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細美武士(視線と未来)

後退も意思を持って進むなら進歩

細美「じゃあ、たとえば、『音楽と未来』っていうことにしようか。それに対しては明確にビジョンがあって。文化だけど、文化って何なの? みたいな。最近、文化ってあんまり聞かなくなったと思ってさ。それがめっちゃ勿体ないなって。文化って、社会がどういう状況にあるのか指し示すと思うけど、音楽が明らかに文化的側面を完全に失って、産業的な社会になっているとすると、人の気持ちがお金に向いているっていうことだよね。そこに対するアンチテーゼって、俺はあってしかるべきだと思う。青臭いかもしれないけど。音楽は文化であって産業ではないと思っているから。もちろん産業的な側面ってどうしてもあるのかもしれないけど、その文化を作っている感覚が聴き手にも作り手にも欲しいなって。音楽文化の最大の人口はリスナーだから、作り手じゃなく。リスナーが産業の方に行ってしまえば、アーティストは対抗の仕様がなくなるというか」

――それは、わかりやすい話ですね。 

細美「ただ、自分達が面白いと思う音楽を作って、録りたいように録って、これが普通だろうと思ったものが、周りから浮く感じがあるね。でも、もっとガチンコで、アンチテーゼに塗れてやっている人もいるわけじゃない? そういう人からすると、お前らなんか音楽じゃねえよって言われることもあると思うけど、自分は2011年の日本の音楽文化の末端にいたいなって気持ちはすごくあるよ。文化的に豊かな社会は素晴らしいと俺は思う。文化は実りだから」

後藤「今の音楽にもね、社会が潔癖で真四角なものを求めるっていうところもあるよね。J-POPがどうしてピッチを直し、リズムを真四角に揃えて、人間味を殺すのか。そこに逆行しようっていう流れは、今の心あるミュージシャンたちは、みんなどっかに持っている。そういうのは伝わってると思うよ。どうしてこの人は、その体だけでいろんなところに行くのか、そうしてそういう肉体性のある音楽を作り続けるのかは、意識しているかしていないかはわからないけれど、繋がっていると僕は見ていて思う」

細美「正直、こうなったらいいなって思い描く未来に向かうために、何かをやっていこうっていうわけじゃないんだけど、未来ってみんなの総意で決まるものだから。だけど、俺はこうなった方がみんなに笑顔が増えるんじゃないかっていう考えはあって。特に東京に住んでると受動的な活動がほとんどを占めている気がするんですよね。たとえばテレビが生み出した新しい企画を見ていると、新しいことをやったような気がするけど、結局は自分自身が何かを生み出しているわけではないじゃないですか。Facebookやtwitterも、みんなの願望があってできたんじゃなくて、発明した人からレセプターとなる人達がドバッと受け取るから、今みたいな状況ができたわけで。だけどそれだけじゃなくて、受け取ったものを工夫して、毎日を面白くする考えにシフトしていったほうがいいと思うんです。料理でも、レシピと食材教えられて、完成形の写真を見て、その通りに作れば美味しいかもしれないけど、ここをこう変えるのもありじゃないかなって作れば面白いじゃないですか。パソコンを開いてネットに繋げば、昨日とは違う文言が踊っているし、それはそれで飽きないでいられるかもしれないけど、本屋に行って背表紙でピンときたものを買ってくるだけでも、一日はずいぶん変わるし、そういう面白さが溢れていくといいなあと思いますね」

後藤「退屈のしのぎ方が変わったんだね、昔と」

細美「そういうことだと思う」

後藤「昔は、退屈は探さなきゃしのげなかったもんね。俺も、死ぬほど退屈だったから音楽をはじめたところは、あるかもしれない」

細美「別に総意としてそっちへ進むならしょうがないけど、俺はどんどん、やったことないことに行く方が全然面白くて。発明って進歩のイメージがあるけど、俺は後退も意思を持って進むなら進歩だと思うので、ここまできちゃったけど、ここはつまらないから帰ろうって、ぐるっと向きを変えて進むことも前進だから。俺はいらないものはいらないと思っているし」

後藤「そうだよね。経済成長だけが本当に進歩かっていったら、いよいよわからなくなってきているしね」

細美「いらないものはいらないし、360°何処にでも前進できるぜっていうフレキシビリティは本来あるべき。行きすぎたら戻ることに、早いも遅いもないじゃない?」

後藤「いい言葉だね。360°何処に進んでも意思があれば前進できるっていうのは」

細美「何に対しても受け入れられるようなオープンさはあった方がいいんじゃないかな。あとは、最後付け加えるとすれば、ポジティブなイメージがない社会がポジティブになることはあり得なくて、現実はどうであれ、最後の最後までポップな気持ちを持っていないと、当然上手くいかないというか。ストイックになり過ぎるとよくないこともあると思うので、それでも、結局人間の作る未来なわけでしょ。10年後はこうだよなって、みんなが明るいイメージを持てれば絶対に未来はそうなるし、こういきたいけどならないよなって思っていれば絶対にならないし。まずは自分から、前に転がるイメージを持った方がいいというか。俺の場合はさっき言ったように、みんな受動的な活動に飽きはじめて、何か変わったことを……例えばさ、テレビひとつだって、きっとやったことがある人がいると思うけど、壁に半分くらい隠して見ると面白かったりして。ちらちら見えているのはカメレオンぽく見えてるけど、実はイグアナかもしれんぞ? とか」

後藤「それは、やったことないよ(笑)。面白いね、それ」

細美「そういうことも全然できるし。何でも遊ぼうと思えば実は遊べるじゃんか。子供だったら簡単に思い付くようなこととかさ。結構面白いんだよ、そういうの。つまんないなって思った時に、誰かが作った新しいものを探そうとするよりは、遊び方を変えてみようっていう方向になっていったらいいな、なるんじゃねえのって、そういうほんわかとあたたかい気持ちは、みんなが持っていないと、自らそうじゃない方にいってしまうよっていう。これ、実際そうなんだけど、バイクで走ってて、曲がりきれるかわからない速度でコーナーに侵入した時って、レーサーって出口しか見ないのね。何故かっていうと、出口を見ている時は、無意識に全身がそっちに行こうと頑張るから。でも、転ぶかもって縁石を見ると、本当に転ぶんだよ。だから、曲がれるか曲がれないかわからないコーナーを進んでいる自分たちとしては、出口を必死で見ないとダメなんだよね。ゲームでボスと何回戦っても勝てなかったのに、一回勝てたら、次から簡単に勝てたりするじゃない? イメージが変わるんだよね。それと同じで、この国はよくなるって思えていれば、きっとよくなるし、ならないと思っていたらならない。だから、行きたいほうをちゃんと見たほうがいいんじゃないかな。見ていないところに行けるはずがないから」

(2012.2.8)
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兼松佳宏

細美武士(ほそみ・たけし)

唯一無二の存在感を放つミュージシャン。2008年9月ELLEGARDEN活動休止後、the HIATUSを始動。ボーカル&ギターとして、全ての詞、メロディも手掛ける。09年5月、1stアルバム『Trash We'd Love』をリリース。11年11月23日、3rdアルバム『A World Of Pandemonium』を発表。11月24日から全国ツアー『A World Of Pandemonium Tour 2011-2012』を展開している。