後藤「なんというか…、難しいんですよね、応援したいんだけど、どう応援するのが良いのかが分からないんです」
平山「確かに」
後藤「何が、どういう言葉が人道的なのか…。例えば、子供がいるひとには、まだ影響がよく分からないことなので、避難したほうが良いんじゃないかと言いたい気持ちがありますけど、一方で、戻りたいという人達にどういう言葉をかけて良いかというのは、個人的には凄く悩んでいます」
平山「うん。難しいね…」
後藤「基本的な権利を考えたら、その人が暮らしたいという場所に…、戻ることっていうのは…、他人がとやかく言うことではないのかなっていう気持ちがあるんですけど…。ネットでは、デマに近い煽り方をするようなブログもあったりして…。自分がいろいろな人に会って話を聞いた実感とは乖離しているというか。学者でも意見が割れているようなことなのに…。変な差別感情が立ち上がっていることが残念で」
平山「あるんだよね、そういうの…。デマやバッシングとか。」
後藤「あと、除染したってダメなんだから、皆で移住させろって言う人もいるんですけど…」
平山「そう、それも一理あるんだけど…。20km圏内、全部が全部、年間20ミリシーベルトを超えてるわけではないから。一概にもう、全部ダメっていうわけではないし。でも、住めないなら住めないとはっきり言ってくれた方がいい。中途半端だから皆が苦しんでるという側面もあって」
後藤「除染の難しさは、林業をやっている人の話を聞くと、ちょっと重いですけど…」
平山「林業は、ちょっと厳しいよね…。山なんて、絶対、全て除染とか出来るわけがない。土剥がして、木を切って、どれだけお金と時間かかるの?っていう。」
後藤「放射性物質を回収する形の木質バイオマスとかは可能性がありますけど、すべての土を剥がすのは無理ですよね。福島県は、日本で三番目に面積が大きいですから。せめて居住地域だけでも、線量が落ちると良いんですけど。その後、まだ食べ物の問題がありますけど、他の地域から持って来ても良いし、調べて放射性物質がなければ食べても大丈夫だし。そのあたりが、皆がヒステリックになっている問題が沢山あって…。瓦礫の問題もそうですけど」
平山「食べ物もさ、年間何ベクレルか、基準を下げたでしょう? そうすると、農家の人がそれに反発して…。難しいことになってるよね。基準を上げれば消費者が反発、下げれば農家の人が反発っていう…」
後藤「そうですよね」
平山「スウェーデンの放射線対策の本をチラっと見たけど、福島のひとたちはスウェーデンの人達よりは放射線物質を摂取していないだろうと。食べ物のことは、チェルノブイリ事故時に比べたら、完璧でないまでもほぼ管理されているでしょ。チェルノブイリの場合は汚染されている牛乳とは知らずに子供達がずっと飲み続けたっていうのが一番の内部被爆の原因だから。そういう状況がない以上は、絶対安全とは言えないないけれど、あそこまで酷いとは思えない…。現地の人間として」
後藤「気にし過ぎると、今度はストレスの問題もありますからね。なんかその、抜本的な対策を、果たして国や自治体が取れるのかという不安はありますけどね」
平山「ぶっちゃけ、抜本的な対策は取りようがないんだろうね」
平山「今、富岡でやっているモデル除染にしても、結局、鹿島と日立と三井住友なんかの大手が元請けでやってるんだけど、その下請けはサボったところで仕事の効果がはっきりと分かるわけではないじゃない? 例えば、その仕事をして、その放射線が落ちなかったとしても非難されないでしょう?」
後藤「そうですね。給料が下がったりもしないでしょうね」
平山「そう。だから、そんなにやる気があるわけでもなく」
後藤「僕は、自分の町だったら、むしろ自分で除染作業したいですけどね」
平山「確かに」
後藤「仮設住宅でも思ったりしたんですが、大手のプレハブがワーっと入ったりするんですが、地元の大工でやるより費用が高かったりする。どこが儲かってるんだろうっていう、構造に疑問がある。そういうところだけに潔癖性を求めるのは違うのかもしれないですけどね。早く建てて欲しいという人もいるでしょうから…」
平山「そうなんだよね。数的にも膨大で、あらゆるところから集めないと間に合わなかったっていうね。必然的に、大手にはなるよね」
後藤「本当に、少しずつ進んでいってくれたら…。一番は皆が安心して暮らせるようになっていったら良いんですけど。一年ということを考えると、意外と、そんなに復興が進んでいないんですよね、どこの沿岸部も」
平山「もとあった場所に建てられるか、建てられないか、いわきでさえ決まってないからね。堤防も直してないし」
後藤「あとは、そもそも、まだ解体されていない建物も沢山あるし。何よりも、瓦礫の処理が詰まってしまっているので、そこで止まっているのもありますよね」
平山「うん…。そうだね。瓦礫は受け入れ側の感情というのもあるし…」
後藤「だから、被災地の一年後という取材をしても、くっきりと現状の重さを感じてしまうんですよね。もちろん、いろいろ始まっているところもあるんですけど」
平山「仮設や借上げに入った人にしてみれば、現状維持がずっと続いていると思うんだよね。でも、生活は現状維持でも、精神的にはまいってきてるという…」
後藤「物資の支援についてはどう思いますか?まだ積極的に物資を送ってる人もいるんですけど、そういう人たちに “物資を送るな” という人もいて」
平山「そう。地元の商店との絡みあいもあって、それも凄く難しい。例えば、双葉郡の人達は当面の生活費としての補償金を貰っているわけだから、物やお金がなくて困ってるわけではない。それだったら、もっと北の、宮城県、岩手県、福島の20km圏以北に送ったほうが良いと思う。確実に需要はある。でもやっぱり、送れば送ったで商業的な問題も出てくるから、難しいね…。あと仮設には行き渡るけど、借上げには行き渡らない。そういう不満もよく聞こえるし、それを理由に自治体は受け入れてくれなかったりする」
後藤「地元の富岡、こうしていきたいとか、ビジョンとか、今の段階で言えることはありますか?」
平山「展望、予想としては…、富岡に限らず双葉郡に関しては、当面、原発の収束なり廃炉なりの作業があって、なんらかの経済効果があるのかもしれないけども、長期的に見たら過疎の町になるのは絶対間違いない。だってもう、その土地で産まれて来る子供、命っていうのが、現状では考えられないわけだから。当面は、高齢者と原発の終息・廃炉関係の動きの中で生活していくしかないんだけれども。自分が生きている間は、過疎街道まっしぐらなんじゃないかと思うよ」
後藤「う〜ん…」
平山「町民としては悲しいけれども、もっと広く、福島、日本で全体を見たときには、それはしょうがないなと思うし、ある意味そうなるべきだと思う。そこに無理矢理に人を戻そうとするのは、違うなと。無理矢理戻そうとしても戻らないだろうけどね。町として機能しなくても、合併や廃町があったとしても、そこにいた住民が今後幸せになることの方が大事」
後藤「廃炉まで40年ですか…」
平山「そう言われているね。廃炉と、中間貯蔵施設。中間とは言いながら最終処分になるのは間違いないと思うけれど、日本を救うにはそれしかない。他に持っていきようがないもんね。だって国がさ、30年後に県外で処分なんていったって、誰がどう考えたってありえないでしょ?どこが引き受けてくれるの?って。モンゴル?ロシア? まあ、いろんな説が出てるけど、とりあえずは双葉郡に中間貯蔵施設を作るのは絶対に実現させなければいけない」
後藤「確かに、岩手のほとんど汚染されていない瓦礫での紛糾ぶりを観ると、人々の騒ぎ方を見ると…」
平山「国は県外で最終処分とか、ありえないことを何で最初から言うのかな…。それだったら、地元の人間としたってスパっとここはもうダメだから最終って押し付けられたほうが割り切れるはずだよ。そういう声だって多い。それで東北のガレキを全部受け入れればいい」
後藤「なるほど。胸が痛いです…」
平山「政策が中途半端だから、どうしたらいいのかなって迷ったり考えたりしてしまう。中間貯蔵にしても居住にしてもスパッと決まってしまったら、それはそれで諦めもつくし、それで前にも進める。中間貯蔵施設を拒んでる某町長もいるけども、町民にいい顔だけをして、その一地域だけのことを考えたり個人のわがままを言っていては、世の中先に進まない。県内(に限らず)の学校の校庭に、汚染された土をそのまま置いとくのか、中間貯蔵に集約して子供達の安全を確保するのか。ガレキにしてもそう。双葉郡の人間として悲しい道だとしても、ある意味、日本の未来の為には全て受け入れなければならないと強く思う。決断の時は近いね」