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僕らが選択するエネルギーの未来。 -Thinking about our energy vol.1 part.1

取材・文:鈴木完 撮影:外山亮介

■2/1(水) Part.2公開しました!!→記事はこちら

核廃棄物って捨てるところがないんだっていう驚きがまずありました

鎌仲 「この間、東京の求心力ってすごいなって感じることがあったの。地方の講演会でのことだったんだけど、“被爆しても東京に来たい”なんて言う子がいたの」

後藤 「すごいですね。それは」

鎌仲 「東京はそんなに魅力的なんだろうか? それよりも地域で生きる豊かさをもうちょっと知ってほしいなって思う」

後藤 「そうなんですよね。音楽とかでもみんな東京に集まってきちゃいますからね」

鎌仲 「ねぇ。やっぱりアーティスト達が外にどんどん出て行くっていうのはどうでしょうね(笑)」

後藤 「でもね、ずっと自分の街で音楽を続ける、みたいな人も増えてきてますよ。音楽に関して言えば。別に何処に住んでいても録音ができる時代になってきてますからね」

鎌仲 「そうだよね。あとそこにライフスタイルとかもあって。地方都市のエコビレッジとか、エコタウンとか、そういう感じでおしゃれで暮らしやすそうな感じになるといいね。そういう発信が足りないのかな? それに、今ってエコじゃないわけじゃないですか。これまで全然違う流れの中で生きてきたわけだから。社会の仕組みもそうなってないし、それをいっぺんにひっくり返すわけにもいかないから、その中で格闘していかなくちゃいけないでしょ。たとえば50個、そういった項目があったとしても、結局一個ずつしかひっくり返していけない。その入り交じった混沌とした中で自分たちなりの何かを作っていくことが大事なんじゃないかな。中沢新一(※1)さんが、震災が起きる前、『六ヶ所村ラプソディー(※2)』の頃から『エネルゴロジー』っていう言葉をおっしゃっていて「エネルギーをめぐる人間の在り方を考える」

っていうことかな。今回震災があって、ますますその『エネルゴロジー』っていうのは、人間が言葉を学ぶようにエネルギーについて学ばなきゃならないのに、学ばないできちゃったんじゃないの? みたいな。もうちょっとエネルギーそのものについて考察したり、学んだりするっていう、そういう作業をしたほうがいいじゃないのかなって思わせてくれる」

後藤 「今日は、原発ってなんで危ないの?っていうか、何が問題かっていう話をせっかくだからしましょう。僕は『六ヶ所村ラプソディー』がきっかけだったんです。核廃棄物(※3)って捨てる場所がないんだっていう驚きがまずありました」

鎌仲 「私は『六ヶ所村ラプソディー』を作っておいてよかったなって思ったのは、やっぱり、原発について全然知らなかった人が、あれを観てある程度、なんだかおかしいことがあるらしいぞ〜みたいな。その根本は何なのかということを考えはじめた人達が多少はいたこと。全然そういう人達がいないで今回の事故になっていたら、まっさらな人達は混乱しているだけで、なんかベースになる知識とか思考がある程度準備されていないと、今回のことは、何がなんだか分かんないと思うな」

後藤 「僕はあれがあって原発に興味を持ったから。3月12日の段階で“これは、まずい”と。本当にこれはもしかしたら絶望的なことが起きるかもしれないという恐怖感がありました」

鎌仲 「ホントまずいよね。そういうのがあった人とただボーっとしてた人がいたんだよね。でっかいマスクしてた人もいたしね。そういう認識があるかないか。それはやっぱり教科書の中で原発推進派が言うように“自然界にも放射能があるんだよ。こういう風に何ミリなら大丈夫なんだよ”みたいな。そういうのを小学校の頃から刷り込まれてくると“だって大丈夫なんだろ”みたいな、そこのギャップが今どんどん拡大再生産されているような気がするんだよね」

後藤 「原発を作るだけでもいろんな自治体でいろんな問題が起きるじゃないですか。上関原発とかもそうだし、住民が真っ二つになるようなことに繋がる。そういう問題を積み重ねることに加えて、おおもとの使用済核燃料を最終的に処分する場所がない。それじゃ結論が見つかるわけないじゃんって」

日本は自然エネルギーがたくさんある国だと世界中から思われている

鎌仲 「私ね、こないだ韓国に行ったの。韓国でシンポジウムをしたんです。韓国の高木仁三郎さん(※4)みたいな科学者の方がいて。慶州っていう日本で言うと京都みたいな古都があって、そこに核廃棄物の最終処分地を今作ってるの。その最終処分地は大きな金属のタンクを地中に埋めて、その中に使用済核燃料を埋め捨てていくと。そういう考え方でやってるのね。日本みたいに再処理してないからね、燃料棒そのものを埋めていく。彼がいろんな調査をしてみると、そこには地下水がたくさんあって、地下水がそのタンクを腐食して水が中に侵入していって、燃料棒も錆びて中の放射性物質が溶け出すのに10年かからないって言うの。それを公開質問場で政府に“10年経ったら放射能が漏れますね。どうしますか?”って聞いたら“その通り”って答えたの。韓国は今回の日本の原発事故をチャンスだと思っていて、海外に原発を売ろうと考えている。そのサービスとして使用済核燃料を引き取ると。世界中に売った原発から韓国に使用済核燃料が押し寄せてくるっていう。これはやばい。韓国の若者も単にその事実を知らないっていうよりも、違う情報を刷り込まれていて、すごく厄介になっていると思う」

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後藤 「そういう人達の、原発を動かせっていう話はちょっと置いといて。じゃあ、使用済みの核燃料が毎年山のように出てきますよと。それを最終的に処分する場所がないことをどう説明するのか聞きたいですね。福島第一原発と使用済核燃料って危険性は変わらないわけじゃないですか。もっと簡易的なプールとかに入れられてて、そこからも漏れ出る可能性を考えてしまう。どうしていったらいいですか? 普通にみんなが、若い世代とか、僕らの世代も原発とかってもう要らないだろうって感じてると思うんです。じゃあどこから取り組んで行けば原発がなくなることに力を発揮できるんでしょうか?」

鎌仲 「子供の時にね、未来社会のイメージのお絵描きをさせられたときに、みんななんか原発がある風景みたいな、都会で車が飛んでいたりとか、ハイウェイがグルグルしていて、高層ビルが林立したりとか、その絵の中に森とか湖とか川とか全然存在しないような絵を描くじゃない。でね、最近私が講演会で出会う若い人達は、たとえば“原発技術だって安全なものが開発できるからそっちに希望があるわけで、今ある技術を潰しちゃいけない”とか、“原発を無駄にしちゃいけないとか、原発にも可能性がある”とか、すごい力説をする20代の子が多いの」

後藤 「僕もtwitterなどで、いろんな人に無知だのなんだのよく言われます、原発に反対する話をすると」

鎌仲 「それって、それだけが希望であり可能性だと思い込まされているなかで、今言ったような人達がその原発の技術こそが未来的であって可能性があるって思い込むんじゃなくて。スウェーデンでやってるような地域暖房(※5)を構築するような、ちょっと地道に見えるかもしれないけど、そういう技術こそが実はこれからより必要な技術であって、可能性のある技術なんだっていうふうに、エネルゴロジー的に考えると、そういうふうに発想は転換していくことが大事なんじゃないかな。私は今日話してみて、やっぱりエネルギーに関して言うにしても、切り口としては、はたして私達は選択肢を持っていたのか? って言ったら、選択肢がなかったということがリアルにバレてしまったと思うの」

後藤 「そうですよね」

鎌仲 「じゃあどんな選択肢を新しく作っていこうかって、その過渡期のなかで、新しい選択肢に関して、今は混沌として情報が錯綜している。そのなかでガセネタがいっぱいあって、古いままの古い考え方もまだ生き延びていて、そのなかで未来って切り口で言うならば、どんな選択肢を私達が作っていくのかっていうそういう提案でしょ」

後藤 「そうですね。同時に、過去とかも見つつ、どういう間違いをしてきたのか。それを見ていくのも未来に繋がると思います」

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鎌仲 「でも選択肢がなかったと気がつきながらも、本当は選択肢の芽はあるのよね。そこに光を当ててみるって必要なんじゃないのかな」

後藤 「僕もそう思います」

鎌仲 「たとえば日本はこんなにも自然エネルギーがたくさんある国だと。世界中の自然エネルギーをやってる人達は、日本ってすごく自然エネルギーがあるよってみんな思ってますよね」

後藤 「そうですよね。もともと僕の心の中には反原発って想いがあるんですけど、それを露骨に言わずに、ただ反対するだけにならずに、どうやって色々な人達に原発以外のエネルギーの可能性に興味を持ってもらうか」

鎌仲 「そのコミュニティの構築。自分たちの暮らしをひとつの大きなコミュニティの中でどういうふうに未来像を描いていくかっていうひとつの選択なんだよね。じゃあ最初の話に出た地方に住んでいる被爆をしても東京に住みたいって女の子達の選択もあれば、そうじゃなくてなんか違う選択をしよう。自分達はここで何かを作るっていう選択もあるわけでしょ」

後藤 「そうなんです。たとえばバイオガス(※6)ひとつとってもそうだし、知らないことはたくさんある。たとえば僕の地元の島田市の大井川農業用水の水量が豊富で、地元の農家の電力を全部まかなえそうな小型の水力発電の工事がはじまるとか。そういう明るい情報をこの新聞に載せながら、エネルギーについて関心を高めてほしいと思うんです。基本的には一人ひとりの意識が変わらなかったら、社会は変わらないですから」

■注釈

※1[中沢新一]

宗教学者・人類学者・思想家。多摩美術大学美術学部教授・芸術人類学研究所所長、明治大学野生の科学研究所所長。東京大学大学院へ入学後、ネパールに渡りチベット仏教の修行に入る。帰国後、ネパールでの経験を元に1983年『チベットのモーツァルト』を発表。その後、宗教学、神話学、人類学、哲学、芸術学ばかりでなく、自然科学や社会科学などユニークなスタイルで執筆活動を続ける。92年『森のバロック』、97年『ポケットの中の野生 』、05年『アースダイバー』など、その後も数々の著書を発表している。

※2[六ヶ所村ラプソディー]

鎌仲ひとみ監督によるドキュメンタリー映画。2004年、青森県六ヶ所村に完成した核燃料再処理工場は使用済核燃料を集め再処理しウランやプルトニウムを取り出すための工場。この施設が稼働すれば通常の原発が一年間に排出する放射性物質をたった一日で排出することになる。映画はこの核再処理工場への不安から反対する人達と、経済的理由から再処理工場を受け入れる人たちのそれぞれの選択を見つめている。

※3[核廃棄物]

放射性廃棄物・放射能廃棄物・核関連廃棄物・核廃棄物・核のごみ。放射性物質を含む廃棄物の総称。主に、原子力発電所および核燃料製造施設、実験施設や病院の検査部門から出るガンマ線源の廃棄等で排出される。特に高レベル放射性廃棄物は超長期(半減期が数万年以上の核種も含む)に渡り強烈な放射線を発し続ける。表面の放射線量は製造時で14,000シーベルト/時。30年後には500シーベルト/時になるらしいが、どちらにしても100シーベルト以上で即死である。核廃棄物は捨ててはならない危険な代物。

※4[高木仁三郎]

物理学者・理学博士(東京大学)。 専門は核化学であり、政府の原子力政策について自由な見地からの分析・提言を行うために、原子力業界から独立したシンクタンク『原子力資料情報室』を設立。代表を務めた。原子力発電の持続不可能性、プルトニウムの危険性などについて、専門家の立場から警告を続けた。特に、地震の際の津波による原発の危険性を予見し地震時の対策の必要性を訴えたほか、脱原発を唱え、脱原子力運動を象徴する人物でもあった。『市民科学者として生きる』ほか著書も多数ある。2000年死去。

※5[地域暖房]

町または市内の一部で暖房を提供する技術システム。 発電所で熱が作られ、それが配管システムを通って、温水またはスチームのかたちで消費者に送られる。大抵は熱需要が高く、消費者がかなり近接している場所で利用されるため、地域暖房ネットワークは寒い国々の町で見ることができる。伝統と技術発展のおかげで、地域暖房の使用率が高いのは北欧、東欧、ロシア。日本で地域暖房が利用されている地域もある。

※6[バイオガス]

再生可能エネルギーであるバイオマスのひとつ。有機性廃棄物(生ゴミ等)や家畜の糞尿などを発酵させて得られる可燃性ガス。発生したメタンをそのまま利用したり、燃焼させて電力などのエネルギーを得たりする。バイオガスは非枯渇性の再生可能資源であり、カーボンニュートラル。欧州の酪農国では80年代末から家畜糞尿の処理を目的として取り組まれてきたが、近年では化石燃料に替わるエネルギー源としての活用が地球温暖化防止対策に有効であり、廃棄物処理の観点以上に注目されてきている。
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鎌仲ひとみ

鎌仲ひとみ(かまなか・ひとみ)

大学卒業と同時にフリーの助監督としてドキュメンタリー映像の現場へ。初めての自主制作をバリ島を舞台に制作した。その後カナダ国立映画製作所へ文化庁の助成をうけて滞在し、カナダの作家と共同制作。NYではメディア・アクティビスト集団ペーパータイガーに参加。1995年に帰国後、NHKで医療、経済、環境をテーマに番組を多数制作。98年、イラク取材をきっかけに『ヒバクシャー世界の終わりに』を監督、その後日本の原子力産業の内実を描いた『六ヶ所村ラプソディー』を監督し全国650カ所で自主上映された。
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エネルギーの未来をテーマにしたドキュメンタリー映画『ミツバチの羽音と地球の回転』が、3.11より以前に作られていることに意義があると賞され、2011年 石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞 文化貢献部門 奨励賞を授賞した。

■映画『ミツバチの羽音と地球の回転』
 オフィシャルサイト


飯田哲也

飯田哲也(いいだ・てつなり)

京都大学工学部原子核工学科、東京大学大学院先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。NPO法人環境エネルギー政策研究所所長、(株)日本総合研究所主任研究員、ルンド大学(スウェーデン)客員研究員。自然エネルギー政策を筆頭に、市民風車やグリーン電力など日本の自然エネルギー市場における先駆者かつイノベータとして、国内外で活躍。主著に『北欧のエネルギーデモクラシー』、共著に『自然エネルギー市場』、『光と風と森が拓く未来―自然エネルギー促進法』他多数。

iida_img 最新作は、太陽光、風力、水力、地熱、潮力、バイオマス、スマーグリットを組み合わせて100%自然エネルギーの実現に向かうことをテーマにした、再生可能エネルギーと低エネルギー生活のバイブル『1億3000万人の自然エネルギー』(講談社)。