑)。そんなことも含めて、いろいろやりたいこと、見てみたい景色とかはあるんですけど、とりあえず今はグリーンズをスケールさせることですね。ソーシャルデザインを紐解いていくと、プロジェクト、コミュニティ、メディアという3つの要素がある。“自分ごと”から始まった“マイプロジェクト”も続けていくには“マイコミュニティ”を育てることが大事だし、広げていくには“マイメディア”が必要。ウェブマガジンとして始まったグリーンズの次のステージは、それらをかたちにするための場を作ることかなと、考えています。あとは僕自身、東京以外のどこかに引っ越そうかなと考えていたりもします。いろんな場所に住んで、そこに住む人が本当に必要とするアイデアをちゃんと紹介できるメディアになりたいなぁと思います」
後藤「“地方分散”は現代のテーマですよね」
兼松「例えばどこかの地方に、後藤さんみたいなおもしろいミュージシャンが3組引っ越したら、ついていく人達がきっといるはず。おもしろい人がおもしろい人を呼んで、どんどんコミュニティが育っていく。僕も仲間5人くらいと同じ場所に引っ越して、おもしろいシェアオフィスでもやったら、もしかしたら乗っかってくれる人もいるかなぁ、と妄想しています。おもしろい才能が全国に散らばって、日本各地で未来をつくるソーシャルデザインが起こっていくはすです。そんなたくさんの小さな芽をグリーンズで応援していきたいと思います」