東日本大震災という大きな出来事を経験した私達は、これからどんな“未来”を作っていけるのでしょうか。「THE FUTURE TIMES」では、これから時間をかけて、様々な人の声を紹介していきます。それぞれ手がけるフィールドは違っても、同じ時代に生まれた同じ世代では、通じ合うものがある――一貫したDIY精神で活動するミュージシャンの細美武士さんに、彼が思い描く未来とそこに向かう姿勢について編集長の後藤正文を交えて語っていただきました。
――今日は未来について語って頂きたいのですが。
細美「……ないものだからね、未来って。過去はあったし、現在もあるでしょ。性質が違うと思うんですよ。だから、あんまり……未来って言っても、5年後や10年後と2000年後って違うし、本当に凄い未来のことを考えれば、宇宙すらなくなってしまうじゃない?」
後藤「今回のインタビューの視野としては、10年後くらい。若い子たちの未来を考える視点を持ちましょうっていう」
細美「そっか……たまたまね、一昨日、母校で弾き語りライブだったんですよ。その子達からは、俺がその大学の学生で、学食で食べたり、コンビニでバイトしてたり、そういう姿って想像できないじゃないですか。知った時には雑誌に載っていたりしていたと思うし。でも、実はそこにいたわけで。だから、一昨日のライブを見ていた学生の何人かも、後々母校に帰って、後輩に何かを話したりするような立ち位置になったりするかもしれないですよね。10年後にポイントを当てて考えれば、今18歳の人は28歳になるわけで、25歳の人は35歳になるわけでしょ。今の25歳くらいの人たちが共通して持っている価値観が、10年後の未来の常識になるんですよね。俺らが25歳くらいに思っていた感覚は、今の常識の真ん中にあって、それは上の世代とはちょっと違う。そうやって常識が変わっていく中で、どういう感覚を世代で共有できるかは、物凄く大きいと思うんですよ。だから、めっちゃ合理的な考えを持った人が25歳くらいにガーッと集まっているとすれば、きっと合理的な社会になるし、だんだん誰しも古くなって排斥されていくわけでしょ。その流れは変えられないわけで、そういう意味では10年後の未来を何か変えようと思った時に、今の社会で重要な役割をしている人の感覚を変えても無駄っていう感覚が、俺にはあるんですよ。そうじゃなくて、10年後に担い手になる人たちに、今は世の中こうだけど染まっちゃだめだよ、これが10年後も続いていると思ったら大間違い、君達の出番がやってくるんだってことを、できれば俺は音楽で伝えていきたい。そのために音楽をやっているわけじゃないけど、自分のやってきたことを振り返ると、そこにポイントは置いているのかなっていう気がしてるんですね……これは前置きね」
後藤「今、自分達の世代に漂っている空気に触れずに話が進んだんだけど、それはどういうふうに分析しているのかな?」
細美「何だろうな…凄く偏屈な人が多い。ミュージシャンの知り合いばっかりだからかもしれないけど……ちょっと上の世代の人って、長いものに巻かれることができるっていうか、清濁合わせ飲めるというか、目的を成し遂げるために引っ掛かる手段も受け入れる強引さを持っているけど、我々の世代はむしろ手段の方が大事というか、そんなイメージがある」
後藤「音楽だけやっていればよかった幸せを享受してきたよね、世代としては。社会にコミットしなくても、音像だけでパンクたりえた時代が結構長く続いた気がするんだけど、震災の後で、ぱっと見てみたら本当にパンクな人達しか動いてなかったっていうのは感じる。この人達違うなっていう人しか残らなかったっていうか。俺の視点ではね」
細美「トンがってた奴って、正しいこと言うから弾き出されるっていうパターンもあるからね。ただ、世代で括れるのか? っていうところもあって、例えば高校で周りがみんなそうだったのかっていうとそうじゃなくて、俺はすごい浮いてたし、同じクラスの奴らに対しても反発心があったから。いつの世もほんとうに正しいことを言うとマジョリティに組み入れてもらえないっていう瞬間はあるんだよね」
後藤「うん。ずっと、オルタナティブな人たちを、オルタナティブ以前の言葉で社会が弾いてた感じがするんだけど、今度は震災があって、そういうオルタナティブな人達がどっと真ん中にずれたと思うんだよね。呼ばれ方だけが変わった気がする。その人達は別に変わっていないんだけど、世の中だけが動いている。結局、ブレていない人が真ん中で活躍しているように見える」
細美「なるほどね。でも結局震災が起きてからだって、ただ自分の、その日過ごしたいなっていうことをやってるだけなんだよ。当初は何やりました、って一切ブログにも書かなかったし、それは絡める必要ないと思ってたんだけど、現地に行けば行くほど、もっと伝えて欲しいとか、現状はどうなのか、みんなが震災があったことを忘れないようにして欲しいって言われて。それでできることはあるかもしれないって話し始めたんだよね。だから、そのへんはあんま考えなしにやってるんですよね。ゴッチはすごく地に足が付いてるなっていうか、積んできたものにさらに積んでいっている感じはするけれど、俺はよくわかんないな(苦笑)」
後藤「細美くんの被災地支援は一貫しているように感じるけどね。何処までもDIYというか、身ひとつで行くんだこの人っていう。それは見ていて感銘を受けるところだけどね」
細美「でも、そこに美学があるわけでもなく、ぶっちゃけて言えば考えなしで、明日休みだな、今一番やりたいことは何だろう、ボランティアだ、みたいな。で、チャリティのこと何も知らないな、じゃあ勉強しなきゃって。それだけかな。あんまり、正しい間違っているの判断はないというか。活動家的な感覚は全然自分にはないから。特に俺らみたいなツアーをやるミュージシャンっていうのは、行ったことない県がないでしょ? そういう県の状況がテレビに映るたびに、すぐ近くでやったライブのこととか思い浮かべるし、そのライブの時に客席のみんなと交わした言葉とかも思い出すから、単純にあの中にいた奴で困っている奴がいるよなっていう感覚で」
――未来と言うより、むしろ今のために行動しているというか。
細美「うん……そうかな、未来って難しいな。俺の大事な考え方としてあるのは、結果にあまり興味がないっていうか。結果っていうのはさ、ある手前の時点から、そこに至るまでにどうしようっていう旗を立てるから、その時点を通り過ぎた時に、その結果がどうだったって考えるわけで……たとえば、テニスプレイヤーだったとして、この大会で何位までに達したいっていう思いがあれば、その大会の結果が自分の結果になる、その順位まで行けなかったからダメだってなるけど、一生テニスをやりますっていう人だったら、それも過程でしかないっていう。結局はずーっと続いていくことなので、結果を考えると、物事に縛られてしまうから、あんまり好きじゃないというか。回りくどい言い方をするなら、未来をよくしたいと思うなら、あまり未来にポイントを置かない方がいいんじゃないのっていう。10年後いい未来にするために9年間苦しむのは、ちょっと意味がわかんない。10年後をいい未来にするなら、今日はどう過ごすべきかっていう」
――なるほどね。
細美「ただ俺が思うのは、所謂倫理感とか道徳観とか、みんなが常識と呼ぶものとか、あと普通はこうでしょうって言うものが大っ嫌いだから、それを一回みんな忘れてもいいんじゃないの? っていう気はしていて。みんな違う魂を持って生まれてきているのに、それをなるべく平均化しようとして、本当の意味での倫理や道徳とかけ離れたところでの、空気を読むとか、そういうことでどんどんがんじがらめになっていって、みんな魂は違うのに行動は同じになっていくっていう、それは俺が今の社会でわかんねえなって思うところで。波風を立てないでいられる集団が100点満点かっていうと、俺はわからないんですよね。人と対立することも嫌いじゃないし、俺みたいなのはそういう生き方をしていてもいいんじゃないのっていう割り切り方が既にあるので。逆に、他の人に対して、こういう考え方は止めようよって言う気がないんです。だから、思っていることが誌面に載っちゃって、まるでそれが自分のメッセージかのように飛んで行くことが、俺はあんま好きじゃないので。俺は変わっているよ、でも、それでいいと思って生きています。でいい。それを見た人が、その人なりに、俺も変わってるしなって思うなら、それはそれでいいんだけど。まわりに合わせるのが楽だって人もいるから。ただ、自分の心と対話しない人は、見ているとよくわかんなくなってくるっていうか。本当にやりたいのはどっちなの!?っていう。俺のインタヴューは誌面にしづらいと思うんだけど……」
――大丈夫ですよ。
細美「常々思うのは、頭の中でどれだけいいことを考えていようと、頭の中がどれだけ悪人であろうと、その人を決定するのは行動だから、そこはブレずにいきたいと思うんですよね。結局、知らねえよあんな奴らのことって思いながら、しょうがねえなって助けちゃう奴もいるし、頭の中では常にみんなのことを大事に思っているけど、いざとなったら逃げちゃう奴もいるし、結局その人を決定するのは行動であって、その間に何を考えていたかは重要じゃないっていうか、残らない感じはしているんですよ。だから、自分の頭の中を覗き込んで、何て俺はダメな人間なんだ、みたいな考えは要らないと思う……『○○と未来』難しくなってきたぞ(笑)」
後藤「確かに、大文字過ぎるよね、『未来』って。漠然とした言葉だし。いや、お前の新聞だろって言われればそれまでなんだけどさ(笑)」
細美武士(ほそみ・たけし)
唯一無二の存在感を放つミュージシャン。2008年9月ELLEGARDEN活動休止後、the HIATUSを始動。ボーカル&ギターとして、全ての詞、メロディも手掛ける。09年5月、1stアルバム『Trash We'd Love』をリリース。11年11月23日、3rdアルバム『A World Of Pandemonium』を発表。11月24日から全国ツアー『A World Of Pandemonium Tour 2011-2012』を展開している。