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TOSHI-LOW×後藤正文

震災を経て、人々の意識が社会に向いている今。様々な分野で活動する人々の声が集まった、実際に手に取れるメディアを作りたい――「THE FUTURE TIMES」は、そんな思いから生まれた新聞です。被災地復興に向けて、いち早く被災地に駆けつけ、今も支援活動を続けるTOSHI-LOWさん。現地での状況を目の当たりにし、“今生きるている”ということを見つめなおしたTOSHI-LOWさんが見つめる未来とは?

構成/文:石井恵梨子 写真:三吉ツカサ

TOSHI-LOW「未来について考えるためには、過去について考えたほうがいいと思っていて。よく言われる話だけど、自分の婆ちゃんがいなければ、母ちゃんは生まれてないし自分もいないわけじゃん。っていうのをたかが3代や6代くらい遡っちゃえば、明治や江戸にまで行くからね。もう何百年と人間がどんなふうに繋がってきたのか。それを自分の一番近いとこから考えるだけで、今度は自分の子供、孫ぐらいまで、100年後まで想像できちゃうでしょ。だから簡単なの。もし自分の婆ちゃんが生きているなら、どういう生まれでどこから来たかとか、聞いてみたらいいんじゃないかな。婆ちゃんの婆ちゃんがどこの生まれの人だったとか、案外知らない人が多いと思う」

後藤「あぁ、そうかもしれないですね」

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TOSHI-LOW「普通に聞いてみたらいいよ。意外な人と親戚でびっくりしたりするもんね。もちろんこういうのって、自分が子供を持ってみるまでわからなかった。別に子供を持てっていう話をしたいわけじゃないよ。でも、子供を持たせてもらったら、今度は自分が未来に繋ぐものも見えるし、未来に繋いできてもらった自分の過去も感じられるようになって。子孫を残す前に誰かひとりでも死んでたら、自分は絶対にいない。それってゾッとするような運命の確率じゃない。それが原始時代から……何億年前から続いてる。何なんだろう? って思うよね。これは運命論とか宗教みたいな話ではなくて、単純に、自分の親がいることと地続きの感覚で考えられることじゃないかなと思うんだけど」

後藤「100年後とか、どうなってると思いますか?」

TOSHI-LOW「曾孫に喧嘩とか負けたくないね(笑)。『おいジジィ!』とか言われたら『てめぇ、こらぁ!』って。あと、柿を持ってく子供たちを怒りたいとか。……137歳だけどね、100年後って(笑)」

後藤「それでもパンクスとして現役(笑)」

TOSHI-LOW「でも俺さ、未来って実は考えたことなくて」

後藤「あ、そうですか?」

TOSHI-LOW「ほんとに今しか考えてない、っていう感覚が30何年続いてる。不確かな明日のことなんて正直どうでもよくて。でも、やっぱり今日1日ちゃんと生ききれたなって思う日は明日につながると思ってる。それを後回しにしたり他人事にしてしまうことが、未来のためにならないんじゃないかと思っていて。誰かがやってくれるだろう、今日はこの程度でいいだろうって言い続けても……結局やらないじゃん。自分が三日坊主だからよくわかるけど、明日やろうと思ったことを本当にやったことって実はあんまりなくて。震災を機に、俺はそれをよけい強く感じるようになったけど、今日思ったこと、今日やりたいと思ったこと――それは誰かとしゃべろうとか、メール返そう、みたいなことでもいいんだけど、“今日”っていうのを強く思うようになったかな。じゃないと後悔しちゃうような気がして。たとえば子供を保育園に送るとき、あの日、この子がもう帰ってこないと想像した親なんて少ないと思うんだ。今となってだけど、あの時にちゃんとお別れしたかったなって後悔してる人は本当にいっぱいいると思う。『ただいま』の意味も今となってわかるじゃない。でもその危険性って、日本のどこであっても変わらないんだよね。自分の家族とか自分の恋人に、別れ際に『行ってらっしゃい』とか『さよなら』ってちゃんと言えるだけで、未来が変わるんじゃないかと思う。今までの日本には、普段の生活で死を思うことができなかった人がすごい割合でいたと思うから」

後藤「死っていうもの、もちろんわかってはいたけど、ここまで唐突に訪れるものだとは想像してなかったです」

TOSHI-LOW「タブーにしちゃうじゃん、最近の論調って。起こってほしくないことは全部タブーにしちゃう」

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後藤「今回の震災でも、遺体の写真は日本のメディアに載らないんですよね。NYタイムスで埋葬の写真見たけど、あれが一番こころに刺さるっていうか……全然違う」

TOSHI-LOW「そうだよね。見たくないもの、起こってほしくないことを、ずーっとタブー視してきちゃった。で、結局それが起こった時に<想定外>とかバカみたいな言葉が出てくるわけじゃん。『安全です、絶対安全です』って言ってたのもおかしいけど、言われたほうもなんでそれを疑わなかったのかって。それは起きてほしくないから想像しない、疑わない。思想する能力を遮断しちゃってたわけだよね」

後藤「そうですよね。そして無関心になっちゃうとか」

TOSHI-LOW「うん。そういう思想の停止がずーっと続いてたけど、よく考えたら絶対なんて世の中にあるわけがないでしょ。簡単なことなんだよ。そこを疑えば良かったのに、起きてほしくないから見ません、考えません。そういうのって何にでも当てはまるんだけど、一番身近なのが死だと思う。まず自分が死にたくない、子供とか親にも死んでもらいたくはない。でも100%人は死ぬんだって。これ偉人の綾小路きみまろさんが言ってたんだけど(笑)、人の致死率は100%だと。100%死ぬんだから、タブー視しないことだよね。特に表現をしてる人がさ、今から“大丈夫だ、人は死なないぜ”って歌うのはもう無理じゃん。みんな見ちゃったんだから。表現を志してる人、自分の人生を賭けて何かを作りたいと思う人は、起こるすべてのことを考えたうえで表現していかなければ、もうきっと人の心は動かせない時代になると思う」

後藤「うん、いいですね、そういうの」

TOSHI-LOW「だから結局、死と未来、なんだと思う。死ぬことと未来って矛盾してると今の世の中では言われそうだけど。でも、死を思うから、死があって終わりがあるってことを想像できるから、次を考えることができる。永遠にダラダラ続くんであれば、今日やんなくていいじゃん、明日やればいいじゃんってことになるわけで。明日じゃ間に合わないから今日なんだよ、ってことを考えていけば、未来は繋がっていくんじゃないかな」

(2011.8.17)
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TOSHI-LOW

BRAHMAN/OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUNDのボーカル。オリジナル作としては、約3年半ぶりとなるBRAHMANのニュー・シングル『霹靂』を9/7(水)にリリース。同作を携えた『2011 TOUR 「霹靂」』を10/8(土)沖縄ミュージックタウン音市場からスタートさせる。またOVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND 主催『New Acoustic Camp 2011』を10/15(土)、16(日)道志の森キャンプ場(山梨県道志村)で開催。